キッチンカーを開業するには、車両そのものが保健所の設備基準を満たしたうえで「自動車による飲食店営業許可」を取り、さらに出店する場所ごとに土地の所有者や管理者の許可を得る必要があります。車を用意するだけでは営業できず、「許可」「仕込み場所」「出店場所」の3つをそろえて初めて販売を始められます。
この記事は、これからキッチンカーで独立・開業したい方や、店舗営業に加えてキッチンカーでの出店を検討している飲食店経営者の方に向けたものです。車両の購入・改造の前に読んでおくと、手戻りを減らせます。
営業許可の取り方と営業できる区域、給水・排水タンクなどの設備基準、仕込み場所、出店場所のルール、イベント出店時の消防上の注意、開業後のお金の管理まで、自治体の公開資料をもとに順に説明します。設備基準などの数値は自治体ごとに異なるため、例として示したものは管轄の保健所で必ず確認してください。
キッチンカー開業までの全体の流れ
キッチンカーの開業は、保健所への事前相談から始めるのが基本です。福岡市は「施設の図面を持参の上、事前にご相談ください」と案内しており、基準に合わない場合は手直しが必要になるとしています。車両を改造してから相談すると、作り直しの費用がかかることがあります。
| 順番 | やること | 主な相手先 |
|---|---|---|
| 1 | 提供メニューと車内の調理工程を決める | 自分で検討 |
| 2 | 図面を持って事前相談する | 営業の拠点を管轄する保健所 |
| 3 | 食品衛生責任者を確保する(講習の受講など) | 各都道府県の食品衛生協会など |
| 4 | 車両を購入・改造する | 販売・製作業者 |
| 5 | 仕込み場所(許可施設)を確保する | 保健所(施設の許可) |
| 6 | 営業許可を申請し、車両の確認検査を受ける | 保健所 |
| 7 | 出店場所を確保し、必要な許可・届出をする | 土地所有者、公園管理者、警察署、消防署など |
| 8 | 税務の届出、決済・売上管理の準備をする | 税務署など |
大阪市の資料では、営業開始の2〜3週間前までに申請し手数料を納めるよう案内しており、大阪市の飲食店営業の手数料は16,000円と示されています。手数料や申請時期は自治体ごとに異なります。
自動車による飲食店営業許可と営業できる区域
許可を受けた自治体の範囲で営業する
キッチンカーの営業許可は、原則として許可を出した自治体(保健所を設置する都道府県・市など)の区域内で有効です。福岡市は営業区域を福岡市内一円とし、市外で営業する場合は営業場所を管轄する保健所で手続きをするよう案内しています。複数の市や県で出店したい場合は、それぞれで許可が必要になる場合があることを前提に計画を立てましょう。
2021年の法改正と広域での取り扱い
改正食品衛生法の施行に伴い、許可の区域の扱いが見直された自治体もあります。北海道は、令和3年6月1日以降に新たに許可を取った場合は「全道一円」で営業できるとしています。ただし、それ以前から許可を持っていた方は、有効期限まで許可証記載の区域に限られるなどの経過措置があります。
都道府県をまたいだ連携の例もあります。大阪市の資料によると、令和7年6月1日以降、大阪府と和歌山県のいずれかの自治体で飲食店営業許可を取得したキッチンカーは、両府県全域で営業できるとされています。ただし、大阪府域で認められる付帯的な魚介類の販売は和歌山県域ではできないなど、細かな違いがあります。
食品衛生責任者とHACCP
キッチンカーでも、店舗と同じく食品衛生責任者の設置とHACCPに沿った衛生管理が必要です。大阪市の資料では、申請時に食品衛生責任者の資格を証明する書類の提出が求められ、衛生管理計画の作成と日々の記録の保存が義務とされています。
車両の設備基準:タンク容量で作れるメニューが決まる
キッチンカーの設備基準で最も重要なのが、給水タンクと排水(廃水)タンクの容量です。容量によって車内でできる調理の工程数や品目数が決まるため、「何を売りたいか」から逆算して車両を選びます。
自治体の基準の例(福岡市・大阪市)
以下は福岡市と大阪市の公開資料にもとづく例です。他の自治体では区分や条件が異なる場合があります。
| 給水タンク容量 | 福岡市の例(できる調理) | 大阪市の区分 |
|---|---|---|
| 40リットル | 温める・揚げる・盛り付けなどの簡易な調理のみ、または単一品目のみ。使い捨て容器を使用 | Ⅰ型(40L以上) |
| 80リットル | 2工程程度までの簡易な調理、または複数品目。使い捨て容器を使用 | Ⅱ型(80L以上) |
| 200リットル | 大量の水を使う調理や複数工程の調理。通常の食器を使用できる | Ⅲ型(200L以上) |
排水タンクは、福岡市では給水量と同量、大阪市では給水タンク容量以上とされています。
シンク・手洗い・冷蔵などの設備
大阪市の資料では、運転席などと調理場を隔壁などで区画すること、床・内壁・天井を清掃しやすい材料にすること(ベニヤ板やカーペットは不可)が示されています。手洗い用シンクは洗浄用シンクと別に設けるのが原則で、Ⅰ型で車内で器具を洗わない場合に限り兼用できるとされています。
このほか、温度計で温度を確認・記録できる冷蔵庫またはクーラーボックス、ふた付きのごみ箱、食品の保管設備、換気扇や窓などの換気設備が求められています。福岡市は、井戸水を使う場合は事前に水質検査を受けるよう案内しています。
車両の登録について
キッチンカーは、調理設備を備えた特種用途自動車(いわゆる8ナンバー)として登録する例があります。登録の要件や手続きは運輸支局などで確認してください。保健所の営業許可とは別の手続きです。
仕込み場所と出店場所のルール
仕込みは許可を受けた施設で行う
キッチンカーの車内でできる調理は限られるため、下ごしらえをする「仕込み場所」が必要になることが多くあります。北海道は、車で使う食品の調製・予備加工・包装は、原則として食品衛生法にもとづく許可を受けた施設で行うよう定めています。自宅の台所は通常この許可施設に当たらないため、仕込みを自宅で行う計画の場合は、事前に保健所に確認してください。
出店場所ごとに必要な許可
| 出店場所 | 必要な手続き | 注意点 |
|---|---|---|
| 私有地(店舗駐車場、オフィス敷地など) | 土地の所有者・管理者の承諾 | 出店料や売上歩合、電源・ごみの扱いを事前に取り決める |
| 公園 | 公園管理者(自治体など)の許可 | 自治体が募集要綱で場所・時間・品目を定めている場合がある |
| 道路(公道) | 警察署の道路使用許可など | 露店・屋台の許可は慣習上出店してきた場所に限るのが原則とされ、キッチンカーでの営業は難しい |
| イベント会場 | 主催者への申込、必要に応じて消防署への届出 | 主催者が許可証の写しや保険加入を求めることが多い |
警視庁は、場所を移動しないで道路に露店・屋台等を出す場合は道路使用許可が必要としたうえで、露店・屋台は原則として「これまで慣習上出店してきた場所に限ります」と案内しています。公道に車を止めての販売は、基本的に想定しない方がよいでしょう。
公園の例として、千葉県松戸市の募集要綱では、営業時間を9時から16時までとし、営業許可・食品衛生責任者の配置・生産物賠償責任保険への加入を条件とし、酒類の販売や車外での調理を禁止しています。条件は公園ごとに大きく異なるため、出店先の要綱を必ず読みましょう。
イベント出店と消防・火気の注意点
イベントでは、主催者の出店要件に加えて消防の決まりを守る必要があります。東京消防庁の光が丘消防署は、不特定多数が集まるイベントで露店業者等(移動販売車を含む)が燃料や電気を熱源とする器具を使う場合、消火器を備える必要があるとしています。
消火器は原則として器具ごとに1本以上で、10型の粉末消火器が望ましいとされています。また、火気使用器具を使う露店等は、開設の3日前までに管轄の消防署長へ届け出る必要があると案内されています。東京都以外では運用が異なる場合があるため、出店地の消防署に確認してください。
プロパンガス(LPガス)を使う場合は、容器の固定やホースの劣化確認など、ガス販売事業者の指示に沿った安全管理を行いましょう。イベントによっては臨時の営業として別の手続きを求められる場合もあるため、主催者と保健所に早めに確認します。
開業後のお金の管理と開業資金
キッチンカーは現金商売になりやすいため、日々の売上を出店場所ごとに記録しておくことが大切です。個人事業として始める場合は、開業届と青色申告の承認申請を検討し、確定申告に備えて帳簿を付けましょう。法人や企業のイベントに出店する場合は、取引先からインボイス(適格請求書)の発行を求められることがあります。
キャッシュレス決済は、客単価を上げやすいだけでなく、売上の記録が自動で残るため帳簿付けの負担を減らせます。車両の購入・改造費や設備費などの開業資金は、自己資金に加えて日本政策金融公庫などの融資を検討する方法があります。
開業前チェックリスト
- □ 提供メニューと車内の調理工程を決め、必要なタンク容量を確認した
- □ 車両を改造する前に、図面を持って保健所に事前相談した
- □ 食品衛生責任者を確保し、HACCPに沿った衛生管理計画を作った
- □ 許可を受けた仕込み場所を確保した(自宅の台所は原則として不可)
- □ 営業したい自治体すべてで許可が有効か確認した
- □ 出店場所ごとに所有者・管理者の承諾や許可を得た
- □ 火気を使う場合の消火器と消防署への届出を確認した
- □ 生産物賠償責任保険(PL保険)への加入を検討した
- □ 売上記録、キャッシュレス決済、インボイス対応の準備をした
よくある質問
Q. 一度許可を取れば全国どこでも営業できますか?
A. できません。許可は原則として許可を出した自治体の区域で有効です。北海道の「全道一円」や大阪府・和歌山県の相互営業のように広域で認める例もあるため、営業したい地域の保健所に確認してください。
Q. 自宅のキッチンで仕込みをしてもよいですか?
A. 車で使う食品の仕込みは、原則として食品衛生法の許可を受けた施設で行う必要があります。自宅の台所で仕込む計画であれば、事前に保健所に相談してください。
Q. 給水タンクは何リットルあればよいですか?
A. 作るメニューによります。福岡市の例では、40リットルは簡易な調理または単一品目、80リットルは2工程程度まで、200リットルは複数工程の調理に対応する区分です。
Q. 道路沿いの空きスペースに車を止めて販売できますか?
A. 公道での販売は道路使用許可などが必要で、露店・屋台は原則として慣習上出店してきた場所に限られるため、実際には難しいと考えてください。私有地なら所有者の承諾を得て出店できます。
まとめ
キッチンカーの開業には、設備基準を満たした車両での営業許可、許可を受けた仕込み場所、出店場所ごとの許可の3つが欠かせません。給水タンクの容量でメニューの幅が決まるため、車両を準備する前に保健所へ相談するのが近道です。
許可は原則として自治体ごとに有効で、イベントでは消火器の準備や消防署への届出も必要になります。チェックリストで抜け漏れを確認し、売上管理や資金計画も含めて準備を進めましょう。