65歳超雇用推進助成金は、定年を65歳以上に引き上げたり、66歳以上まで働ける継続雇用制度を導入したりした事業主に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が支給する助成金です。2026年度(令和8年度)は「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「高年齢者無期雇用転換コース」の3コースがあります。

この記事は、ベテランのパート・社員が多いスーパー、ドラッグストア、ホームセンター、飲食チェーンなどの経営者や人事担当者に向けたものです。「60歳定年のままで良いのか」「シニアの有期契約を無期にしたい」と考えている事業所に役立ちます。

3コースの要件と支給額、申請期限と受付方法、就業規則改定の手順、法律上の高年齢者雇用確保措置との関係を整理します。金額はJEEDの2026年度の公表内容で確認したものです。申請前には必ず最新のパンフレット「制度のご案内」と支給申請の手引きを確認してください。

前提:高年齢者雇用安定法の義務と努力義務

助成金を理解するには、法律で求められている水準を先に押さえておく必要があります。65歳までは「義務」、70歳までは「努力義務」です。

区分年齢事業主が講じる措置(いずれか)
高年齢者雇用確保措置(義務)65歳まで定年制の廃止/65歳までの定年の引上げ/希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入
高年齢者就業確保措置(努力義務、2021年4月1日施行)70歳まで70歳までの定年の引上げ/定年制の廃止/70歳までの継続雇用制度の導入/70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度/70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度

継続雇用制度の対象者を労使協定で限定できる経過措置は、2025年3月31日で終了しました。2025年4月1日以降、65歳までは希望者全員を対象にする必要があります。

65歳超雇用推進助成金は、この義務の水準を超えて、65歳を超える年齢まで働ける仕組みを整えた事業主を後押しする制度です。法律上の義務を果たしているだけでは対象になりません。

65歳超継続雇用促進コース:定年引上げ・継続雇用制度の導入

就業規則で次のいずれかの制度を実施し、労働基準監督署へ届け出た事業主が対象です。支給額は、実施した措置の内容と、対象被保険者の人数で決まります。

  • 65歳以上への定年引上げ
  • 定年の定めの廃止
  • 希望者全員などを66歳以上まで雇用する継続雇用制度の導入
  • 他社による継続雇用制度の導入

対象被保険者とは、事業主に1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者で、改正後の就業規則が適用される方を指します。加えて、高年齢者雇用推進者を選任し、職業能力の開発、作業施設の改善、健康管理など7つの高年齢者雇用管理措置のうち1つ以上を実施していることが必要です。

定年引上げ・定年廃止の支給額

対象被保険者数65歳への定年引上げ66〜69歳(引上げ幅5歳未満)66〜69歳(引上げ幅5歳以上)70歳以上への定年引上げ定年の定めの廃止
1〜3人15万円25万円40万円45万円60万円
4〜6人20万円32万円65万円70万円120万円
7〜9人25万円39万円110万円115万円180万円
10人以上30万円46万円135万円140万円240万円

66歳以上までの継続雇用制度導入の支給額

対象被保険者数66〜69歳・希望者全員66〜69歳・対象者基準あり70歳以上・希望者全員70歳以上・対象者基準あり
1〜3人22万円20万円40万円36万円
4〜6人37万円32万円65万円60万円
7〜9人60万円50万円105万円95万円
10人以上90万円75万円130万円120万円

他社による継続雇用制度の場合は、同じ区分で1〜3人が16万〜32万円、10人以上が60万〜105万円と、自社での導入より低めの設定です。定年引上げと継続雇用制度をあわせて実施しても、支給されるのはいずれか高い額のみです。

申請期限と受付停止

支給申請は、制度の実施日の属する月の翌月から起算して4か月以内の各月の月初から15日までに行います。郵送の場合は、申請期間内に到着している必要があります。

このコースには予算の上限があります。各月または四半期ごとの予算額上限を超えると見込まれる場合などは、受付が停止される可能性があります。制度を施行したら早めに申請し、JEEDのお知らせで受付状況を確認してください。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

55歳以上の高年齢者を対象に、雇用管理制度を整備する「雇用管理整備計画」を作成し、JEEDの認定を受けて実施した事業主が対象です。対象となる措置には次のようなものがあります。

  • 高年齢者の職業能力を評価する仕組みを活用した賃金・人事処遇制度の導入または改善
  • 短時間勤務などの労働時間制度の見直し、在宅勤務制度の導入
  • 研修制度の導入
  • 健康管理制度の導入 など
措置の区分中小企業中小企業以外
賃金・人事処遇制度(評価制度等)60万円45万円
その他の措置30万円23万円
機器等の導入を伴う場合の上乗せ導入経費の60%導入経費の45%

機器等の導入経費は50万円が上限とされています。計画は、雇用管理整備計画の開始日の6か月前の日から3か月前の日までに提出します。計画終了後の運用状況も審査されるため、導入して終わりにしない運用が必要です。

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換した事業主が対象です。支給額は対象者1人につき中小企業40万円、中小企業以外30万円で、1事業所あたり年度10人までが上限です。

中小企業が年度内に上限の10人を転換した場合、40万円×10人で最大400万円が目安になります。転換は、有期契約の期間が通算5年以内の方に限られます。

申請には事前の計画認定が必要です。無期雇用転換計画を、計画の開始日の6か月前の日から3か月前の日までにJEEDの都道府県支部へ提出します。転換後も一定期間(パンフレットでは6か月)継続雇用し賃金を支払うことなどが要件です。

申請の流れと就業規則改定の手順

申請先はJEEDの都道府県支部で、郵送などのほか、2025年4月からe-Gov電子申請も利用できます。どのコースも、制度を就業規則に定めて施行することが出発点です。

  1. 現行の就業規則で定年年齢、継続雇用の上限年齢、有期契約の扱いを確認する
  2. 引き上げる年齢、対象者の範囲(希望者全員か基準ありか)、賃金・評価の扱いを決める
  3. 就業規則の変更案を作り、従業員の過半数代表者などの意見を聴く
  4. 意見書を添えて労働基準監督署へ届け出て、従業員に周知する
  5. 高年齢者雇用推進者の選任と、雇用管理措置の実施状況を確認する
  6. 評価制度コース・無期転換コースは、開始日の6か月前から3か月前までに計画書を提出する
  7. 期限内に支給申請書と添付書類を提出する

評価制度コースと無期転換コースは計画の事前提出が必須で、実施後に気づいても申請できません。導入時期から逆算して、半年前には準備を始めるのが安全です。

小売・外食での活用例

以下は制度の使い方をイメージするための想定例です。実際の支給額は要件の確認と審査で決まります。

想定例1:地域スーパーが定年を65歳から70歳へ 1年以上勤務する60歳以上の雇用保険被保険者が5人いるスーパーが、定年を65歳から70歳に引き上げるケースです。定年引上げの表で「4〜6人」「70歳以上への定年引上げ」に当たり、支給額は70万円が目安です。

想定例2:飲食チェーンが希望者全員70歳まで再雇用 調理や仕込みを担う60歳以上のスタッフが8人いる飲食チェーンが、定年は維持しつつ希望者全員を70歳まで再雇用する制度を導入するケースです。「7〜9人」「70歳以上・希望者全員」で105万円が目安になります。

想定例3:ドラッグストアがシニアパートを無期転換 契約更新を続けている50歳以上・通算5年以内のパート3人を無期雇用に転換するケースです。中小企業なら40万円×3人で120万円が目安で、計画書を転換開始の6か月前から3か月前までに提出しておく必要があります。

申請前のチェックリスト

  • □ 65歳までの雇用確保措置(希望者全員)を就業規則で満たしている
  • □ 1年以上継続雇用している60歳以上の雇用保険被保険者の人数を数えた
  • □ 引き上げる年齢と対象者の範囲を決め、支給額の表で区分を確認した
  • □ 就業規則の変更を労働基準監督署に届け出て、従業員に周知した
  • □ 高年齢者雇用推進者を選任し、雇用管理措置を1つ以上実施している
  • □ 継続雇用促進コースは、実施月の翌月から4か月以内の各月1日〜15日に申請する
  • □ 評価制度・無期転換コースは、開始日の6か月前〜3か月前に計画書を出す
  • □ JEEDのお知らせで受付停止の有無を確認した

よくある質問

Q. 定年を60歳から65歳に引き上げても対象になりますか。

A. 支給額の表には「65歳への定年引上げ」の区分があり、1〜3人で15万円、10人以上で30万円です。ただし他の要件もあるため、自社が対象になるかは手引きで確認するか、JEEDの都道府県支部に相談してください。

Q. 定年延長と継続雇用制度の両方を導入したら、2つ分もらえますか。

A. もらえません。あわせて実施した場合でも、支給額はいずれか高い額のみです。

Q. 申請は年度内いつでもできますか。

A. 継続雇用促進コースは、実施日の属する月の翌月から4か月以内の各月1日〜15日が申請期間です。予算の状況で受付が停止される場合もあるため、施行後は早めに申請してください。

Q. 無期転換ルール(通算5年超)で無期になったパートも対象ですか。

A. 高年齢者無期雇用転換コースは、有期契約の期間が通算5年以内の方を無期に転換する場合に限られます。通算5年を超えてから申込みで無期になった方は対象外と考えられるため、転換のタイミングに注意してください。

まとめ

65歳超雇用推進助成金は、65歳までの法定義務を超えてシニアが働ける仕組みを整えた事業主を支援する制度です。2026年度は継続雇用促進、評価制度等雇用管理改善、無期雇用転換の3コースがあり、定年廃止なら10人以上で240万円、無期転換なら中小企業で1人40万円が支給額の目安です。

継続雇用促進コースは実施後の申請期限が短く、評価制度コースと無期転換コースは事前の計画提出が必要です。就業規則の改定と届出を軸に、導入時期から逆算してスケジュールを組みましょう。

要件や受付状況は年度途中でも変わることがあります。申請前にJEEDの最新パンフレットと支給申請の手引きを確認し、都道府県支部に相談してください。

出典