感性解析AIを開発するSENSY株式会社は、食品スーパーマーケットチェーンの株式会社ベルクにおいて、AIによる店舗開発支援サービス「SENSY GeoScope」の本格運用を開始したと2026年9月7日に発表した。あわせて、出店候補地の売上予測や商圏分析を経営判断に使いやすい形で整理する「新AIレポート」と、条件変更による売上影響を比較できる「シナリオシミュレーション」機能を新たにリリースしている。
背景にあるのは、出店投資の重さだ。小売業における店舗開発は将来の売上と収益を左右する経営判断だが、出店候補地の評価には商圏人口、競合店舗、道路や駐車場の条件、売場面積、地域特性など多くの要素が関係する。従来は担当者の経験や外部調査に依存する部分が大きい領域だった。加えて近年は建築費や土地価格の上昇、人手不足、競争環境の変化により、新規出店や改装に伴う投資判断の重要性が一層高まっている。
SENSY GeoScopeは、地図上で出店候補地を指定すると、AIが店舗フォーマット、商圏特性、競合状況、類似店舗との比較などを分析して売上を予測するサービスだ。自社のPOSデータを用いた既存店分析に、商圏データ、競合店舗データ、人口・世帯データなどを組み合わせ、各企業の店舗特性に合わせた予測モデルを構築する。一般的な商圏分析にとどまらず、自社の店舗がその立地でどの程度の売上を見込めるかを予測することを目指したものだという。
両社の共同開発では、店舗開発部門の実務上の判断ポイントを反映しながらAIモデルとレポート機能の改善を続けてきた。検証対象においては、予測誤差率が中央値で7%台となる水準まで改善が進んでいるとしている。
新機能の1つ目である新AIレポートは、売上予測の結果に加えて、商圏人口、将来人口推計、競合店舗、類似店舗、立地条件などの情報を自動生成するものだ。従来、店舗開発の会議資料は多くのページ数を要し、意思決定者が必要な情報を把握するまでに時間がかかるケースがあった。新レポートでは、なぜこの候補地なのか、どのようなリスクや機会があるのかを直感的に理解できるよう情報を集約する。店舗開発担当者、経営層、関連部門が同じ前提情報をもとに議論しやすくなることを狙っている。
2つ目のシナリオシミュレーションでは、売場面積、駐車台数、駐車場のタイプ、併設テナント、営業時間といった条件を変更した場合や、競合店舗の新規出店や撤退を想定した場合に、AIが推定売上への影響を比較する。別業態の併設テナントを設けた場合や駐車場条件を変えた場合など、複数の出店シナリオを比較でき、単一の売上予測にとどまらない意思決定支援が可能になるという。今後は限界賃料、投資回収、ROIといった観点も含めた機能拡張を進める方針だ。
両社の取り組みは、需要予測と発注最適化の領域から始まった。2023年頃より店舗開発領域でのAI活用の研究開発を共同で進め、2024年秋以降のトライアル運用を経て、現在はベルクの店舗開発業務における出店候補地の初期評価、売上予測、商圏・競合分析の支援ツールとして活用されている。外部調査や現地確認、担当者の経験と組み合わせることで、出店判断の客観性と再現性を高めることを目指すとしている。
注目したいのは、AIの位置づけについての考え方だ。SENSYの渡辺祐樹代表取締役CEOはコメントのなかで、店舗開発の判断には多くの要素が絡み、担当者の経験や現地感覚が重要であるからこそ、AIが一方的に答えを出すのではなく、現場の知見を補完して経営判断に使える形で情報を整理することが重要だと述べている。既存の店舗開発担当者を置き換えるのではなく、判断材料を揃える役割に徹するという姿勢だ。
出店の失敗は、店舗ビジネスにおいて最も高くつく判断ミスのひとつだ。用地の取得や賃借、内装、什器、採用と、開店前に相当額を投じたうえで、想定した売上に届かなければ回収の見込みが立たなくなる。予測誤差率という指標が示されているのは、その判断精度をどこまで詰められるかという問いに、数字で答えようとしているためだろう。
なお、GeoScopeで得られるデータや分析結果は、将来的に既存店分析、カテゴリー戦略、発注や販促、マーケティングなど、店舗運営全体の高度化にも活用できる可能性があるとしている。出店判断のために整備したデータ基盤が、既存店の運営にも波及していく構図といえる。本リリースにあわせて、ベルクのデジタル推進室室長と店舗開発部課長への導入事例インタビューも公開されている。