中小企業庁は2026年9月4日、「事業承継・M&A補助金」の16次公募の公募要領を公表しました。申請受付は2026年10月2日(金)から11月6日(金)17:00まで(予定)で、電子申請(jGrants)のみの受付です。
親から店を継ぐ予定の飲食店、店舗を第三者に譲りたい小売店、承継や譲渡をきっかけに一部の店舗をたたみたいオーナーにとって、設備投資や専門家費用、廃業費用の一部を国が補助する制度です。店舗の改装費やM&A仲介の手数料など、承継の場面で重くなりがちな支出が対象になります。
この記事では、16次公募の4つの枠(事業承継促進枠、専門家活用枠、PMI推進枠、廃業・再チャレンジ枠)の対象・補助率・上限額、対象経費、M&A支援機関登録制度、無料の相談先、小さな店舗での使い方、申請の流れを整理します。金額や要件は必ず最新の公募要領で確認してください。
16次公募の概要とスケジュール
事業承継・M&A補助金は、中小企業・小規模事業者が事業承継やM&Aに際して行う設備投資や、経営資源の引継ぎ、引継ぎ後の経営統合にかかる経費の一部を補助する制度です。16次公募は令和7年度補正予算による公募で、4つの枠が用意されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公募要領の公表 | 2026年9月4日 |
| 申請受付期間 | 2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00(予定) |
| 申請方法 | 電子申請(jGrants)のみ。GビズIDプライムアカウントが必要 |
| 補助事業期間 | 2027年1月(下旬予定)の交付決定から14か月以内を想定 |
| 問い合わせ | 事業承継促進枠 050-3192-6274/専門家活用枠・廃業・再チャレンジ枠 050-3145-3812/PMI推進枠 050-3192-6228(平日9:30〜12:00、13:00〜17:00) |
GビズIDプライムの取得には2〜3週間程度かかるとされています。受付開始後に準備を始めると締切に間に合わないおそれがあるため、今のうちに申請しておくと安心です。
4つの枠の対象・補助率・上限額
4つの枠は、承継の形や段階によって使い分けます。中小企業庁の公表資料で確認できた数字を一覧にしました。
| 枠 | 主な対象 | 補助率 | 補助上限額 |
|---|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 5年以内に親族内承継・従業員承継を予定している中小企業等 | 1/2以内(小規模事業者等は2/3以内) | 800万円(一定の賃上げで1,000万円) |
| 専門家活用枠 | M&Aで経営資源を引き継ぐ・引き継ぐ予定の中小企業等(買い手・売り手) | 買い手支援類型 1/3・1/2・2/3、売り手支援類型 1/2・2/3、小規模売り手支援類型 2/3 | 買い手・売り手 600万〜800万円(買い手の100億企業特例は2,000万円)、小規模売り手 450万円 |
| PMI推進枠 | M&A後の経営統合(PMI)に取り組む中小企業等 | PMI専門家活用類型 1/2、事業統合投資類型 1/2(小規模事業者等は2/3) | PMI専門家活用類型 150万円、事業統合投資類型 800万円(賃上げで1,000万円) |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 事業承継・M&Aに伴い既存事業を廃業し、新たな挑戦をする中小企業等 | 2/3以内 | 300万円(他枠と併用する場合は150万円または300万円の上乗せ) |
補助率や上限額は、類型や要件(小規模事業者かどうか、赤字かどうか、デューデリジェンスの実施、賃上げの有無など)で変わります。自店がどの区分に入るかは、枠ごとの公募要領で確認してください。
事業承継促進枠のポイント
承継予定者は、対象会社で3年以上の役員経験がある、継続して3年以上雇用されている、または被承継者の親族である、のいずれかを満たす必要があります。承継は受付終了日の2026年11月6日から5年後の2031年11月5日までに行うことが求められます。
上限を1,000万円に引き上げるには、基準年度の翌年度の「従業員1人当たりの給与支給総額」の上昇率を3%以上にする賃上げが必要です。この場合、800万円を超える部分の補助率は1/2以内となります。補助下限は100万円で、申請には認定経営革新等支援機関の確認書が必要です。
小規模事業者等の範囲は、商業・サービス業が従業員5人以下、製造業その他が20人以下の会社・個人事業主です。家族経営の飲食店や小売店は該当するケースが多いと考えられますが、業種区分は公募要領で確認してください。
専門家活用枠のポイント
M&Aの仲介手数料やFA費用、デューデリジェンス、セカンドオピニオン、表明保証保険料などが対象です。売り手支援類型の補助率は、物価高などで営業利益率が低下している場合や直近決算が赤字の場合は2/3以内、それ以外は1/2以内です。
16次公募では「小規模売り手支援類型」が設けられ、補助率2/3以内、上限450万円です。経営資源の引継ぎ(クロージング)が実現しなかった場合は上限額が変わるため、成約前提で資金計画を立てないよう注意が必要です。
PMI推進枠・廃業・再チャレンジ枠のポイント
PMI推進枠は、店舗を買い取った後の統合作業を支える枠です。専門家によるPMI支援の費用や、統合に必要な設備投資などが対象になります。
廃業・再チャレンジ枠は、単独でも他枠と併用しても申請できます。単独申請は、2020年以降にM&Aで事業譲渡を試みたものの成約しなかった事業者が、既存事業を廃業して新たな活動に取り組む場合などが対象です。補助下限は50万円です。
対象になる経費と対象にならない経費
対象経費は枠ごとに決まっています。店舗経営者が関係しやすいものを整理しました。
| 枠 | 主な対象経費 | 店舗での例 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 設備費、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費 | 店舗の改装工事、厨房機器の更新、国内で使う機械器具の調達 |
| 専門家活用枠 | 謝金、旅費、外注費、委託費(FA・仲介手数料を含む)、システム利用料、保険料 等 | 仲介会社への手数料、財務・法務のデューデリジェンス費用 |
| PMI推進枠 | 専門家費用、設備費、外注費、委託費 等 | 譲り受けた店舗のレジ・システム統合、改装 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 廃業支援費(上限50万円)、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費 等 | 閉店する店舗の原状回復、厨房設備の撤去、在庫の処分 |
一方、売上原価に相当する経費や、被承継者に支払う譲受費用などは対象外です。第一次産業も対象外とされています。
最も注意したいのは、補助の対象が「交付決定日以降に契約・発注し、補助事業期間内に支払いまで完了した経費」に限られる点です。交付決定前に改装工事や仲介契約を結んだ分は、原則として補助されません。
M&A支援機関登録制度と無料の相談先
仲介・FA費用は登録機関の利用が条件
専門家活用枠でFA・仲介費用を計上する場合、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されたFA・仲介業者のサービスであることが条件です。登録の有無は交付決定時に確認されます。
この制度は2021年8月に創設され、登録機関は中小企業庁の公表資料や制度の事務局サイトで確認できます。仲介会社と契約する前に、登録されているかを必ず確かめましょう。
事業承継・引継ぎ支援センターに無料で相談できる
国が47都道府県に設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」では、親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)の相談を無料で受け付けています。秘密は守られ、後継者人材バンクによる譲り受け希望者とのマッチングも行っています。
「まだ売るか継ぐか決めていない」段階でも相談できます。補助金の申請前に、承継の方向性や計画づくりを相談しておくと、枠の選択も進めやすくなります。
小さな飲食店・小売店での活用例
以下は制度の仕組みを理解するための想定例で、実在の事業者ではありません。実際の補助額は審査や経費の内容で変わります。
例1:親族への承継に合わせて店舗を改装する
従業員4人の定食店で、店主が子への承継を予定しているケースです。承継に合わせて厨房と客席の改装に900万円(補助対象経費)をかける場合、小規模事業者等として補助率2/3が適用されれば、900万円×2/3=600万円となり、上限800万円の範囲内に収まります。
例2:後継者がいない小売店を第三者に譲る
後継者のいない個人経営の雑貨店が、登録された仲介業者を通じて同業者へ店舗を譲るケースです。仲介手数料などは専門家活用枠の小規模売り手支援類型の対象となり得ます。成約しなかった場合は上限が変わる点に注意します。
例3:2店舗のうち1店舗を閉めて本店に集中する
M&Aで譲渡を試みたが成約しなかった支店を閉め、別の事業に取り組むケースです。原状回復や設備撤去に180万円かかる場合、補助率2/3なら180万円×2/3=120万円が補助の目安です。単独申請の要件を満たすかは公募要領で確認が必要です。
申請の流れ
- GビズIDプライムアカウントを取得する(2〜3週間程度)
- 事業承継・引継ぎ支援センターや認定経営革新等支援機関に相談し、承継・譲渡の方針を固める
- 対象となる枠と類型を選び、公募要領をダウンロードして要件を確認する
- 見積書の取得、事業計画の作成、必要書類(確認書など)を準備する
- 2026年10月2日〜11月6日17:00にjGrantsで申請する
- 採択・交付決定の後に、契約・発注・支払いを行う
- 補助事業期間の終了後に実績報告を行い、検査を経て補助額が確定・支払われる
補助金は後払いです。工事代金や手数料はいったん自己資金や融資で支払う必要があるため、資金繰りの計画も立てておきましょう。
申請前のチェックリスト
- □ 承継・譲渡・廃業のどの場面で使うか整理した
- □ 自店が小規模事業者等(商業・サービス業は従業員5人以下など)に当たるか確認した
- □ GビズIDプライムアカウントを取得した、または申請中である
- □ 利用予定の仲介・FA業者がM&A支援機関登録制度に登録されているか確認した
- □ 交付決定前に契約・発注をしていない
- □ 事業承継促進枠の場合、認定経営革新等支援機関の確認書を準備している
- □ 補助金が入るまでの資金繰りを確認した
- □ 最新の公募要領とよくある質問を事務局サイトで確認した
よくある質問
Q. 個人事業主の飲食店でも申請できますか。
A. 公募要領では中小企業・小規模事業者が対象で、小規模事業者等の定義には個人事業主も含まれています。枠ごとに要件が異なるため、該当する枠の公募要領で確認してください。
Q. すでに仲介会社と契約してしまいました。対象になりますか。
A. 補助対象は交付決定日以降に契約・発注した経費が原則です。交付決定前の契約分は対象外となる可能性が高いため、事務局に確認してください。
Q. 複数の枠を同時に申請できますか。
A. 廃業・再チャレンジ枠は他の枠との併用申請ができるとされています。その他の組み合わせは公募要領で確認してください。
Q. どこに相談すればよいですか。
A. 承継の方向性は各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターに無料で相談できます。補助金の手続きは事務局の各枠の問い合わせ窓口に確認してください。
まとめ
事業承継・M&A補助金の16次公募は、2026年10月2日から11月6日17:00まで(予定)受け付けます。親族への承継で店を改装したい、店舗を譲りたい、承継に伴って店を閉めたい、といった場面で使える4つの枠があります。
交付決定前の契約は対象外、仲介・FA費用は登録機関のみ、補助金は後払い、という3点は特に注意が必要です。まずはGビズIDの取得と、事業承継・引継ぎ支援センターへの相談から始めましょう。
出典
- 中小企業生産性革命推進事業「事業承継・M&A補助金」(十六次公募)の公募要領を公表します(中小企業庁)
- 令和7年度補正予算 事業承継・M&A補助金(事業承継・M&A補助金事務局)
- 16次公募 事業承継促進枠 公募要領(事業承継・M&A補助金事務局)
- 16次公募 専門家活用枠(買い手支援類型・売り手支援類型)公募要領(事業承継・M&A補助金事務局)
- 16次公募 専門家活用枠(小規模売り手支援類型)公募要領(事業承継・M&A補助金事務局)
- 16次公募 廃業・再チャレンジ枠 公募要領(事業承継・M&A補助金事務局)
- 事業承継・M&A補助金のご案内(中小企業基盤整備機構)
- M&A支援機関登録制度の申請受付(令和8年度公募)について(中小企業庁)
- 事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業基盤整備機構)