中退共(中小企業退職金共済制度)は、事業主が従業員ごとに月5,000円〜30,000円の掛金を納め、従業員が退職したときに退職金が本人へ直接支払われる国の制度です。新しく加入した事業主には、掛金の一部を国が助成するしくみもあります。
自社で退職金制度をつくるのは、積立や運用、計算の手間が大きく、小さな店舗では負担になりがちです。スタッフの定着を図りたい小売店や飲食店の経営者にとって、手間を抑えて退職金を用意できる選択肢になります。
この記事では、加入できる企業の条件、掛金と税制、新規加入助成と月額変更助成、パート・アルバイトの加入、退職金の支払いと減額の扱い、店舗での費用試算を解説します。
加入できる企業と従業員
中退共に加入できるのは中小企業です。業種ごとに、常用従業員数か資本金・出資金のどちらか一方を満たせば加入できます。
| 業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業、建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5千万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5千万円以下 |
小売店であれば、常用従業員50人以下か資本金5千万円以下のどちらかを満たせば対象です。飲食店がどの業種区分に当たるかは、加入前に中退共へ確認すると確実です。
従業員は原則全員を加入させる
中退共では、従業員は原則として全員加入させることになっています。一方で、期間を定めて雇用される人、季節的業務に雇用される人、試用期間中の人、短時間労働者、休職中の人、定年などで近く退職することが明らかな人は、加入させなくてもよいとされています。
事業主や役員は加入できない
中退共は従業員のための制度なので、個人事業主本人や法人の役員は加入できません。ただし、使用人兼務役員のように従業員として賃金を受けている場合は加入できると案内されています。経営者自身の退職金は、関連制度の小規模企業共済で準備する方法があります。
掛金と税制上の扱い
掛金月額は16種類から従業員ごとに選びます。金額は5,000円、6,000円、7,000円、8,000円、9,000円、10,000円、12,000円、14,000円、16,000円、18,000円、20,000円、22,000円、24,000円、26,000円、28,000円、30,000円です。
短時間労働者には、2,000円、3,000円、4,000円の特例掛金月額も用意されています。ここでいう短時間労働者は、1週間の所定労働時間が同じ事業所の通常の労働者より短く、かつ30時間未満の人です。
事業主が納める掛金は、法人は損金、個人事業主は必要経費として扱われ、全額非課税です。従業員1人ごとに掛金を選べるので、勤続年数や役割に応じて金額を変えることもできます。
退職金の受け取りと税金
退職金は「基本退職金+付加退職金」で計算されます。基本退職金は、制度全体の予定運用利回りを1.0%として定めた額です。
掛金の納付月数が11か月以下の場合は退職金が支給されず、12か月から23か月の場合は掛金納付総額を下回ります。一時金で受け取る退職金は、税法上「退職手当等」とみなされ、退職所得として扱われます。退職時に60歳以上で一定の要件を満たせば、5年間または10年間の分割受取も選べます。
国の掛金助成
中退共には、新規加入助成と月額変更助成の2つの助成があります。助成分は掛金の納付額から差し引かれる形で受けられます。
| 助成 | 対象 | 助成額 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 新規加入助成 | 初めて中退共に加入する事業主 | 掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円) | 加入後4か月目から1年間 |
| 短時間労働者の上乗せ | 特例掛金月額で加入した短時間労働者 | 2,000円は300円、3,000円は400円、4,000円は500円を上乗せ | 新規加入助成と同じ |
| 月額変更助成 | 掛金月額18,000円以下の従業員の掛金を増額した事業主 | 増額分の3分の1 | 増額した月から1年間 |
新規加入助成は、従業員1人当たり年間最高60,000円(月5,000円×12か月)になります。月額変更助成は、20,000円以上の掛金からの増額は対象外です。
同居の親族のみを雇用する事業主などは、助成の対象外です。家族だけで営んでいる店舗は、助成を前提にせずに検討してください。
助成を受けるときの注意点
新規加入助成は加入後4か月目からなので、加入直後の3か月は掛金を全額負担します。資金計画では、最初の3か月分を通常の負担として見込んでおきましょう。
また、助成の上限は従業員ごとに月5,000円です。正社員の掛金を10,000円より高くしても助成額は増えないため、まずは10,000円以下で始め、のちに月額変更助成を使って増額する方法も考えられます。
パート・アルバイトの加入
パートやアルバイトも、中退共に加入させることができます。週の所定労働時間が30時間未満の短時間労働者は、加入させなくてもよい対象ですが、希望すれば特例掛金月額の2,000円〜4,000円で加入させられます。
シフト勤務のスタッフが多い店舗では、正社員は5,000円以上、週30時間未満のパートは特例掛金というように、働き方に合わせて掛金を分けると費用を抑えられます。長く勤めているベテランのパートに退職金を用意できれば、定着の後押しにもなります。
週30時間以上働くパートは短時間労働者に当たらないため、通常の掛金月額(5,000円以上)を選びます。勤務時間が変わったときは、掛金区分の見直しも必要です。
退職金の支払いと減額の扱い
中退共の退職金は、事業主を通さず、中退共本部から退職した従業員の預金口座に直接振り込まれます。従業員が請求書を中退共本部に送付し、それに基づいて支払われるしくみです。
事業主が退職金を受け取って従業員に渡すわけではないため、従業員は中退共本部から退職金を受け取れます。その反面、掛金は事業主に戻らない点を理解しておく必要があります。
懲戒解雇などの場合
従業員が懲戒解雇などで退職する場合、事業主は中退共本部に退職金の減額を申し出ることができます。減額には厚生労働大臣の認定が必要とされ、減額した分が事業主に返還されることはありません。減額を考えるときは、就業規則の定めとあわせて事前に中退共へ相談してください。
店舗での導入例と費用試算
正社員3人とパート2人(週20時間)の小売店が、新たに中退共に加入する例で試算します。正社員は月5,000円、パートは特例掛金の月2,000円とします。
| 項目 | 正社員3人 | パート2人 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 掛金月額 | 5,000円×3人=15,000円 | 2,000円×2人=4,000円 | 19,000円 |
| 新規加入助成(月額) | 2,500円×3人=7,500円 | (1,000円+300円)×2人=2,600円 | 10,100円 |
| 助成期間中の実質負担(月額) | 7,500円 | 1,400円 | 8,900円 |
| 助成総額(1年間) | 90,000円 | 31,200円 | 121,200円 |
加入後1〜3か月目は助成がないため月19,000円、4か月目から15か月目までの12か月は月8,900円の負担です。加入から15か月間の掛金総額は285,000円で、そこから助成121,200円を差し引いた実質負担は163,800円になります。
助成期間が終わると、負担は月19,000円(年228,000円)に戻ります。掛金は全額が損金・必要経費になるため、税引き後の負担はさらに小さくなります。
飲食店の例:パート中心の店舗
次に、正社員1人とパート4人(いずれも週30時間未満)の飲食店を考えます。正社員は月10,000円、パートは特例掛金の月3,000円とします。
| 項目 | 正社員1人 | パート4人 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 掛金月額 | 10,000円 | 3,000円×4人=12,000円 | 22,000円 |
| 新規加入助成(月額) | 5,000円 | (1,500円+400円)×4人=7,600円 | 12,600円 |
| 助成期間中の実質負担(月額) | 5,000円 | 4,400円 | 9,400円 |
| 助成総額(1年間) | 60,000円 | 91,200円 | 151,200円 |
正社員の掛金10,000円の2分の1はちょうど上限の5,000円です。これより高い掛金にしても、新規加入助成の額は月5,000円のまま変わりません。
掛金を増やしたときの月額変更助成
加入から数年たち、正社員の掛金を月5,000円から月8,000円に増やす場合を考えます。増額分3,000円の3分の1にあたる月1,000円が、増額した月から1年間助成され、合計12,000円になります。
昇給や勤続年数の節目に合わせて掛金を見直すと、助成を受けながら退職金を手厚くできます。増額前の掛金が18,000円以下であることが条件なので、見直しの時期を決めておくとよいでしょう。
導入前のチェックリスト
- □ 業種区分と、常用従業員数または資本金の要件を満たしているか
- □ 加入させる従業員と、加入させない従業員の区分を整理したか
- □ パートの週所定労働時間が30時間未満かどうか確認したか
- □ 助成終了後の掛金を払い続けられるか試算したか
- □ 就業規則や退職金規程に中退共の利用を記載したか
- □ 掛金が事業主に戻らないことを理解しているか
よくある質問
Q. 加入後すぐに辞めた従業員の掛金は戻りますか。
A. 戻りません。掛金の納付月数が11か月以下の場合は退職金も支給されないため、加入させる時期と対象者を検討しておくことが大切です。
Q. 新規加入助成は申請が必要ですか。
A. 助成は、加入後4か月目から掛金の納付額から差し引かれる形で受けられます。手続きの詳細や対象外となる条件は、加入時に中退共の案内で確認してください。
Q. 従業員が転職した場合はどうなりますか。
A. 中退共に加入している企業の間で転職した場合など、一定の条件で前の企業の掛金納付月数を通算できる制度があります。
Q. 経営者の家族も加入できますか。
A. 従業員として働いている家族であれば、加入の対象になり得ます。ただし、同居の親族のみを雇用する事業主は掛金助成の対象外とされているため、助成を受けられるかどうかは別途確認が必要です。
まとめ
中退共は、掛金が全額損金・必要経費になり、退職金が従業員へ直接支払われる国の退職金制度です。新規加入時には掛金月額の2分の1(上限5,000円)が加入後4か月目から1年間助成されます。
パートも特例掛金の月2,000円〜4,000円で加入でき、短時間労働者には助成の上乗せがあります。助成終了後の負担まで試算し、無理のない掛金で導入しましょう。