飲食店は、予約時にキャンセルポリシーを示して同意を得ておけば、無断キャンセルや直前キャンセルに対してキャンセル料を請求できます。ただし、金額は実際に生じる損害を説明できる範囲にとどめる必要があり、根拠のない高額設定は消費者契約法で無効になるおそれがあります。

この記事は、歓送迎会や宴会の予約が集中する時期を控えた飲食店の経営者・店長、予約受付を担当するスタッフに向けて書いています。団体予約の多い居酒屋やレストランを主に想定しています。

以下では、経済産業省の「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」の内容、キャンセル料の考え方と消費者契約法の上限、ポリシーの示し方、事前決済やリマインドによる予防、請求と回収の手順、団体予約や悪天候時の扱いを順に解説します。

無断キャンセル(No show)の実態

経済産業省は2018年11月1日、有識者勉強会がまとめた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」を公表しました。予約したのに連絡なく来店しない「No show」は、飲食店の予約全体の1%弱で発生し、被害額は推計で年間約2,000億円とされています。

同レポートは、前日・前々日のキャンセルも含めると発生率は6%を超え、損失は約1.6兆円にのぼると推計しています。プレスリリースでも、1回のNo showが飲食店を廃業に追い込む可能性があると指摘されています。

キャンセルが起きるタイミング

タイミング予約全体に占める割合(レポートの推計)
無断キャンセル(No show)0.9%
当日キャンセル3.9%
前日キャンセル1.1%
2日前キャンセル0.6%
3日以上前のキャンセル2.8%

当日キャンセルの割合が無断キャンセルより大きい点に注意が必要です。対策は「来ない客」だけでなく、直前のキャンセルや人数減少まで含めて考えると効果的です。

お客様側に求められていること

レポートは店側の対策だけでなく、消費者に対しても、行けなくなったら利用できる手段でできるだけ早く店に連絡するよう求めています。キャンセル料が高すぎると感じた場合は、消費生活センターに相談するよう案内しています。店側も、お客様が連絡しやすい窓口を用意しておくことが、無断キャンセルを減らす前提になります。

キャンセル料はいくらまで請求できるか

請求できる根拠

レポートは、電話も含め、日時・人数などの予約内容が確定した時点で契約が成立しうると整理しています。無断キャンセルは契約上の債務不履行(民法415条)に当たり、店は損害賠償としてキャンセル料を請求できると説明しています。

一方で、店は請求額の算定根拠を説明できる必要があります。根拠があいまいな金額設定は、トラブルの原因になります。

レポートが示す目安

予約の種類損害額の考え方(レポートの整理)注意点
コース予約債務不履行による損害が、その全額となることがある他に転用できる食材費や人件費など、店が支出を免れた分は差し引く
席のみの予約客観的基準により算定した平均客単価の何割かを、損害賠償額の一つの目安と考えられる具体的な割合は示されていない。店ごとの実績から説明できる割合にする

レポートでは、パーティーのキャンセルについて、1人あたり料金4,500円の3割に予定人数35名を掛けた額を「平均的な損害」とした裁判例も紹介されています。これは個別の事例であり、一律の基準ではない点に注意してください。

消費者契約法9条の上限

消費者契約法9条1項1号では、解除に伴う損害賠償額の予定や違約金の条項について、同種の解除で事業者に生ずべき「平均的な損害の額」を超える部分は無効とされています。キャンセルポリシーに「当日キャンセルは200%」などと書いても、平均的な損害を超える部分は請求できません。

また、2022年の改正で同条2項が追加され、消費者から説明を求められたときは、キャンセル料の算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないとされました。原価率や再販売できた割合など、自店の数字で説明できるよう準備しておきましょう。

キャンセルポリシーの決め方と示し方

キャンセル料を請求するには、予約時点でお客様がポリシーを知り、同意していることが重要です。レポートも、電話予約を含めてキャンセルポリシーを明示することを店側の対策として挙げています。

ポリシーに書く項目

  • キャンセル料が発生する期限(例:前日、当日、無断)と、それぞれの金額や割合
  • コース予約と席のみ予約の区別
  • 人数減少の扱い(何日前まで無料で変更できるか)
  • 連絡先と受付時間(電話がつながらない時間帯の連絡方法)
  • 悪天候や感染症などやむを得ない事情の扱い
  • 支払方法(店頭、振込、事前決済での相殺など)

予約経路ごとの示し方

予約経路示し方の例記録の残し方
電話受付時にキャンセル料の条件を読み上げ、了承を得る。SMSやメールで予約確認と一緒に送る予約台帳に「ポリシー説明済み」と記入。送信履歴を保存
自社サイト・予約フォーム送信ボタンの前にポリシーを表示し、同意のチェック欄を設ける予約データに同意日時を残す
グルメ・予約サイト店舗ページと予約画面の注意事項欄にポリシーを掲載するサイトの予約確認画面や管理画面の記録
SNS・メッセージ予約確定の返信にポリシーを記載し、了承の返事をもらうやり取りのスクリーンショット

店頭や店舗ページに掲示しておくだけでなく、予約ごとに個別に伝えることが大切です。幹事以外の参加者にも伝わるよう、予約確認の文面に入れておくと効果的です。

無断キャンセルを防ぐ仕組み

連絡先の確認とリマインド

レポートは、予約時に確実につながる連絡先を聞き、SMSやメールで予約を再確認することを勧めています。リマインドの中にキャンセルの手段を入れておくと、お客様が気軽に連絡でき、無断キャンセルを直前キャンセルに変えられます。

歓送迎会のように予約から来店まで日数が空く予約では、1週間前と前日など、複数回の連絡が有効です。前日の連絡で人数を確定すると、食材の仕込み量も調整しやすくなります。

事前決済・預かり金

レポートは、予約の人数や金額から一定規模以上の被害が予想される場合、事前決済や預かり金の導入も考えられるとしています。すべての予約に求めると敬遠されるため、次のように対象を絞るのが現実的です。

  • 一定人数以上の団体予約、貸切予約
  • 繁忙期の金曜・土曜の夜など、キャンセルが出ると埋め直しにくい枠
  • 過去に無断キャンセルがあったお客様からの予約

キャンセルになった場合に預かり金からいくら差し引くかも、ポリシーに明記しておきましょう。

請求と回収、特殊なケースの扱い

請求の手順

  1. 予約記録、ポリシーへの同意の記録、連絡の履歴をそろえる
  2. 電話やSMS、メールで来店がなかったことを伝え、キャンセル料と算定根拠を示して支払いを依頼する
  3. 応じない場合は、請求書を書面で送る。証拠を残すため内容証明郵便を使う方法もある
  4. それでも支払われない場合は、簡易裁判所の手続や弁護士への相談を検討する

裁判所の説明では、少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める訴えが対象で、原則として1回の審理で紛争を解決する手続です。利用は1人につき同じ裁判所に年間10回までと制限されています。費用や手間に見合うかを考え、宴会など金額の大きい予約で検討するのが一般的です。

嫌がらせを目的とした虚偽の予約が繰り返されるなど、悪質なケースは警察に相談することも選択肢です。証拠となる予約記録や通話記録は消さずに保存しておきましょう。

団体予約の人数減少

歓送迎会は、異動や体調不良で直前に人数が減ることがよくあります。「前日までの人数変更は無料、当日の減少分はコース料金の一部を請求」など、人数減少のルールを無断キャンセルとは別に決めておくと、幹事とのやり取りがスムーズです。

悪天候・感染症流行時

大雪や台風で交通機関が止まった場合や、参加者が感染症にかかった場合のキャンセルを一律に有料とすると、お客様の不満につながりやすくなります。こうした場合は無料または減額とする、日程変更を優先して提案するなど、店の方針を事前にポリシーに書いておくことをおすすめします。

歓送迎会シーズン前のチェックリスト

  • □ キャンセル料の期限と金額を、コース予約・席のみ予約別に決めた
  • □ 金額の算定根拠(原価率、再販売の可能性など)を説明できるよう整理した
  • □ 電話予約でポリシーを読み上げ、確認メッセージを送る手順を決めた
  • □ 予約サイト・自社サイトにポリシーを掲載した
  • □ 予約時に確実につながる連絡先を聞くようにした
  • □ 団体予約に対するリマインドの時期を決めた
  • □ 事前決済・預かり金の対象とする予約を決めた
  • □ 人数減少、悪天候、感染症時の扱いをポリシーに書いた
  • □ 無断キャンセル時の請求文面と担当者を決めた

よくある質問

Q. 電話で受けた予約でもキャンセル料を請求できますか。

A. 経済産業省のレポートは、電話でも予約内容が確定すれば契約が成立しうると整理しています。ただし、請求時の争いを避けるため、ポリシーを伝えたことを記録し、確認メッセージを送っておくことが大切です。

Q. 無断キャンセルなら、コース料金の全額を請求してよいですか。

A. レポートでは、コース予約の損害は全額となることがあるとしていますが、他に転用できた食材費などは差し引く必要があります。仕込みの状況や再販売の有無を踏まえて金額を決めてください。

Q. キャンセル料を高めに設定しておけば抑止になりますか。

A. 平均的な損害の額を超える部分は消費者契約法9条により無効となるおそれがあります。抑止効果は、高額設定よりもリマインドや事前決済で確保するほうが確実です。

Q. 幹事と連絡が取れなくなりました。どうすればよいですか。

A. まず予約時の連絡先にSMS・メール・電話で連絡し、記録を残します。応答がなければ書面で請求し、金額が大きい場合は少額訴訟などの手続や弁護士への相談を検討してください。

まとめ

無断キャンセルは予約全体の1%弱ですが、当日・前日のキャンセルも含めると影響は小さくありません。キャンセル料は請求できるものの、平均的な損害を超えない範囲で、根拠を説明できる金額にすることが前提です。

歓送迎会シーズンの前に、ポリシーの整備、予約経路ごとの明示、リマインド、団体予約への事前決済、人数減少や悪天候時のルールをそろえておきましょう。予防の仕組みを整えることが、請求の手間を減らす一番の近道です。

出典