小売・外食業界では、人手不足が続くなか、店舗運営だけでなくバックオフィス業務の効率化も大きな経営課題となっている。
シフト管理、在庫管理、人事・労務、発注、勤怠、経理――。
店舗を支える業務は多岐にわたり、紙やExcel、既存システムなど複数の手段が混在している企業も少なくない。
Store Guideが実施した「小売・外食 バックオフィス実態調査2026」では、小売・外食業界におけるバックオフィス業務の課題やデジタル化の進捗、今後効率化したい業務、生成AIへの期待などについて調査した。
調査結果から浮かび上がったのは、単純な「システム導入」だけでは解決できないバックオフィス改革の現在地だ。
バックオフィスの課題1位は「シフト管理」
現在、課題を感じているバックオフィス業務について尋ねたところ、最も多かったのが「シフト管理」で20.3%だった。
続いて「在庫管理」18.9%、「人事評価・人材管理」18.6%、「発注・仕入管理」16.6%、「勤怠管理」14.9%となった。
上位に並んだのは、いずれも店舗運営との距離が近い業務だ。
小売・外食では、本部だけで業務が完結するわけではない。店舗ごとにスタッフの勤務状況や在庫、発注などを管理し、それらの情報を本部側で集約する必要がある。
店舗数が増えるほど情報量や関係者も増えやすく、店舗と本部の情報連携そのものがバックオフィスの負担につながっている可能性がある。
「人手不足」と「業務量」が同時にバックオフィスを圧迫
具体的な問題について見ると、「人手が不足している」が24.9%で最多。「業務量が多い」も24.6%とほぼ同水準だった。
さらに「手入力・転記作業が多い」16.9%、「紙の書類が多い」16.3%、「システムが使いにくい」12.9%と続いている。
ここから見えてくるのは、
「人が足りないから忙しい」
という問題だけではない。
限られた人員で大量の業務を処理しなければならない一方、手入力や転記、紙を使った処理などが残っていることで、さらに業務負荷が高まっているという構造だ。
採用によって人員を増やすだけではなく、「現在行っている作業そのものを減らせないか」という視点が、今後ますます重要になりそうだ。
DX・システム化が「あまり/ほとんど進んでいない」は34.0%
デジタル化・システム化の進展度については、「ほぼすべて/多くの業務で進んでいる」が22.0%、「一部の業務で進んでいる」が29.4%だった。
一方、「あまり/ほとんど進んでいない」は34.0%。「わからない」も14.6%となった。
つまり、一定のデジタル化が進む企業が存在する一方で、十分に進展していない企業も依然として少なくない。
重要なのは、単純なシステムの有無ではなく、業務全体をどうつなげているかだ。
勤怠はシステム化していても、シフト作成はExcel。在庫データは存在していても、発注時には別システムへ入力する――。
こうした「部分的なデジタル化」では、システム間をつなぐための人手が必要になり、現場の業務負担を十分に減らせないケースも考えられる。
今後効率化したい業務、1位は「データ入力・転記」
では、小売・外食企業は今後どの業務を効率化・自動化したいと考えているのか。
最も多かったのが「データ入力・転記」の18.9%だった。
以下、「売上・経営データ集計・分析」17.7%、「勤怠管理」17.4%、「シフト管理」17.4%、「人事・労務管理」14.3%と続いた。
ここでも、日常的に発生する定型業務へのニーズが目立つ。
高度なDXに取り組む前に、
「入力を減らす」
「転記をなくす」
「集計を自動化する」
といった身近な業務改善から着手することが、バックオフィスDXの現実的な第一歩になりそうだ。
生成AIへの期待は「売上・経営データ分析」がトップ
今回の調査では、生成AI・AIをどのようなバックオフィス業務で活用したいかについても聞いた。
最も期待が高かったのは「売上・経営データの分析」で21.4%。
続いて「データ入力・整理」17.7%、「レポート・資料作成」15.7%、「マニュアル・社内文書の作成・検索」14.6%、「勤怠管理」13.1%、「シフト作成」12.9%となった。
生成AIというと、文章生成やチャットボットなどが注目されがちだ。
しかし、小売・外食企業が期待しているのは、それだけではない。
店舗や本部に蓄積されたデータを整理し、分析し、レポートとしてアウトプットする――。
こうした「データを使える状態に変える」領域にもAI活用への期待が広がっている。
「効率化ニーズ×AI期待」で見える有望領域
調査では、「効率化・自動化したい業務」と「AIへの期待」を掛け合わせた分析も行った。
その結果、AIへの期待が特に高かったのは「売上・経営データ分析」21.4%、「データ入力・転記管理」17.7%、「資料・レポート作成」15.7%、「勤怠管理」13.1%だった。
特に「売上・経営データ分析」は、効率化ニーズとAIへの期待の双方が高い。
POSや店舗別売上、商品データ、人員配置など、小売・外食企業にはすでに大量のデータが存在する。
今後は「データを集めるDX」から、そのデータを分析し、経営や店舗運営の意思決定につなげる「データを使うDX」へとテーマが移っていく可能性がある。
小売と外食では、バックオフィス課題にも違い
業態別に見ると、小売と外食で課題の現れ方に違いが見られた。
例えば「店舗からの情報収集に時間がかかる」は、小売5.7%に対して外食・飲食14.1%。
「手入力・転記作業が多い」は小売15.5%に対して外食・飲食21.2%、「人手が不足している」は小売23.8%に対して外食・飲食28.2%だった。
外食では、店舗から本部への情報収集や手入力・転記、人手不足といった課題が相対的に強く表れている。
同じバックオフィスDXでも、小売と外食で一律に考えるのではなく、それぞれの店舗運営や業務フローに合わせて設計する必要がありそうだ。
現場が「なくしたい仕事」は入力だけではない
自由回答も興味深い。
「なくしたい」「効率化したい」業務として挙げられたキーワードを見ると、「シフト」15件、「書類」14件、「紙」14件、「入力」13件、「勤怠」9件、「経費」7件などが目立った。
さらに別の自由回答分析では、「紙・手入力・転記」が33件、「集計・レポート・分析」が31件、「シフト・勤怠」が24件、「経理・請求・精算」と「発注・在庫・仕入」がそれぞれ17件となっている。
つまり、現場が求めているのは単純に「入力作業を自動化すること」だけではない。
情報を入力し、集め、集計し、判断する――という一連の業務プロセスそのものを短くしたいというニーズが見えてくる。
バックオフィス改革は「現状把握→優先領域→標準化→AI活用」へ
今回の調査結果から、小売・外食企業がバックオフィス改革を進める際には、4つのステップが考えられる。
まずは、紙・Excel・転記・店舗報告など、現在どのような業務がどこで発生しているのかを把握する。
次に、シフト、勤怠、在庫、発注、データ入力・集計など、負担の大きい領域から優先順位をつける。
そのうえで店舗ごとに異なる入力項目や業務フロー、報告フォーマットなどを標準化する。
そして最後に、データ整理、分析、レポート化、問い合わせ対応など、AIを活用できる領域を段階的に広げていく。
調査資料でも、「現状把握→優先領域→標準化→AI活用」という流れがバックオフィス改革の進め方として整理されている。 小売・外食業界「バックオフィス実態調査2026]
人手不足時代、バックオフィスDXは「店舗経営」のテーマへ
小売・外食業界のバックオフィス改革は、単なる本部業務の効率化ではなくなりつつある。
人手不足が続くなか、シフト作成や勤怠管理、発注、データ入力、集計、報告書作成などに費やしている時間を減らせれば、店舗スタッフや管理職が、接客、売場づくり、人材育成、商品・サービス改善など、本来注力すべき業務に時間を振り向けやすくなる。
今回の調査から見えてきたのは、「大規模なDXから始めなければならない」という姿ではない。
紙やExcelへの入力、転記、集計、レポート作成といった日々の業務を一つずつ見直し、データがつながる状態をつくる。その先に、AIによる分析や資料作成、意思決定支援を組み合わせていく。
バックオフィスを「コストを削減するための領域」としてだけでなく、「店舗と本部の生産性を高める経営基盤」として捉え直すことが、小売・外食企業の次のDXテーマになりそうだ。