ワタミ株式会社の冷凍惣菜宅配事業「ワタミの宅食ダイレクト」は、水産庁が令和8年7月に開始した「魅了ギョ・プロジェクト」に参画したと2026年8月7日に発表した。プロジェクト第1弾の取り組みとして、昨年から扱ってきた千葉県勝浦市産のブダイを使用したメニューを紹介している。
「魅了ギョ・プロジェクト」は、「さかなの日」の新たな取り組みとして水産庁が進める官民連携プロジェクトだ。低・未利用魚を含め、まだ十分に知られていない魚のおいしさや魅力を発信し、消費者が新しい魚と出会う機会をつくることを目的としている。産地から流通、加工、小売、外食まで幅広い事業者が連携し、水産資源の持続的な利用につなげる狙いがある。
背景にあるのは、漁獲される魚種の変化だ。近年の海洋環境の変化により、産地で水揚げされる魚種や漁獲時期にも変化が生じている。そのなかには、おいしさを持ちながら十分に利用されていない魚も多く存在している。水産庁は、こうした魚の価値向上を図ることで、水産資源の有効活用と地域漁業の活性化を目指している。
ワタミが商品化したブダイは、その典型例といえる。ブダイはアワビやサザエなどの重要な餌場となる藻場を食べてしまい、磯焼けを発生させる原因になっていた。駆除されたブダイは市場価値が低く、捨てられていたという。同社はこれを、漁業の持続可能性と地域経済の活性化を両立する取り組みとして商品化した。
商品名は「勝浦のブダイの煮付け」で、2025年に発売された。新勝浦市漁業協同組合、株式会社西川、千葉県勝浦水産事務所の協力のもとで実現したものだ。2026年度の再販は10月を予定している。販売方法は、「いつでも三菜」の選べるセットのなかから選ぶ形で、定期と都度のどちらにも対応する。10食を自分で選んで注文する仕組みで、定期便の場合は7日、14日、28日の間隔から届ける頻度を選べる。
「ワタミの宅食ダイレクト」は、いつでも食べられる「ちゃんと家ごはん」をコンセプトに掲げる冷凍惣菜のサービスだ。専任の管理栄養士が塩分、カロリー、食材数に配慮して設計したワンプレートの冷凍惣菜を届けており、原料にもこだわって生産者の思いが詰まった国産食材を積極的に使用している。幅広い世代に利用されているという。
未利用魚の商品化という点で、冷凍惣菜という形態は相性がよい。鮮魚として店頭に並べる場合、消費者にとってなじみのない魚は調理法が分からず手が伸びにくい。調理済みの状態で届けば、その障壁がなくなる。煮付けという定番の調理法を選んでいる点も、初めて食べる魚への抵抗を下げる工夫といえる。
小売や外食の視点で見ると、この事例には応用の余地がある。低・未利用魚は、市場価値が低いために産地で扱われないまま残っているケースが多い。裏を返せば、仕入価格を抑えながら差別化した商品を作れる可能性がある素材でもある。仕入価格の高止まりが続くなかで、原価と話題性の両方に効く選択肢になりうる。
ただし、扱うには条件がある。安定した供給量が確保できるか、下処理や調理法が確立しているか、そして消費者に説明できる物語があるか。ワタミの事例では、磯焼けの原因となる魚を食べることが藻場の保全につながるという因果関係がはっきりしており、食べる理由を説明しやすい構造になっている。単に珍しい魚を売るのではなく、なぜその魚なのかを伝えられるかどうかが分かれ目になりそうだ。
産地との連携体制も参考になる。今回の商品化には、漁協、加工事業者、県の水産事務所が関わっている。低・未利用魚の商品化は1社では完結しにくく、産地側の協力が前提になる。官民連携のプロジェクトという枠組みは、そうした連携先を見つける入口としても機能しうる。
魚食をめぐる状況も追い風だ。健康志向の高まりから魚への関心は再び強まっている一方で、家庭で食べられる魚種はサケやサバなどに偏る傾向が指摘されてきた。売場に並ぶ魚が限られていることが、その偏りを固定してきた面もある。プロジェクトが小売や外食まで巻き込む形になっているのは、供給側から選択肢を増やさないと状況が変わらないという認識があるためだろう。
ワタミは、本プロジェクトへの参画を通じて、全国の顧客にまだ知られていない魚のおいしさを届けるとともに、日本の豊かな水産資源の持続的な利用に貢献するとしている。