人手不足に悩む小売・外食の店舗では、採用、正社員化、研修、賃上げ、両立支援などの目的に合わせて厚生労働省の雇用関係助成金を選ぶと、人件費や教育費の負担を抑えながら定着を進めやすくなります。助成金は補助金と違って採択の競争がない制度が多い一方、取組の前に計画を出すなど事前の手続きが欠かせません。
この記事は、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、飲食店などでパート・アルバイトを多く雇用している経営者や店長、人事・労務の担当者に向けて書いています。「自社で使えそうな助成金を一覧で知りたい」という段階の方を想定しています。
以下では、2026年度(令和8年度)の主な助成金を目的別の早見表で紹介し、制度ごとのポイント、申請の共通ルール、社会保険労務士の活用方法を解説します。支給額は厚生労働省等の令和8年度資料で確認できたものだけを掲載しています。年度途中で改正されることもあるため、申請前には必ず最新のパンフレットや支給要領を確認してください。
目的別・助成金の早見表(2026年度)
まずは、自社の課題に近い行から確認してください。支給額は中小企業の主な例で、条件によって変わります。
| 目的 | 制度名 | 主な対象 | 主な支給額(中小企業の例) | 窓口 |
|---|---|---|---|---|
| 採用(就職困難者) | 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) | 60歳以上の高年齢者や障害者などをハローワーク等の紹介で雇い入れた事業主 | 高年齢者(60歳以上)60万円(短時間40万円) | 都道府県労働局、ハローワーク |
| 採用(お試し雇用) | トライアル雇用助成金(一般トライアルコース) | 職業経験の不足などで就職が難しい求職者を、ハローワーク等の紹介で原則3か月試行雇用した事業主 | 1人当たり月額4万円(母子家庭の母等は5万円)、最長3か月 | 都道府県労働局、ハローワーク |
| 正社員化 | キャリアアップ助成金(正社員化コース) | 有期雇用・無期雇用の労働者を正社員に転換した事業主 | 有期から正規:重点支援対象者80万円(40万円×2期)、それ以外40万円 | 都道府県労働局、ハローワーク |
| 処遇改善 | キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース) | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定した事業主 | 1人当たり4万円(3%以上4%未満)〜7万円(6%以上) | 都道府県労働局、ハローワーク |
| 処遇改善 | キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース) | 短時間労働者の週所定労働時間を延長した事業主(延長時間に応じて賃金増加も必要) | 1年目40万円、2年目20万円(1人当たり) | 都道府県労働局、ハローワーク |
| 研修 | 人材開発支援助成金(人材育成支援コースなど) | 従業員に10時間以上のOFF-JTなどの訓練を実施した事業主 | 人材育成訓練:経費の45%(有期契約労働者等は70%)、賃金1時間800円 | 都道府県労働局 |
| 賃上げ・設備 | 業務改善助成金 | 設備投資等を行い、事業場内最低賃金を引き上げる中小企業・小規模事業者 | 設備投資等の費用の一部。上限は引上げ額と人数で異なる | 都道府県労働局 |
| 労働時間・休暇 | 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コースなど) | 時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業 | 補助率は原則4分の3(従業員30人以下で一定の場合は5分の4)、成果目標ごとに上限あり | 都道府県労働局 |
| 両立・育休 | 両立支援等助成金 | 育児・介護と仕事の両立支援に取り組む事業主 | 出生時両立支援コース(第1種):1人目20万円、2・3人目10万円 | 都道府県労働局雇用環境・均等部(室) |
| シニア | 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コースなど) | 65歳以上への定年引上げ、定年廃止、66歳以上の継続雇用制度の導入をした事業主 | 内容と対象人数で異なる(例:65歳への定年引上げ・対象者1〜3人で15万円) | 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)都道府県支部 |
| 障害者雇用 | 特定求職者雇用開発助成金、障害者作業施設設置等助成金ほか | 障害者を雇い入れた事業主、障害者の就労のために施設・設備を整備する事業主など | 特定求職者雇用開発助成金:障害者(重度以外)120万円、重度障害者等240万円 | 都道府県労働局、ハローワーク、JEED |
制度別のポイント
採用:特定求職者雇用開発助成金・トライアル雇用助成金
どちらも、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介で雇い入れることが条件です。求人サイトや店頭の貼り紙で直接採用した人は対象にならないため、使う予定があれば求人をハローワークにも出しておきましょう。
特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者で助成対象期間1年、障害者(重度以外)で2年、重度障害者等で3年とされています。スーパーの品出しやコンビニの早朝帯など、シニアが活躍しやすい業務の採用で検討しやすい制度です。
正社員化・処遇改善:キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、パート・アルバイトを多く抱える店舗と特に相性がよい制度です。令和8年度は、正社員化コース、障害者正社員化コース、賃金規定等改定コース、賃金規定等共通化コース、賞与・退職金制度導入コース、短時間労働者労働時間延長支援コースが案内されています。
正社員化コースでは、転換後6か月間の賃金を転換前6か月間より3%以上増額することが要件です。正社員転換制度を新たに規定した場合などの加算措置(1事業所当たり1回、20万円〜40万円)もあります。勤務地限定・職務限定・短時間正社員などの「多様な正社員」も正規雇用労働者に含まれるため、店舗限定の正社員制度をつくる方法も考えられます。
短時間労働者労働時間延長支援コースは、短時間労働者の週所定労働時間を延長した場合に支給されます。たとえば週の延長が5時間以上なら賃金増加の条件なしで1年目40万円、2時間以上3時間未満なら賃金を15%以上増やすことが条件です。
研修:人材開発支援助成金
人材開発支援助成金には、人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなどがあります。新任店長向けの労務管理研修や、ドラッグストアでの登録販売者の育成など、社外講座を使った研修で検討できます。
人材育成支援コースでは、職業訓練実施計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に管轄の労働局へ提出する必要があります。研修の申込みを決めてから動くと間に合わないことがあるため、年間の研修計画とあわせて準備しましょう。
賃上げ・設備:業務改善助成金
業務改善助成金は、生産性向上に役立つ設備投資等を行い、事業場内で最も低い時間給を引き上げた場合に、その費用の一部を助成する制度です。飲食店の券売機やスーパーの自動釣銭機など、省力化と賃上げを同時に進めたい店舗での活用が考えられます。
令和8年度の申請期間は2026年9月1日からで、締切は申請事業場の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日などとされています。賃上げや設備投資は交付決定後に実施するものが対象のため、最低賃金改定のタイミングと申請の順番に注意してください。
労働時間・休暇:働き方改革推進支援助成金
労働時間短縮・年休促進支援コースは、労務管理用ソフトウェアや機器の導入、研修、コンサルティングなどを通じて時間外労働の削減や年休の取得促進に取り組む中小企業が対象です。勤怠管理システムを導入してシフト作成の手間を減らしたい店舗などで検討できます。
令和8年度の交付申請の締切は2026年11月30日(月)午後5時と案内されています。予算の状況によっては受付が早く終了する場合もあるため、検討している場合は早めに労働局へ相談してください。
両立・育休:両立支援等助成金
両立支援等助成金には、出生時両立支援コース、育児休業等支援コース、育休中等業務代替支援コース、柔軟な働き方選択制度等支援コース、介護離職防止支援コースなどがあります。育休中の従業員の業務をほかのスタッフがカバーする店舗では、業務代替支援コースも確認しておきましょう。
シニア・障害者雇用
65歳超雇用推進助成金の65歳超継続雇用促進コースは、定年の引上げや定年廃止などを実施した月の翌月から起算して4か月以内の各月、月初から15日までに申請するとされています。障害者雇用では、特定求職者雇用開発助成金のほか、作業施設の設置や職場適応援助者などに関する助成金もあります。
申請の共通ルール
雇用関係助成金には、制度をまたいで共通するルールがあります。主なものは次のとおりです。
| 共通ルール | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険適用事業所であること | 多くの制度で、雇用保険の適用事業所の事業主であることが前提です。業務改善助成金も、雇用保険被保険者の労働者がいることが前提となります。 |
| 労働関係法令違反がないこと | 支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令違反で送検されている場合などは支給されません。 |
| 帳簿の整備と審査への協力 | 出勤簿(タイムカード)、賃金台帳、労働条件通知書、雇用契約書などを整備し、労働局の確認や調査に協力する必要があります。 |
| 計画届などの事前提出 | キャリアアップ計画(各コース実施日の前日まで)、職業訓練実施計画届(訓練開始日の6か月前〜1か月前)、業務改善助成金の交付申請(設備投資・賃上げの前)など、取組の前に必要な手続きがあります。 |
| 不正受給の禁止 | 不正受給をすると返還に加えて20%の加算金と年3%の延滞金がかかり、事業主名等が公表され、5年間は助成金を受けられなくなります。 |
店舗でつまずきやすい点
多店舗展開している企業では、店舗ごとにタイムカードや賃金の管理方法が違い、必要な書類がそろわないことがあります。また、就業規則に正社員転換制度などを規定する必要がある制度では、規定の整備と労働基準監督署への届出が先に必要になる場合があります。
社会保険労務士の活用
雇用関係助成金の申請書類の作成や提出代行は、社会保険労務士に依頼できます。就業規則の改定や計画届の作成まで含めて相談できるため、制度を複数組み合わせたい店舗では特に役立ちます。
一方で、厚生労働省は「厚生労働省や労働局・ハローワークが、特定の事業者に助成金の勧誘を委託することはありません」と注意を呼びかけています。経営コンサルタントを名乗る事業者の指南で虚偽の申請をした場合でも、不正受給を問われるのは事業主です。依頼先が社会保険労務士かどうかを確認し、提出書類の内容は自社でも必ず確かめてください。
申請前のチェックリスト
- □ 雇用保険の適用事業所になっているか
- □ 過去1年に労働関係法令違反で送検されていないか
- □ 出勤簿、賃金台帳、労働条件通知書を全店舗でそろえられるか
- □ 計画届やキャリアアップ計画を、取組の前に提出する予定になっているか
- □ 採用系の助成金を使う場合、ハローワーク等の紹介を経ているか
- □ 就業規則に必要な制度(正社員転換制度など)を規定しているか
- □ 業務改善助成金では、交付決定前に賃上げや設備購入をしていないか
- □ 最新の令和8年度パンフレット・支給要領で金額と要件を確認したか
- □ 依頼する専門家が社会保険労務士かどうかを確認したか
よくある質問
Q. 飲食店のアルバイトでも助成金の対象になりますか。
A. なります。キャリアアップ助成金は有期雇用や短時間の労働者の正社員化・処遇改善が対象で、短時間労働者労働時間延長支援コースのようにアルバイトの労働時間を延ばす取組を支援するコースもあります。ただし、雇用保険の加入状況や雇用期間などの要件があります。
Q. 複数の助成金を同時に使えますか。
A. 目的が異なれば組み合わせられる場合がありますが、同じ労働者・同じ経費について重複して受給できない組み合わせもあります。併給調整の可否は各制度の支給要領で確認するか、労働局に問い合わせてください。
Q. 求人サイトで採用した人でも特定求職者雇用開発助成金の対象になりますか。
A. ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れることが条件です。紹介を経ていない採用は対象になりません。
Q. 申請はいつまでにすればよいですか。
A. 制度ごとに異なります。働き方改革推進支援助成金の交付申請は2026年11月30日午後5時まで、業務改善助成金は地域別最低賃金の発効日の前日までなどとされているため、早めに確認してください。
まとめ
小売・外食の人手不足対策では、採用は特定求職者雇用開発助成金やトライアル雇用助成金、定着と処遇改善はキャリアアップ助成金、研修は人材開発支援助成金、賃上げと設備は業務改善助成金というように、目的別に制度を選ぶのが近道です。両立支援やシニア雇用の制度も、パートや高年齢者の多い店舗では検討の価値があります。
どの助成金も、取組の前の計画提出と日々の帳簿整備が受給の前提です。最新の令和8年度パンフレットで要件を確認し、必要に応じて社会保険労務士や労働局に相談しながら進めてください。
出典
- 雇用関係助成金(厚生労働省)
- キャリアアップ助成金(厚生労働省)
- キャリアアップ助成金のご案内 令和8年度版パンフレット(厚生労働省)
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)のご案内(厚生労働省)
- キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)のご案内(厚生労働省)
- 人材開発支援助成金(厚生労働省)
- 令和8年度版 人材育成支援コースのご案内(厚生労働省)
- 業務改善助成金(厚生労働省)
- 業務改善助成金のご案内 令和8年度リーフレット(厚生労働省)
- 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚生労働省)
- 雇用環境・均等関係の助成金(奈良労働局)
- 両立支援等助成金(厚生労働省)
- 両立支援等助成金支給申請の手引き 2026(令和8)年度版(厚生労働省)
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(厚生労働省)
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)(厚生労働省)
- 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
- 雇用関係助成金パンフレット(厚生労働省)
- 共通要領 様式第1号 支給要件確認申立書(厚生労働省)
- 助成金に関する勧誘にご注意ください(厚生労働省)