2027年4月1日から2年間、飲食料品にかかる消費税率が8%から1%に下がる見通しです。2026年9月15日に政府が大綱を閣議決定し、関連法案は秋の臨時国会に提出される予定です。
「食品が安くなるなら店にとってもプラス」と考えがちですが、実務の影響は業態で正反対です。店内飲食が中心の飲食店は納める消費税が増えやすく、食品スーパーは還付になりやすくなります。さらに、届出の期限を逃すと特例を使えない、値札やレジの切替を誤ると表示ルール違反になる、といった「知らないと損をする」論点が多くあります。
この記事では、小売・外食の店舗運営者と経理担当者に向けて、制度の中身、業態別の影響、税務上の注意点、施行までにやるべきことを整理します。
本記事は2026年9月26日時点の大綱・国税庁資料に基づきます。法案は未成立のため、今後の国会審議で内容が変わる可能性があります。
食品消費税1%の概要
対象は現行の軽減税率(8%)とまったく同じ品目で、期間は2027年4月1日〜2029年3月31日の2年間です。2029年4月以降は8%に戻ります。
| 区分 | 現行 | 2027年4月〜2029年3月 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 飲食料品 | 8% | 1%(国税0.78%+地方0.22%) | 食品販売、テイクアウト、出前・宅配 |
| 新聞(定期購読) | 8% | 8%(据置き) | 週2回以上発行の定期購読 |
| 標準税率 | 10% | 10% | 店内飲食、ケータリング、酒類、日用品 |
決定状況は次のとおりです。
- 2026年7月30日:政府が方針を表明
- 2026年9月15日:「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定。同日、国税庁がQ&Aと特設サイトを公開
- 2026年秋:臨時国会に法案を提出し、年内成立を目指す方針
日本酒やビールなどの酒類は引き続き10%です。おまけ付き菓子などの「一体資産」は、税抜1万円以下かつ食品の価格割合が3分の2以上なら1%という現行ルールがそのまま使われます。
外食業への影響:店内10%と持ち帰り1%の「9ポイント差」
外食の店内飲食は10%のまま据え置かれ、テイクアウトと出前・宅配だけが1%になります。税抜1,000円の弁当なら、店内1,100円に対して持ち帰り1,010円と、お客様の支払額に90円の差が出ます。
納める消費税はむしろ増える
本則課税の飲食店では、仕入れ(食材)の税率だけが下がり、売上(店内飲食)の税率は10%のままです。仕入税額控除が減るため、納付税額が増えます。
| 項目(税抜・年額) | 金額 | 現行の消費税 | 2027年4月以降 |
|---|---|---|---|
| 売上(店内飲食) | 4,000万円 | 400万円 | 400万円 |
| 食材仕入 | 1,600万円 | ▲128万円(8%) | ▲16万円(1%) |
| 家賃・光熱費など | 1,200万円 | ▲120万円(10%) | ▲120万円(10%) |
| 納付税額 | 152万円 | 264万円(+112万円) |
仕入先が税込価格を据え置けば、税抜の仕入原価はそのまま上がります。「仕入れが1%になるから9%もうかる」という理解は誤りです。
一方、簡易課税(第4種・みなし仕入率60%)なら納付税額は400万円×40%=160万円で、食材の税率に左右されません。基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税への切替が有力な選択肢になります。
価格・販売戦略の見直し
- テイクアウト需要の増加を見込み、持ち帰りメニューや容器、受け渡し導線を整える
- 「店内」「持ち帰り」の意思確認を注文時に徹底する(会計後の変更ルールも決めておく)
- 宅配アプリ経由の売上は、料理代1%と配達・サービス手数料10%を区分できるか確認する
- 社員食堂、コンビニのイートインは10%のまま。セルフ型店舗は掲示で確認を促す
店内と持ち帰りを同じ税込価格にそろえる場合は、税抜価格を分けて設定する必要があり、結果的に持ち帰りの利益率が高くなります。どちらの価格設計にするかを早めに決めておくことが、レジ設定の前提になります。
小売業への影響:値札・レジ・通販の切替
食品を扱う小売業は、売上の税率が1%に下がる一方、家賃・光熱費・設備投資は10%のままです。そのため本則課税では消費税が「還付」になるケースが増えます。年商10億円の食品スーパーで約900万円の還付という試算もあります(出典:いしい税理士事務所)。
価格表示:切替の前後2か月は特例あり
総額表示の義務は続きますが、切替時期に限り次の特例が認められる見込みです。
| 期間 | 認められる表示 |
|---|---|
| 2027年2月1日〜3月31日 | 1%の税込価格を先行して表示できる |
| 2027年4月1日〜5月31日 | 8%の税込価格のまま据え置ける |
| 2029年2月1日〜3月31日 | 8%の税込価格を先行して表示できる |
| 2029年4月1日〜5月31日 | 1%の税込価格のまま据え置ける |
特例を使えるのは、すぐに表示を変えるのが「困難な事情」があり、誤認防止の掲示をした場合だけです。例えば「この棚の商品は税率8%の税込価格で表示しています。レジでは税率1%で精算いたします」といった表示です。電子棚札などですぐ変えられるのに放置する場合は対象外で、「税抜価格のみ」「+税」だけの表示も認められません。
レジ・POSの改修は半年前から
レジ改修には3〜6か月かかるとされます。税率マスターだけでなく、レシート・インボイスの税率別集計、ポイント付与、割引計算、店内/持ち帰りの切替ボタンまで確認が必要です。大綱にはレジ改修やスマートレジ導入への中小企業支援が盛り込まれましたが、補助率や上限はまだ決まっていません。ベンダーの対応枠は早い者勝ちになりやすいため、年内に問い合わせておくと安心です。
通販・定期便は「2027年1月1日」が分かれ目
次の2つは経過措置の対象で、条件を満たすと4月以降に引き渡しても8%が適用されます。
- 定期供給契約:2027年1月1日より前に締結し、2027年4月1日より前に対価を受け取ったもの
- 通信販売:2027年1月1日より前に販売条件を提示し、2027年4月1日より前に申込みを受けたもの
お客様に減税分を還元したい場合は、契約書やカタログに「2027年4月1日以後は1%を適用」と明記しておくと、1%で請求できます。カタログは印刷が終わった時点で「条件提示」と扱われるため、年末に入稿する春号は特に注意が必要です。
知らないと損する税務・経理の5つのポイント
損得を分けるのは「どの課税方式で申告するか」と「届出を期限内に出したか」です。国税庁Q&A(令和8年9月)で示された特例を中心に整理します。
1. 小売は「本則課税に戻して還付を受ける」選択肢がある
簡易課税では、1%対象の売上税額と同額を仕入税額として控除する特例が設けられます。食品売上の税額は実質ゼロになりますが、還付は受けられません。設備投資や出店が多い小売店は、本則課税のほうが有利になる可能性があります。
通常、簡易課税をやめるには前の課税期間中の届出と「2年縛り」があります。今回は飲食料品を販売する事業者に限り、2027年4月1日を含む課税期間中に出せばその期間から適用され、2年縛りも外れます。免税事業者が課税事業者を選ぶ届出も同様です。
2. 店内飲食だけの飲食店は届出特例の対象外
届出特例は「飲食料品の譲渡を行う事業者」が対象です。店内飲食のみの店が簡易課税に切り替える場合は通常どおり、適用したい課税期間の前日までに「簡易課税制度選択届出書」を出す必要があります。
- 個人事業者:2026年12月31日まで(2027年分から適用)
- 3月決算法人:2027年3月31日まで(2027年4月期から適用)
個人経営の飲食店は、残り約3か月で判断が必要です。テイクアウトを扱っていれば特例の対象になり得るため、税理士と確認しておきましょう。
3. 還付を早く受け取る「課税期間の短縮」
還付が見込まれる事業者は、課税期間を1か月または3か月に短縮すると入金を前倒しできます。この届出には特例がなく、2027年4月1日から適用するには2027年3月31日までの提出が必要で、一度選ぶと2年間はやめられません。施行直後は還付申告が集中し、審査に時間がかかると見られます。資金繰り計画には入金の遅れも織り込んでおきましょう。
4. 中間申告の特例で「納めすぎ」を防ぐ
中間申告は前年の実績で計算するため、税率が下がった後も高い納付額のままになります。2027年4月以後に始まる期間は、前年の飲食料品の取引に1%が適用されたとして再計算できる特例があります。期限までに出さないと原則の計算で申告したとみなされるので注意してください。
5. インボイスは「税率と税額」だけ変更
適格請求書の記載事項で変わるのは適用税率と税額だけです。「※は軽減税率対象」のような表示があれば、「1%対象」と書き直す必要はありません。3月16日〜4月15日のように締め日をまたぐ請求書は、3月分と4月分を分けるか、1枚の中で1%・8%・10%の3区分で集計します。税率は引渡し日で判定し、3月31日以前の販売分の返品は8%で処理します。
施行までのスケジュールと準備チェックリスト
最初の分かれ目は2026年12月31日、2つ目が経過措置の指定日と2027年1月1日です。
| 時期 | やること | 主な対象 |
|---|---|---|
| 2026年10〜12月 | 臨時国会で法案審議。成立内容を確認 | 全事業者 |
| 2026年内 | レジ・POSベンダーに改修を依頼。課税方式の試算 | 全事業者 |
| 2026年12月31日 | 簡易課税制度選択届出書(2027年分から適用) | 個人の飲食店 |
| 2027年1月1日 | 経過措置の指定日。定期契約・カタログの税率条項を確認 | 通販・定期便 |
| 2027年2月1日〜 | 1%の税込価格を先行表示可。顧客への告知 | 小売・テイクアウト |
| 2027年3月17日 | インボイス登録申請(登録希望日を4月1日にする場合) | 免税事業者 |
| 2027年3月31日 | 課税期間特例選択届出書、3月決算法人の簡易課税選択届出書 | 還付見込みの小売・飲食店 |
| 2027年4月1日 | 施行。5月31日までは表示据置きの特例あり | 全事業者 |
店舗・経理の準備チェックリスト
- 直近決算の数字で、本則課税と簡易課税の納税額(または還付額)を比較した
- 自社が「飲食料品の譲渡を行う事業者」として届出特例を使えるか確認した
- レジ・POS・ネットショップの改修スケジュールと費用をベンダーに確認した
- 店内/持ち帰りの価格設計(税込統一か、税抜統一か)を決めた
- 棚札・メニュー表と誤認防止の掲示文を用意した
- 定期便・カタログの契約条項に4月以降の税率の扱いを明記した
- 仕入先からの税込価格の改定案内を確認し、原価計算を更新した
- レジ改修の補助金の公募情報を追う担当者を決めた
よくある質問
Q. 食品消費税1%はもう決まったのですか?
A. 2026年9月15日に大綱が閣議決定されましたが、法律はまだ成立していません。秋の臨時国会で年内成立を目指す方針です。ただし届出期限は成立を待たずに到来するため、試算は今から進めておくのが安全です。
Q. イートインと持ち帰りの判定は変わりますか?
A. 変わりません。現行の軽減税率と同じく、販売時にお客様の意思を確認して判定します。税率差が9ポイントに広がるため、確認漏れの影響は大きくなります。
Q. 売上が1%になるなら、免税事業者のままでよいのでは?
A. 必ずしもそうとは限りません。免税事業者は還付を受けられません。設備投資など10%の経費が多い場合、課税事業者になって本則課税で申告すると還付が生じることがあります。
Q. 4月1日に値札を全部貼り替えないと違反ですか?
A. すぐに対応するのが困難な事情があり、誤認防止の掲示をしていれば、5月31日まで8%の税込表示を据え置ける特例があります。
Q. レジ改修に補助金は出ますか?
A. 大綱に中小企業のレジ改修・スマートレジ導入への支援が明記されています。補助率や申請方法は予算編成の中で決まるため、年末にかけての発表に注目してください。
まとめ
食品消費税1%は消費者には減税ですが、店舗にとっては「課税方式の選択」と「切替実務」の試験です。飲食店は納税額の増加に備えて簡易課税を検討し、小売店は還付を取り逃さないよう本則課税と課税期間の短縮を検討しましょう。いずれも届出期限があるため、年内に顧問税理士と試算しておくことをおすすめします。
→ 法案成立後、内容に変更があれば本記事を更新します。