株式会社富士薬品は、埼玉県鴻巣市と「地方創生に関する包括連携協定」を2026年9月11日に締結した。配置薬販売の事業活動を通じた協定としては55例目、埼玉県内では16例目となる。同日、鴻巣市役所で締結式が行われた。
小売の視点で押さえておきたいのが、店舗が自治体との連携でどんな役割を担えるかという点だ。協定は7項目で構成されているが、そのうち複数が既存の店舗網と営業活動をそのまま資源として使う内容になっている。
1つ目が、店舗のクーリングシェルター化だ。熱中症特別警戒アラートが発表された際の避難場所として、同社が鴻巣市内で運営するドラッグストアと調剤薬局の2店舗に、指定暑熱避難施設を開設すべく準備を進める。冷房の効いた空間を日中開けている店舗は、それ自体が避難先になりうる。追加の設備投資を伴わずに地域の役に立てる形として、参考になる取り組みといえる。
2つ目が、営業員の訪問活動を見守りと情報発信に活用する点である。同社の配置薬事業では、契約者のもとを営業員が定期的に訪問する仕組みを持つ。この機会を使って、市が作成した防災や消費者トラブル防止のチラシを直接配布する。高齢者宅を訪問した際には、声掛けや困りごとの相談対応も行うという。
配置薬の営業員は、厚生労働省の定めにより原則として登録販売者の資格を有している。この専門知識を生かし、OTC医薬品の適正使用や、生活習慣病、熱中症など季節ごとの疾患予防に関する啓発を行うとした。資格を持つ人材が定期的に家庭を訪問しているという構造は、他の業態にはない強みだ。
災害時の対応も明記されている。平常時から市の公共施設への配置薬の設置を支援し、災害が発生した際にはこれを防災用救急箱として無償化する。中長期で避難所が開設される場合は、市の要請に応じて避難所へ医薬品を無償提供することを協議するという。
このほか、子育て支援や青少年育成に関する取り組みの周知、市内店舗でのポスターやチラシの掲示による観光やイベント情報の発信なども盛り込まれた。店舗の掲示スペースを地域情報の発信に使うという形は、規模を問わず実施しやすい。
背景として同社が挙げているのは、鴻巣市内で家庭と企業を合わせて約3,500軒の顧客に配置薬を使ってもらっているという実績だ。一軒一軒訪問するという営業スタイルが市の取り組みに役立つと考え、締結に至ったとしている。
自治体との包括連携協定は、近年多くの小売業が結んでいる。ただ、協定を結ぶこと自体が目的化すると形だけの取り組みに終わる。今回の内容が具体的なのは、既存の事業活動のなかで無理なく続けられることを並べているためだろう。店舗の空間、定期訪問の機会、有資格者の存在という3つを、そのまま地域課題に当てている。
同社は1930年に富山県富山市で配置薬販売業として創業し、現在はドラッグストア「セイムス」ブランドを中心に全国1,285店を展開している。店舗数は2026年3月末時点の数字だ。