作業服大手のワークマンが再び伸びている。2026年4〜6月期は既存店売上高が前年同期比13.3%増、営業利益は33.3%増だった。原動力は、リカバリーウエア「MEDiHEAL(メディヒール)」に代表される「マス化製品」だ。多品種少量でリスクを抑えてきた会社が、1品で数百億円を売る商売に切り替えつつある。フランチャイズを法人に広げ、単独路面店という出店の原則も見直し、台湾子会社の設立も決めた。「しない経営」を掲げてきた土屋哲雄専務は、この転換をどう捉えているのか。小売ITライターの鹿野恵子が聞いた。

話し手:土屋哲雄氏(株式会社ワークマン 専務取締役)

聞き手:鹿野恵子(小売・ITライター、プレーンテキスト)

第二の成長期を支える「マス化製品」

鹿野:既存店売上高も利益も大きく伸びています。取材前日に銀座のワークマンカラーズを見ましたが、平日の昼間でもお客さんが多く、皆さんメディヒールを熱心に見ていました。再び伸び始めた転換点はどこにあったのでしょうか。

土屋:いまは「第二の成長期」です。第一の成長期は、2018年にアウトドア寄りの業態「ワークマンプラス」を始めたときで、アウトドアブームとコロナ禍が重なって伸び、その後は普通の成長に戻りました。

第二の成長期をつくったのが「マス化製品政策」です。たくさんの商品を「広く浅く、少しずつ」扱う専門店から、「一品大量生産、大量陳列」に変えつつあります。1品で全売上の10%以上を占める製品を5つつくり、売上の半分をまかなう。その転換期にあって、社内は混乱もしています(苦笑)。

鹿野:銀座の店舗でも、メディヒールの大量陳列には驚きました。

土屋:これまでは、1つの製品の店頭在庫は5点から10点でした。10点以上持つ製品は1割もなく、あとは2、3個です。自動発注は在庫が多いほど大数の法則(※)が働いてうまく回るのですが、そういう「横に広がった」店でした。それがいまはリカバリーウエアだけで、今年は2000万着、金額で300数十億円売れそうです。

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リカバリーウエア「MEDiHEAL(メディヒール)」の大量陳列。(写真提供:ワークマン)

「しない経営」の延長にある一品重点主義

鹿野:土屋さんは「しない経営」を掲げてこられました。一方で、マス化製品への集中やテレビCM、チラシなど、攻めの動きが目立ちます。なぜ踏み切ったのですか。

土屋:今回も「しない経営」の延長だと思っています。「しない」を裏返すと、最重点の1つだけをやって、あとは全部捨てるということです。マス化も、その「一品重点主義」の流れです。

鹿野:5つというのは、ほかに何がありますか。

土屋:熱中症対策のファン付きウエアや、半導体で冷やす冷房服(ペルチェ半導体冷房服)です。企業の熱中症対策が義務化されたこともあって、200億円ぐらいの規模です。「不審者パーカー」と呼ばれている商品など女性向けのUV対策品や肌着も、本気でやれば200億円いきます。全部やると店舗が忙しすぎて品出しができなくなるので、総量をコントロールしながら進めています。

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 女性向けのUV対策品の売場(写真提供:ワークマン)

鹿野:何かに特化するということは、何かを削ってもいるわけですよね。

土屋:マス化製品以外のアイテムは2割ぐらい削りました。マス化製品は袋入りでフックにつるせるので、ハンガー掛けがいらず、品出しが簡単です。

鹿野:構成比10%以上の製品が5つなら、最終的には売上の50%になりますね。

土屋:いまが33%です。去年ぐらいに始めて、もう33%まで来た。会社で議論する前から担当者がやっていたんじゃないか(笑)。経営があまり口を出さない会社なので、追認するしかありません。

不文律を壊すたびに成長してきた

鹿野:多品種を少量ずつ売るモデルは、ご自身たちがつくってきたものです。それを壊すことに不安はありませんでしたか。

土屋:会社のDNAは守りたいんです。けれども振り返ると、それを壊したときに成長しています。たとえばフランチャイズは個人の加盟店だけでしたが、法人に広げたらとても好調です。

もっと大きな破壊もあります。ワークマンは単独の路面出店と決まっていました。それをスーパーやドラッグストア、ホームセンターの中に出してみたら、売上が2、3割違った。1100店も出してから気づくなんて遅すぎないか、と言われています。

鹿野:不文律に従って1000店規模まで増やし、そこで何かを壊すとブレイクスルーが起きる。

土屋:ちょっと停滞したら、何かを壊せばいいんです。

マス化製品で壊したのは、専門店としてのリスク分散です。小さい商品なら、損をしても単品で5億、10億円です。ところがマス化製品は200億、300億円の発注をかけます。在庫になれば100億円で、全損なら経営者がクビになるかもしれない額です。そこでリスクの体系を変えて、100億円残っても大丈夫な体制をつくりました。ボーナスは減っても、社員の5%以上の昇給には影響しないようにしています。

データ経営は、忖度なしで議論するためにある

鹿野:ワークマンといえば「エクセル経営」です。ワークマンにとって、データを活用するとはどういうことですか。

土屋:データで儲けようという話ではありません。ワークマンはオーナー系の会社で、上が決めて下が実行する文化でした。それでは現場の知恵が上がってきません。上は私をはじめ凡人ばかりですから、上の命令で会社がうまくいくとも思えなかった。上も下も分け隔てなく、忖度しないで「データではこう見える。だからこうではないですか」という議論がしたくて、データ経営を始めました。

数字の取り方か、読み方か、どちらかが間違っているだけなので、相手を全面否定しなくて済みます。そして出てきた数字は、結論としてみんなが受け入れる。その土壌をつくったことが、ここまで発展できた原因だと思っています。

鹿野:現場では具体的にどんな数字を見ているのですか。

土屋:加盟店では、本部の標準棚割りをどれだけ実行したかという率を見ています。地域特性があるので、100%ではだめなんです。先に展開している東北は85%、あとから展開した関西や西日本は76%というように県ごとに基準値を変えて、その1点だけを見る。そうすると売上が最大化します。

経営幹部は、自分の意見を通す人より「意見を変える幹部」がいい幹部です。私は「私の意見は半分間違っているから、データをよく見て自己判断でやってください」と言っています。現場のほうが知恵があるので、そのほうが勝率が高いんです。

鹿野:データを見る社員と見ない社員では、違いが出ますか。

土屋:違います。ただ、データを見ずに勘だけで正しい答えを出す社員もいます。これは模範になりません。真似しても、そこまでいけない。だから凡人の経営、データ経営でいいんです。エビデンスに基づく再現性です。

データのない市場をどう予測するか

鹿野:メディヒールのような新カテゴリーは、過去の販売実績では予測できません。データが存在しない市場には、どうアプローチしているのですか。

土屋:メディヒールを100万枚つくるのか、1000万枚つくるのかを予測しなければいけません。方法は2つです。

1つはベイズ統計で、試行錯誤を重ねて正しいところに行き着く考え方です。当社では、何着売れるかをSV(スーパーバイザー)に聞きました。あわせて、自分の意見は少数派だと思うか、確信があるかも聞く。少数派で確信の高い人の意見は聞いたほうがいい。前回当たった人は重みを増やす。それで誤差がプラスマイナス2割ぐらいに収まりました。

もう1つはAIです。最新のものではなく機械学習ですが、需要予測ではけっこう当たります。

鹿野:確信の度合いまで数値化しているのですね。

土屋:2、3人が勝手にやっているんです。ノルマではなく遊びのようにやって、成果が出たら教えてねと言ってあります。社内にノウハウは確実にたまっています。

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新店オープン時には今も行列ができる(写真提供:ワークマン)

生成AIで事務時間を15%削減

土屋:AIをいま一番使っているのは事務の合理化です。生成AIにPythonのプログラムを作らせて、人事や経理、貿易実務の人たちが使っています。仕事の結果を知っている人たちなので、結果が違えば指示を詳しくしてやり直せます。これで業務時間を15%削減できました。第一線を少し退いた60歳の人もPythonでプログラミングしています。

鹿野:そういう基盤がもうできているのですね。

土屋:昔、エクセルで全員がトライ&エラーをして、試験も受けました。当時の平社員から部長や幹部になった人がずいぶんいます。いまは経営幹部が全員、データ経営の申し子のようになっています。社長まで、1日1時間はエクセルで経営シミュレーションをしています。

社内のデータベースがみんなエクセルに落ちるので、自分で加工したいんです。昔はマクロでしたが、いまはAIに書かせるほうが簡単だということで、ある日突然そちらに変わりました。

当社のように統制が少ない会社は、生成AIに向いています。カタログや服のデザイン、設計にもずいぶん使っています。アイデアを出すことにはまだ使えませんが、省力化の効果は抜群です。

SNSの効果を定量化し、足りない分をテレビCMで補う

鹿野:ワークマンはインフルエンサーと商品を開発し、発信してもらって売る流れをつくってきました。データ経営とSNSはどう結びついていますか。

土屋:マス化製品でリスクの量が従来の100倍ぐらいになったので、SNSの効果を定量化しなければいけません。次の展示会にはインフルエンサーが800人、無償で来ます。総フォロワー数は延べ4000万人です。その効果でリカバリーウエアがどこまで売れるかを計算して、売れない分にテレビCMを出す。CMは1カ月前の告知で出せるので、コンテンツだけつくっておいて、0から10億円まで調整できます。いまはEXILEのTAKAHIROさんや吉田沙保里さんに出演していただいています。

SNSでわかったのは、インフルエンサーはワンテーマだということです。展示会を1回にまとめると、SNSに上がるのはどちらか片方だけになる。だから「メディヒール系」と「エックスシェルター系」に分けます。1回1億円以上かかりますが、別々にやれば800人がワンテーマで上げてくれるのではないか。やってみたら、そのとおりでした。

鹿野:テレビCMに乗り出すのも、大きな経営判断でしたよね。

土屋:それも禁止でした。5万着、10万着の多品種少量なら、インフルエンサーを10人ほど呼んで小さな展示会を開けば売れてしまいます。ところが今度は2000万着で、相当計画しなければいけない。やっとまともな会社らしくなってきました(笑)。

鹿野:エクセル経営の次に来るデータ経営は、どんな姿になりますか。

土屋:エクセル経営は徹底しました。次はAI経営ですが、まずは「AIレディ」、つまりAIに対して準備ができている経営です。頼りすぎてもいけないけれど、まったく知らないと会社が滅びてしまう。AIが本格化したとき、翌日からでも使えるようにAIリテラシーを高めておく。GoogleのGemini系のものを買って、義務づけはせず、「勝手に遊んでいてくれ」と言っています。いまは草の根で勉強会をやっています。

法人FCと、他の小売の敷地への出店

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女性客と相性がいいワークマンカラーズ(写真提供:ワークマン)

鹿野:成長戦略として興味深いのが法人フランチャイズ(FC)です。スーパーやGMS、大型商業施設など、他の小売業と組んで出店していく。なぜ力を入れるのですか。

土屋:法人FCを始めたことと、他の小売店の建物の中や敷地に出店させてもらうようになったこと。これがいまの好調を支えています。

個人FCの路面店は年間22日が休みです。収入と休みのどちらを増やしたいかを聞いたら、断トツで休みだったので、20日から増やしました。逆に法人FCは、休みは要らないから売上が4億円以上あるところにしてほしいと言います。利害が重ならないんです。

休みのない大型ショッピングモールには、個人の加盟店では出店できず、これまではフラッグシップ店を20店ほど出して終わっていました。売上4億円のモール内の店舗は、忙しいうえに正月も営業します。個人FCはやりたがりません。だから法人FCを始めても、個人の加盟店からクレームは1件も来ませんでした。

出店場所も、スーパーやドラッグストア、ホームセンターの敷地に出すと売上が1.3倍ぐらい違います。そこで、そちらを原則にして、単独路面のほうを稟議で審査することにしました。180度変わりました。

鹿野:法人FCには、どんな会社が手を挙げているのですか。

土屋:FC業界で1位のような会社、G-7さんなどにもやっていただいています。100円ショップや無印良品さんのFCをやっていて、リスクを分散したいという会社もけっこうあります。あっという間に20〜30社になりそうで、案件が足りないとせっつかれています(苦笑)。いま経営資源で一番足りないのは「販売する空間」です。

鹿野:法人FCと一緒にテナント出店を進めるのが、今後の方向性ですか。

土屋:モール以外でも、GMSさんで、自社の店舗スペースをうちに貸して、自分で運営したいという会社がずいぶんあります。賃貸契約と法人FC契約を同時に結んで、運営してもらう。これはかなり増えると思っています。

GMSさんから見ると、自前のアパレルよりうちのほうがはるかに売れるので、売場の一部を切り替える。塵ひとつない売場をつくってくれますし、ディスプレイも上手で、うちが勉強しなければいけません。2階にワークマンができると、1階の食品売場にも若い女性やファミリーが来るということで感謝されています。開店時に売上が2割ぐらい上がった店もあります。

鹿野:出店する業態は「ワークマンカラーズ」が中心ですか。

土屋:女性客と相性がいいのがカラーズで、男性客と相性がいいのがホームセンターです。ホームセンターには作業服中心のワークマンプラスを出しますが、売上が1.4倍から1.5倍になります。スーパーに出すカラーズは1.3倍ですから、ホームセンター恐るべしです。

ホームセンター側は、目の前にうちが出ると作業服の売上が減るのではないかと心配しますが、それは一切ありません。兄弟会社のカインズとは数字を見せ合っています。カインズの作業服も下がっていないし、工具や建設資材の売上も上がっています。

台湾ではオペレーションの実験をしたい

鹿野:次の成長市場として海外があります。台湾を起点に進める計画ですが、日本のモデルはそのまま通用するとお考えですか。

土屋:台湾には私自身が2年間留学していたのでよく知っています。絶対にうまくいくと思っています。日本で流行っているものをほぼ受け入れてくれる、日本にとって最も友好的な地域です。問題はその次で、マレーシア、その次のタイやベトナム、インドネシアあたりからはギャップがとても大きい。

台湾では、10店舗で100億円ぐらいできないかと考えています。海外は効率に厳しいので、店を少し大型化して、日本とは違うオペレーションにする。成功するのは当たり前で、オペレーションの実験をしたいんです。

鹿野:海外では、一般向けのカラーズと職人向けのどちらから始めますか。

土屋:カラーズしか出しようがありません。作業服は、海外にはあまりないんです。欧州ではオーダーメイドでしっかりした作業服をつくって10年、20年着ます。うちのように6カ月で消耗品として買い替える需要がありません。

カラーズでも、機能性が強い製品のほうが競合がいません。エックスシェルターは暑さにも寒さにも強い。これをマス化製品の中のヒット製品にして、400億、500億円やろうとしています。ワークマンといえばエックスシェルター、という看板にしたい。

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着る断熱服「Xshelter(エックスシェルター)」の売場(写真提供:ワークマン)

極寒対策、暑熱対策に加えて、1日の温度差に強い素材をつくりました。もっと重要なのは、通年で着られる合い物です。朝、5度の中を歩いて電車に乗ると25度ある。脱ぎたいけれど、混んだ電車では脱げません。衣服内の温度は30度が一番快適で、寒くても暑くても30度に保てるものをつくりました。これを猛烈に普及させたい。

鹿野:台本にない質問です。国内では、トライアルさんのように低価格の衣料品を打ち出す小売も出てきました。どう見ていますか。

土屋:トライアルさんの商品は、いい製品です。ただ、商品はつくっただけでは売れません。当社はSNSが圧倒的に強い。消費者向けのビジネスの中で、動員力は一番ではないでしょうか。日本には機能オタクが多く、女性でも機能に関心がある人がとても多い。オタク心をくすぐる製品をつくるのが、当社の基本戦略です。それで2000億円になり、3000億円が見えてきました。

優しいほうが厳しい

鹿野:業績が落ち着いていた時期は、どんな気持ちでいらしたのですか。

土屋:あれは、わざと巡航速度に落としたんです。社員があまりに疲弊して、生きるの死ぬのという話になってきた。3割成長は良くない、社員あっての会社だから5、6%の巡航速度でいくべきだ、という「巡航速度論」が出て、そうしました。

鹿野:従業員にもFCの加盟店にも、優しいですよね。

土屋:休みを増やせば利益は減るんですけれどね。でも優しさは、回り回って永続性のようなものにつながると思っています。

鹿野:小売業には厳しい会社が多い印象です。なぜ優しい経営ができるのでしょう。

土屋:優しいほうが厳しいんですよ。当社はノルマも期限もない会社なので、できるまでやり続けます。だめだったら担当を変えてもらったほうが楽なんです。「1年でやれ」と言うより、「いつできてもいいけれど、できるまでやってね」と言うほうが、早くできるんです。

次の一手は「深さを求める経営」

鹿野:この企画では、次の成長をつくる「一手」を伺っています。ワークマンの次の一手は何でしょうか。

土屋:ここ数年はマス化の深掘りです。作業服の専門店だった頃は、品揃えが横に広がって、底が浅かった。その専門店体質、これも不文律でしたが、変えたら違う世界が広がりました。製品数が減るので加盟店も当社も儲かる。深さを求める経営がこの2、3年のテーマです。

鹿野:2030年、ワークマンはどんな会社になっていると思いますか。

土屋:専門店的な性格がかなり減って、エックスシェルターといえばワークマン、断熱といえばワークマン、熱中症対策といえばワークマン、というように、機能の1つ、2つで知られるワンテーマ型の会社に寄っていく気がしています。

テーマは「気候」です。1日の温度差、寒さ、暑さ。雨も、降るときは想定の2、3倍降る。そういう極端な天候がもっと進むと見て、先取りしてそこに張っています。

鹿野:気候という、誰にでも等しく与えられた環境に適応して生きていくための衣服を提供する会社ですね。

土屋:生きていくことと、快適さの追求です。気候の影響を遮断する。それがテーマだと思います。

(談・文責/鹿野恵子)

▼インタビュー動画はこちら▼

https://storeguide.proguide.co.jp/movie/4100/

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