パンを店で焼いて売るには、保健所で「菓子製造業」の許可を取るのが基本です。2021年6月の食品衛生法改正後、菓子製造業の範囲にはパン製造業とあん類製造業が含まれると整理されています。

この記事は、これからベーカリーを開く個人や小規模事業者、イートインや焼き菓子の販売を広げたいパン屋のオーナーに向けたものです。開業時の許可から、日々の表示・税率・労務まで、店の運営で押さえておきたいルールをまとめました。

許可と施設基準、イートインと飲食店営業の関係、食品表示とアレルゲン、イートインの消費税率と2027年の税率引下げ、早朝勤務の労務、食品ロスと原材料高への対応、省力化の補助金を順に解説します。

パン屋に必要な許可:菓子製造業が基本

菓子製造業の範囲

菓子製造業は「社会通念上菓子の完成品とされる食品を製造する営業」とされ、パン製造業とあん類製造業を含みます。食パンや菓子パンを焼いて販売するパン屋は、この許可で営業するのが基本です。

厚生労働省の解説では、菓子製造業の施設で調理パンを製造する場合、そうざい製造業や飲食店営業の許可は不要とされています。サンドイッチや総菜パンを並べる店でも、まずは菓子製造業の許可が軸になります。

施設基準と申請の流れ

施設基準は国の基準をもとに都道府県等が条例で定めており、細かな要件は自治体ごとに異なります。製造室と売場の区画、手洗い設備、シンク、原材料や製品の保管設備などが確認されるため、内装工事の前に図面を持って保健所へ相談します。

許可申請の手数料も自治体ごとに異なり、たとえば東京都豊島区では菓子製造業の新規申請が16,800円です。許可が出るまで製造販売はできないため、開業日から逆算して申請します。

食品衛生責任者とHACCP

許可・届出の対象となる施設には、原則として食品衛生責任者を置きます。2021年6月1日からはHACCPに沿った衛生管理が完全施行されており、併設の店舗で製造品の全部または大部分を小売販売する菓子店などの小規模事業者は、業界団体の「手引書」に沿った衛生管理計画と記録で対応できます。

イートインを設けるときの許可と税率

飲食店営業の許可がいるか

厚生労働省の「営業許可業種の解説」では、菓子製造業の許可を受けた施設で、客が購入した菓子やパンに飲料を添えて施設内で提供する場合は、飲食店営業の許可を要しないとされています。パンとコーヒーを店内で楽しんでもらう程度のイートインであれば、菓子製造業の許可の範囲で運営できる考え方です。

一方、皿に盛ったサラダやスープ、ランチプレートなど調理した料理を出す場合は、飲食店営業の許可が別に必要になる可能性があります。イートインの席数やメニューを決める段階で、保健所に具体的な提供内容を伝えて確認してください。

店内飲食10%、持ち帰り8%の判定

イートインで食べるパンは「食事の提供」として10%、持ち帰りは軽減税率8%です。どちらにあたるかは、商品を提供する時点で客の意思を確認して判定します。

国税庁のQ&Aでは、すべての客に質問する必要はなく、「イートインコーナーを利用する場合はお申し出ください」などの掲示で確認する方法も認められています。その場で食べるために提供したパンは、食べきれずに持ち帰っても10%のままです。

2027年4月からの税率1%(予定)

政府は2026年10月9日、飲食料品の消費税率を引き下げる法案を国会に提出しました。国税庁のQ&Aによると、案では2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の税率を1%とし、外食と酒類は10%のままです。

案どおりになれば、持ち帰りのパンは1%、イートインは10%となり、同じパンでも税率差は9ポイントになります。国税庁はこの内容を法案成立が前提と明記しているため、レジ設定と価格表示は成立状況を確認しながら準備します。

販売のしかた現在の税率2027年4月以降(法案成立の場合)
パンの持ち帰り販売8%1%
イートインでの飲食10%10%
卸売(カフェ等への納品)8%1%
パンと一緒に提供する酒類10%10%

食品表示とアレルゲン

表示が必要な場合と省略できる場合

食品表示基準の対象は、原則として容器包装に入れられた食品です。トレーとトングで選んでもらうバラ売りのように、容器包装に入れずに販売するパンは対象外とされています。

あらかじめ袋に入れて並べるパンは容器包装入りにあたります。ただし、製造者と販売者が同じで、同じ施設・敷地内で製造して販売する場合は「食品を製造し、又は加工した場所で販売する場合」にあたり、食品表示基準第5条により原材料名や内容量などの表示事項が不要になります。

卸売で他の店に納品するパンは、この例外に当たりません。カフェや売店への納品を始めるときは、名称、原材料名、アレルゲン、消費期限、保存方法などの表示を整える必要があります。

アレルゲンの対象品目

容器包装された加工食品で表示が義務となる特定原材料は、えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)の8品目に、2026年4月にカシューナッツが加わりました。カシューナッツの表示には2028年3月31日までの経過措置があります。

同じ改正で、ピスタチオが表示を推奨する「特定原材料に準ずるもの」に追加されています。パン屋では小麦・卵・乳に加えて、くるみやカシューナッツ、アーモンドなどナッツ類を使う商品が多いため、商品ごとに使用原材料を一覧にしておくと便利です。

バラ売りでも情報提供を

容器包装に入れないパンや店内飲食には、アレルゲン表示の法的義務はありません。それでも消費者庁は外食・中食事業者に向けて、アレルゲン情報の自主的な提供を呼びかけています。

プライスカードに主なアレルゲンを記載する、店頭にアレルゲン一覧表を置く、といった方法で、客が購入前に確認できるようにしておくと安心です。同じ設備でナッツ類を扱っている場合は、その旨も伝えられるようにしておきます。

早朝勤務の労務管理

パン屋の仕込みは早朝に始まることが多く、労働時間の管理が重要です。午後10時から午前5時までの労働には、通常の賃金に25%以上を上乗せした深夜割増賃金が必要です。

たとえば午前4時から勤務する場合、午前4時から5時までの1時間は深夜割増の対象です。18歳未満の人を午後10時から午前5時までに働かせることは原則として禁止されているため、高校生のアルバイトは午前5時以降の勤務にします。

時給は都道府県ごとの最低賃金以上でなければなりません。2026年度の最低賃金は全国加重平均で1,177円です。18歳未満を雇う場合は年齢証明書を事業場に備え付けます。

項目ルールパン屋での注意点
深夜割増午後10時〜午前5時は25%以上の割増早朝仕込みの開始時刻を記録する
時間外労働25%以上の割増(月60時間超は50%以上)仕込みと閉店後の片付けを含めて集計する
年少者の深夜業18歳未満は午後10時〜午前5時の労働が原則禁止高校生は午前5時以降のシフトにする
最低賃金都道府県ごとの金額以上基本の時給が最低賃金を下回らないか確認する

食品ロス・原材料高・省力化への対応

閉店前の値引きとフードバンク

パンは日持ちが短く、売れ残りが出やすい商品です。閉店前の値引き販売や、翌日のラスクなどへの加工、製造量の見直しで廃棄を減らします。

売れ残りをフードバンクに寄附する場合は、消費者庁が2024年12月25日に公表した「食品寄附ガイドライン」が参考になります。2026年4月1日からは、このガイドラインの遵守事項を満たすフードバンクを認証する制度が始まり、寄附先を選ぶ手がかりになります。

小麦価格と価格転嫁

農林水産省によると、2026年10月期の輸入小麦の政府売渡価格(5銘柄加重平均、税込)は1トンあたり70,020円で、前期比12.0%の引上げです。小麦粉の仕入価格に影響が出るため、原価計算を見直す時期です。

値上げをする場合は、税込価格での表示を守ったうえで、店頭やSNSで理由を説明すると客の理解を得やすくなります。卸先との取引価格も、原材料費の推移を示す資料を用意して交渉します。

省力化投資の補助金

中小企業庁は2024年10月7日、カタログ型の中小企業省力化投資補助金で、スチームコンベクションオーブンの置き換えについても交付申請を一部可能としました。ベーカリーで使えるかどうか、公募が受け付け中かどうかは、最新の製品カタログと公募要領で確認してください。

開業前チェックリスト

  • □ 内装工事の前に、図面を持って保健所へ事前相談した
  • □ 菓子製造業の許可を申請し、開業日までに許可が出る日程を組んだ
  • □ イートインで出すメニューを決め、飲食店営業の許可要否を確認した
  • □ 食品衛生責任者を決め、手引書をもとに衛生管理計画を作った
  • □ 袋詰め商品と卸売商品の表示内容を確認した
  • □ カシューナッツを含むアレルゲン一覧を商品ごとに作った
  • □ レジで店内飲食と持ち帰りの税率を分け、意思確認の掲示を用意した
  • □ 2027年4月の税率引下げに向けて、レジ・価格表示の対応を確認した
  • □ 早朝勤務の深夜割増と、18歳未満のシフトを確認した
  • □ 売れ残りの値引き・加工・寄附のルールを決めた

よくある質問

Q. パンを焼いて売るだけなら、飲食店営業の許可は必要ですか。

A. 焼いたパンを販売するのは菓子製造業の許可が基本です。菓子製造業の施設で調理パンを製造する場合も、飲食店営業の許可は不要とされています。

Q. イートインでパンとコーヒーを出すには、追加の許可がいりますか。

A. 厚生労働省の解説では、客が購入したパンや菓子に飲料を添えて施設内で提供する場合は、飲食店営業の許可を要しないとされています。調理した料理を出す場合は扱いが変わる可能性があるため、保健所に確認してください。

Q. 店内で焼いて袋詰めしたパンにも、アレルゲン表示は必要ですか。

A. 同じ施設内で製造して販売する場合は、食品表示基準第5条により多くの表示事項が不要になります。必要な事項の詳細は保健所で確認し、法的義務の有無にかかわらず、アレルゲン情報を店頭で示しておくことをおすすめします。

Q. 早朝5時からの勤務なら、深夜割増は必要ですか。

A. 深夜割増の対象は午後10時から午前5時までなので、午前5時からの勤務には深夜割増はかかりません。午前4時開始なら、最初の1時間が対象です。

まとめ

パン屋の開業は菓子製造業の許可が基本で、パンに飲料を添える程度のイートインならその範囲で運営できるとされています。調理した料理を出すか、卸売をするかで、追加の許可や表示が必要になります。

運営面では、アレルゲン情報の提供、イートインの税率判定と2027年4月からの税率引下げ、早朝勤務の深夜割増、食品ロスと原材料高への対応が主な課題です。開業前にチェックリストで確認し、迷う点は保健所や税務署に早めに相談しましょう。

出典