生成AIの進化によって、EC・店舗を取り巻く購買体験が大きく変わろうとしている。
その新たなキーワードが「Agentic Commerce(エージェンティックコマース)」だ。
従来のECでは、
消費者が検索する
↓
商品を比較する
↓
商品を選ぶ
↓
カートへ入れる
↓
決済する
という一連の行動を、人間自身が行ってきた。
Agentic Commerceでは、このプロセスの一部または大部分を「AIエージェント」が担う。
例えば、
「今週末のキャンプに必要な食材を1万円以内で揃えて」
「4人家族向けに、1週間分の日用品を予算内で注文して」
「今日19時から4人で入れる、会社近くの飲食店を予約して」
といった依頼に対して、AIが商品・店舗を探し、比較し、提案し、場合によっては注文や決済まで実行する世界だ。
こうした購買体験を実現するため、テクノロジー企業、ECプラットフォーム、検索・レコメンド企業、決済事業者などが相次いでAgentic Commerceへの対応を進めている。
今回は、小売・外食企業が注目したい関連ソリューション30社を紹介する。
1.Google Cloud|Gemini Enterprise for Customer Experience
Google Cloudは、小売業界向けにGeminiを活用したShopping agentを展開している。
ユーザーの自然言語による要望を理解し、商品を検索。リアルタイムの在庫などを踏まえて候補を提示し、カート作成から購入までを支援する。
さらにGoogleは「Universal Commerce Protocol(UCP)」や「Agent Payments Protocol(AP2)」など、AIエージェントと企業のコマース基盤・決済を接続する仕組みの整備も進めている。
小売企業にとって、Agentic Commerceを考えるうえで重要なプレイヤーの一つとなっている。
領域:AI接客/商品検索/レコメンド/AIエージェント/決済
2.Shopify|Agentic Storefronts
ShopifyはAgentic Commerceを今後のコマース基盤の重要領域として位置付けている。
Googleと共同開発したUCPを活用し、Google検索のAI Mode、Gemini、Microsoft CopilotなどのAIチャネルからShopify加盟店の商品を発見・購入できる環境を整備。
「Agentic Storefronts」を通じ、加盟店側からAIチャネルを管理できる仕組みも提供している。
EC事業者にとって「自社ECへの集客」だけでなく「AI上で商品を販売する」という新しい販売チャネルを構築する存在になりつつある。
領域:EC/商品データ/AIチャネル/チェックアウト
3.Salesforce|Agentforce Commerce
Salesforceが展開するAgentforce Commerceは、B2C・B2Bコマース、POS、注文管理などとAIエージェントを統合するプラットフォームだ。
Shopper Agent、Buyer Agent、Merchant Agentなどを展開。
商品発見・レコメンド・購入だけでなく、マーチャンダイザー側の業務支援までAgentic AIの対象としている。
CRMに蓄積された顧客データとの連携も大きな特徴だ。
領域:CRM/EC/AI接客/商品検索/POS/注文管理
4.Adobe|Adobe Commerce
Adobe CommerceもUCP、Agentic Commerce Protocol(ACP)、AP2など、Agentic Commerce関連標準への対応を表明している。
ブランド側が顧客関係や商品データ、ブランド体験をコントロールしながら、ChatGPTやGeminiなどAI主導のショッピングチャネルへ商品情報を展開できる環境を目指している。
Adobe Experience Platformなどとの連携による顧客データ活用も注目ポイントとなる。
領域:EC/CX/商品データ/コンテンツ/パーソナライゼーション
5.Microsoft|Copilot/Microsoft Merchant Center
MicrosoftはCopilotをAgentic Commerceの新たな購買接点として位置付けている。
Microsoft Merchant CenterではUCP対応の商品フィードを整備し、返品ポリシー、カスタマーサポート、商品情報などをAIが理解できる状態にする仕組みを提供。
Copilot上での商品発見からチェックアウトにつながる環境を構築している。
領域:AIショッピング/商品検索/商品データ/広告
6.AWS|Amazon Bedrock AgentCore
AWSはAmazon BedrockやAmazon Bedrock AgentCoreなどを活用したAgentic Commerce環境を提案している。
AWS Summit Japan 2026でも「Future of Agentic Commerce」をテーマとして、AIエージェントが商品検索・比較・購入・決済を行う次世代ECを紹介した。
既存のECや商品DBなどを活用しながら、企業独自のAIエージェントを構築する基盤として注目される。
領域:生成AI/AIエージェント/クラウド/EC基盤
7.SAP|SAP Commerce Cloud
SAPはSAP Commerce CloudにStorefront MCP Serverを導入。
商品、価格、在庫、プロモーションなどをAIエージェントから理解・利用できるようにし、ChatGPTなどAIプラットフォーム上の商品発見や購買体験につなげる構想を進めている。
基幹システムやサプライチェーンとコマースをつなげられる点も特徴となる。
領域:EC/ERP/在庫/価格/商品情報
8.commercetools|Composable Commerce
ヘッドレス・コンポーザブルコマースを展開するcommercetoolsもAgentic Commerce時代の重要なプレイヤーだ。
API中心のコマース基盤により、AIエージェントと商品、価格、カート、注文などの機能を柔軟に接続しやすい。
既存ECを全面刷新せず、Agentic Commerce機能を組み込んでいきたい大規模小売企業などで検討対象となり得る。
領域:ヘッドレスEC/API/Composable Commerce
9.NVIDIA|Retail Agentic Commerce Blueprint
NVIDIAはRetail Agentic Commerce Blueprintを公開している。
AIエージェントによる商品発見、プロモーション交渉、レコメンド、チェックアウト、購入後コミュニケーションなどを実装するためのリファレンスアーキテクチャだ。
ACPとUCPの双方を実装し、企業側が価格・在庫・決済・コンプライアンスを管理しながらAIチャネルと接続できる設計となっている。
領域:AI基盤/LLM/レコメンド/Agentic Commerce
10.Algolia|Agent Studio
検索・ディスカバリー領域で世界的に展開するAlgoliaは「Agent Studio」を強化している。
従来の商品検索から一歩進み、「条件を会話で伝えて商品を探してもらう」購買体験を構築できる。
企業の商品データを基盤としてAIエージェントを動かすことで、生成AIによる誤った商品提案を抑えながら、会話型の商品探索を実現する。
領域:サイト内検索/AI検索/商品発見/レコメンド
11.Bloomreach|AI Commerce
Bloomreachは検索、パーソナライゼーション、マーケティングオートメーションなどを統合したCommerce Experience Cloudを展開する。
Agentic Commerceでは、AIエージェントから商品が発見できる商品データ基盤と、自社サイト上のAIショッピング体験の双方が重要になると位置付けている。
領域:検索/レコメンド/パーソナライゼーション/CDP
12.Coveo|AI Search & Relevance
CoveoはAI検索、レコメンド、パーソナライゼーションを提供。
ユーザーのキーワードそのものではなく「意図」を理解し、適切な商品やコンテンツへ誘導する技術はAgentic Commerceとの親和性が高い。
領域:AI検索/レコメンド/パーソナライゼーション
13.Constructor|AI Product Discovery
ConstructorはEC・小売に特化した商品検索・ディスカバリープラットフォームを展開。
検索、Browse、レコメンドなどを通じ、購買意図に適した商品を提示する。
AIエージェント時代には「AIが理解できる商品探索基盤」の重要性が増すため、商品Discovery領域のプレイヤーにも注目したい。
領域:EC検索/商品発見/レコメンド
14.Oracle|Oracle Commerce/Retail
OracleはCommerce、Retail、CX、ERP、データベースなど、小売企業の幅広いシステムを展開する。
Agentic AIを商品・顧客・在庫・業務データと接続することで、顧客向けショッピングだけでなく、マーチャンダイジングや店舗・バックオフィス業務まで自動化できる可能性を持つ。
領域:EC/Retail/ERP/AI/データ
15.OpenAI|ChatGPT
消費者側の購買インターフェースとして大きな存在になり得るのがChatGPTだ。
Agentic Commerce Protocol(ACP)を通じ、企業の商品情報とAIエージェントを接続する仕組みが整備されている。
小売企業から見れば、今後「Google検索」「ECモール」「SNS」に加えて「ChatGPT上で商品を発見してもらう」というチャネルを考える必要が出てくる。
領域:生成AI/AIショッピング/商品Discovery
16.Mastercard|Mastercard Agent Pay
Agentic Commerceの実現に欠かせないのが決済だ。
Mastercardは「Mastercard Agent Pay」を展開し、AIエージェントがユーザーから与えられた権限の範囲内で安全に決済できる仕組みを構築している。
AIエージェントによる取引で「誰が、何を、どの権限で購入したか」を確認するための認証・セキュリティも重要になる。
領域:Agentic Payment/決済/認証
17.Visa|Visa Intelligent Commerce
VisaもAIエージェントによる購買・決済を支える「Visa Intelligent Commerce」を展開している。
AIが単に商品を提案するだけでなく、消費者から与えられた条件・権限のもとで安全に取引を行うための決済インフラを構築する。
領域:決済/AIエージェント/認証/セキュリティ
18.Stripe|Agentic Commerce
StripeはAIエージェントが利用者の許可のもとで決済できる「Shared Payment Tokens(SPTs)」などを提供。
2026年にはMastercard Agent PayやVisa Intelligent Commerceなどへの対応も拡大している。
EC事業者側から見ると、既存のStripe決済とAgentic Commerceをつなぐ存在として注目される。
領域:決済/トークン/Agentic Payment
19.Adyen|Adyen Agentic
Adyenは2026年、「Adyen Agentic」を発表。
Agentic Feed、Agentic Cart、Agentic Paymentsという3つのレイヤーを通じ、商品発見からカート、決済までをAIプラットフォームと接続する。
企業側がAIチャネルごとに個別開発する負担を減らす「Universal Translator」という考え方を打ち出している。
領域:決済/商品Feed/Cart/AIチャネル
20.PayPal|Agentic Commerce Services
PayPalは加盟店向けにAgentic Commerce Servicesを展開している。
商品カタログをAIショッピング環境へ接続し、自然言語による商品発見、カート管理、購入までを支援する。
BigCommerce、Feedonomics、Wix、Shopwareなどとの接続も進めている。
領域:決済/商品検索/AIショッピング
21.Checkout.com|Agentic Commerce
Checkout.comはAgentic Commerce Protocol(ACP)への対応を進めている。
AIエージェントによる商品選択から決済までを安全につなげるため、本人確認、ID管理、不正防止なども含めた決済インフラを構築している。
領域:決済/不正対策/認証/AI Commerce
22.Klarna|AI Shopping
決済・BNPLを展開するKlarnaもAIを活用したショッピング体験を強化している。
商品検索・比較と決済の距離が短くなるAgentic Commerceでは、BNPLを含む多様な支払い方法をAIエージェントが適切に選択できる環境も重要になる。
領域:BNPL/AIショッピング/決済
23.Affirm|Agentic Payment
BNPL大手のAffirmもAgentic Commerceの決済エコシステムに参加している。
Stripeは2026年、Shared Payment Tokensを通じたAgentic CommerceでAffirmなどBNPLへの対応拡大を発表した。
高単価商品などでは、AIが商品だけでなく「支払い方法」まで比較・提案する可能性がある。
領域:BNPL/決済/Agentic Payment
24.BigCommerce|Commerce
BigCommerceは企業向けECプラットフォームを展開。
PayPalのAgentic Commerce Servicesなどとも接続され、商品カタログをAIによる商品発見・購入チャネルへ展開するための基盤の一つになっている。
領域:EC/商品カタログ/API
25.Feedonomics|Product Feed Management
Agentic Commerce時代に重要性が増すのが「商品データ」だ。
Feedonomicsは商品フィード管理・最適化を展開し、商品データをさまざまなチャネルへ配信する。
AIが商品の特徴・価格・在庫などを正確に理解するには構造化された商品情報が必要であり、フィード管理はAgentic Commerceの重要な基盤となる。
領域:商品データ/商品Feed/EC
26.Wix|AI Commerce
WixはECサイト構築から商品管理、マーケティング、決済までを提供。
PayPalのAgentic Commerce Servicesの接続先にも含まれており、中小規模の小売・ブランドがAIショッピングチャネルへ対応する選択肢となる。
領域:EC/Web/AI/商品データ
27.Shopware|Agentic Commerce対応EC
ShopwareはオープンなECプラットフォームを展開。
PayPalなどのAgentic Commerceエコシステムとの連携を通じ、AIエージェントからの商品発見・購入につながるコマース基盤として位置付けられる。
領域:EC/Composable Commerce/AI
28.Cloudflare|AI・Commerce Infrastructure
Agentic CommerceではAIエージェントによるWebアクセスが増える一方、「正規の購買エージェント」と「悪意のあるBot」をどう判別するかという問題も生まれる。
Webインフラ・セキュリティを提供するCloudflareは、AI時代のWebアクセス制御という観点から重要な存在となる。
MastercardのAgent Pay for Machinesの初期サポート企業にも名を連ねている。
領域:セキュリティ/AI Agent/Webインフラ
29.Cymbio|Marketplace & Commerce Integration
Cymbioはブランドの商品情報・在庫・注文などを複数の販売チャネルへ連携するDigital Commerce Platformを展開。
PayPalのAgentic Commerce Servicesでも商品リスティングをAIショッピングチャネルへ接続するパートナーとして紹介されている。
AI時代には、マーケットプレイスだけでなく「AIエージェント」という新しい販売チャネルへの商品配信が求められる。
領域:商品データ/Marketplace/Commerce Integration
30.Alchemy|Agentic Payment Infrastructure
AlchemyはAIエージェントが決済を行うためのAgentCardなどの技術を展開し、VisaやMastercardとの連携を進めている。
ユーザーが利用可能金額や購入先などの条件を設定し、その権限内でAIエージェントが購入を実行する仕組みは、Agentic Commerceの「最後の一歩」である自律決済を支える技術の一つだ。
領域:AI Agent/決済/Agentic Payment
Agentic Commerceを支える5つのソリューション領域
今回紹介した30社を見ると、Agentic Commerceは一つの製品だけで成立するものではないことが分かる。
大きく分けると、次の5領域が重要になる。
① AIショッピング・接客
Google、OpenAI、Microsoft、Salesforceなど
② コマース基盤
Shopify、Adobe、SAP、commercetools、BigCommerceなど
③ 商品検索・レコメンド・商品データ
Algolia、Bloomreach、Coveo、Constructor、Feedonomicsなど
④ Agentic Payment
Mastercard、Visa、Stripe、Adyen、PayPal、Checkout.comなど
⑤ AIエージェント・インフラ
AWS、NVIDIA、Cloudflareなど
つまり、小売・外食企業に求められるのは「生成AIチャットをECに設置すること」だけではない。
商品情報、価格、在庫、店舗、メニュー、顧客データ、検索、注文、決済、配送などを、AIエージェントから利用できる形へ変えていくことが重要になる。
外食業界にも広がるAgentic Commerce
特に今後注目したいのが外食領域だ。
例えばユーザーがAIに、
「今夜19時から新宿で4人、個室がある店を予約して」
「子ども2人を含む家族4人で5,000円以内。家まで30分以内で届く夕食を注文して」
「先週頼んだメニューをもう一度注文して」
と伝える。
AIは店舗情報、営業時間、空席、メニュー、価格、アレルギー情報、配送可能エリアなどを確認し、候補を提示する。
さらに予約・注文・決済まで完結する。
この世界では、飲食店にとっても「Google検索で上位表示されること」だけではなく、
「AIが理解できる店舗・メニューデータを持つこと」
が新しい集客インフラになる可能性がある。
「人に選ばれる」から「AIにも選ばれる」へ
これまで小売・外食企業は、
SEO
広告
SNS
ECモール
アプリ
CRM
などを通じて「人に見つけてもらう」ことに投資してきた。
Agentic Commerce時代には、ここにもう一つの視点が加わる。
「AIエージェントから、自社の商品・店舗を正しく理解してもらえるか」
という視点だ。
商品名だけではなく、価格、在庫、サイズ、原材料、配送条件、返品条件、店舗情報、営業時間、メニュー、アレルギー情報などが構造化され、リアルタイムに取得できることが重要になる。
AIが「探す・選ぶ・買う」時代。
Agentic Commerceは、ECの新機能という枠を超えて、小売・外食企業の「新しい販売チャネル」へ発展していく可能性がある。