「通常価格〇〇円のところ今だけ〇〇円」といった二重価格表示は、比較に使う価格に実態がなければ、景品表示法の「有利誤認表示」になるおそれがあります。消費者庁の価格表示ガイドラインでは、過去の販売価格を比べる場合の目安として「セール開始前8週間のうち過半、かつ通算2週間以上」などの基準が示されています。
この記事は、チラシ・POP・ECサイト・メニューの価格表示を担当する小売店や飲食店の経営者、販促・マーケティング担当者に向けたものです。「いつもやっている表示が本当に大丈夫か」を確認したい方を想定しています。
有利誤認表示の基本、比較対照価格のルール、「期間限定」「閉店セール」「No.1」表示の注意点、違反したときの措置命令・課徴金、ステルスマーケティング規制、媒体別のチェック例を順に解説します。
有利誤認表示とは:価格や取引条件を「実際より得」に見せる表示
景品表示法第5条第2号は、価格などの取引条件について、実際のものや競争事業者のものよりも「著しく有利」であると一般消費者に誤認される表示を禁止しています。これを「有利誤認表示」と呼びます。
品質や性能を実際より良く見せる「優良誤認表示」(第5条第1号)と並ぶ、代表的な不当表示です。店頭では、値引きの大きさ、セールの期間、「最安値」といった表現が主な論点になります。
判断の基準になるのは、表示を見た一般消費者が「実際より得だ」と受け取るかどうかです。担当者に悪意がなくても、根拠のない比較価格や実態と合わない期間表示は問題になり得ます。
二重価格表示のルール:比較対照価格の4つのパターン
二重価格表示とは、実際の販売価格と、それより高い「比較対照価格」を並べて表示する方法です。消費者庁は、同一ではない商品の価格を比較に使う場合や、比較対照価格について実際と異なる表示・あいまいな表示をする場合に、不当表示に該当するおそれがあるとしています。
比較対照価格には主に次の4つのパターンがあり、それぞれに考え方が示されています。
| 比較対照価格 | 表示例 | 適正といえるための考え方 | 問題になりやすい例 |
|---|---|---|---|
| 過去の販売価格 | 当店通常価格、セール前価格 | 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であること | ほとんど販売実績のない価格を「通常価格」とする |
| 将来の販売価格 | セール後〇〇円 | 十分な根拠があること | 実際には販売しない、またはごく短期間しか販売しない価格 |
| メーカー希望小売価格 | メーカー希望小売価格〇〇円 | 製造業者等が設定し、カタログ等であらかじめ公表されている価格であること | 希望小売価格が設定されていない商品で「メーカー希望価格の半額」とする |
| 競争事業者の販売価格 | 市価〇〇円、他店価格 | 販売地域内の競争事業者の相当数が実際に販売している価格を正確に調査していること | 調査をせずに「市価」と表示する |
「当店通常価格」は8週間ルールで確認する
価格表示ガイドライン(不当な価格表示についての景品表示法上の考え方)は、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」の一般的な目安を示しています。セール開始時点からさかのぼる8週間(販売期間が8週間未満ならその期間)のうち、その価格で販売していた期間が過半を占めていれば、該当すると考えられます。
ただし、その価格での販売期間が通算2週間未満の場合や、その価格で販売した最後の日から2週間以上たっている場合は、該当しないとされています。たとえば8週間のうち5週間は1,980円で売っていても、直近3週間ずっと1,480円なら「通常価格1,980円」とは表示しにくくなります。
基準を満たさない価格を使う場合は、いつの時点でどの程度の期間販売していた価格なのかを正確に表示しない限り、不当表示に該当するおそれがあります。また、表示価格をいったん引き上げてから割引率を表示する方法や、セール実施を決めた後に販売を始めた商品に割引率を表示する方法も、不当表示に該当するおそれがあるとされています。
メーカー希望小売価格・市価の注意点
メーカー希望小売価格は、新聞広告やカタログなどで公表されている価格であれば比較対照価格に使えます。一方、特定の小売業者の意向を受けて設定された価格を「希望小売価格」とすることは、不当表示のおそれがあると消費者庁のQ&Aで示されています。
「市価」「他店価格」は、自店の販売地域で競合する相当数の事業者の実際の販売価格を調べたうえで使う必要があります。調査した日付や対象店舗を記録に残しておくと、問い合わせを受けたときに説明しやすくなります。
「今だけ」「期間限定」「閉店セール」「No.1」のリスク
価格そのものだけでなく、「お得な期間が限られている」という表示も取引条件の一部です。期間や希少性を強調する表示が実態と合わないと、有利誤認表示として問題になるおそれがあります。
「期間限定」を延長・繰り返すとき
「期間限定」「今だけ」「本日限り」と表示しながら、期間が終わっても同じ価格を続けたり、短い間隔で同じセールを繰り返したりすると、消費者は「今買わないと損」と誤認しかねません。期間を延長する場合は、延長を明示し、当初の表示と実態がずれないようにすることが基本です。
なお、価格表示ガイドラインでは、一定時間に限って値下げするタイムサービスについて、通常は不当表示に該当するおそれはないと考えられるとしています。問題は限定性の表示そのものではなく、表示と実態が一致しているかどうかです。
閉店時期が決まっていない「閉店セール」
消費者庁の表示に関するQ&Aでは、閉店時期が未定のまま「閉店セール」と称して長期間セールを続けることについて、問題となるおそれがある趣旨の回答が示されています。「閉店」「売りつくし」「在庫一掃」をうたうなら、実際に閉店・在庫処分を予定していることが前提です。
「最安値」「No.1」には根拠資料が必要
「地域最安値」「売上No.1」「顧客満足度No.1」といった表示は、合理的な根拠に基づかず事実と異なる場合、不当表示として問題となります。消費者庁は2024年9月に公表した実態調査報告書で、「顧客満足度」など第三者の主観的評価を指標としたNo.1表示の中に、合理的な根拠に基づいているとはいえないものがあると指摘しています。
No.1表示を使う場合は、比較対象の選び方、調査対象者の選び方、調査方法の公平さ、表示内容と調査結果の対応を確認しましょう。調査の時期や範囲は表示の近くに明記するのが安全です。
違反するとどうなる:措置命令・課徴金・確約手続・直罰
景品表示法違反が認められると、消費者庁や都道府県知事から措置命令が出されます。措置命令では、消費者の誤認を解消するための周知、再発防止策の実施、同様の行為をしないことなどが求められ、事業者名とともに公表されます。
令和5年改正景品表示法は2024年(令和6年)10月1日に施行され、制度が強化されました。主な内容は次のとおりです。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 措置命令 | 誤認の解消、再発防止策、同様の行為の禁止などを命じる行政処分 |
| 課徴金納付命令 | 優良誤認・有利誤認表示をした商品・役務の売上額の3%。対象期間は最長3年間。算定額が150万円未満なら課されない |
| 繰り返し違反の加算 | 課徴金対象行為を繰り返した場合、算定率が4.5%(1.5倍)に引き上げ(2024年改正で新設) |
| 確約手続 | 事業者が是正措置計画を申請し認定を受けると、措置命令・課徴金納付命令の適用を受けない(2024年改正で新設) |
| 直罰 | 優良誤認表示・有利誤認表示に対し、100万円以下の罰金(2024年改正で新設) |
課徴金は、表示が不当であると知らず、知らないことについて相当の注意を怠った者でないと認められる場合には課されません。日ごろから根拠資料を残し、チェック体制を整えておくことが、リスクを下げることにつながります。
ステルスマーケティングも2023年10月から規制対象
2023年(令和5年)10月1日から、広告であることを隠した表示(ステルスマーケティング)も景品表示法違反となりました。規制の対象は広告主である事業者で、依頼を受けたインフルエンサーなどの第三者ではありません。
店舗がSNS投稿や口コミを依頼したり、無料招待や商品提供と引き換えに投稿してもらったりする場合は、「広告」「PR」など事業者の表示であることが一般消費者にわかるようにしておく必要があります。
媒体別のチェック例とチェックリスト
同じキャンペーンでも、チラシ・POP・EC・メニューで表示の仕方が違うと、どこかで実態とずれが生じやすくなります。媒体ごとの主な確認ポイントは次のとおりです。
| 媒体 | よくある表示 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| チラシ | 「当店通常価格より30%OFF」 | 通常価格の販売実績が8週間ルールを満たすか。割引の対象外商品を明記しているか |
| 店頭POP | 「本日限り」「期間限定」 | 表示した期間後に価格を戻しているか。古いPOPが残っていないか |
| ECサイト | 「残りわずか」「タイムセール残り〇時間」 | 在庫数や終了時刻の表示が実態と一致しているか。カウントダウンがリセットされ続けていないか |
| 飲食店メニュー | 「期間限定メニュー」「通常〇〇円」 | 期間後も同じ内容・価格で常時提供していないか。比較価格で実際に提供していたか |
| SNS・口コミ | 招待客の投稿、「地域No.1」 | 依頼した投稿に「広告」「PR」等の表示があるか。No.1の調査資料を保管しているか |
- □ 「通常価格」の販売実績(価格と期間)をPOSデータなどで確認・保存している
- □ 比較対照価格の種類(過去の販売価格・希望小売価格・市価など)を明記している
- □ メーカー希望小売価格は、メーカーのカタログ等で公表されていることを確認した
- □ 「市価」「他店価格」は、調査日・調査店舗を記録している
- □ 「期間限定」「本日限り」の期間を守り、終了後に価格やPOPを戻している
- □ 閉店・在庫処分の予定がないのに「閉店セール」「売りつくし」と表示していない
- □ 「最安値」「No.1」の根拠資料があり、調査時期・範囲を表示している
- □ 依頼・提供したSNS投稿や口コミに「広告」「PR」等の表示がある
- □ 表示の最終確認者を決め、チラシ・POP・EC・メニューの内容をそろえている
食品の消費税率変更が予定される時期の価格表示
飲食料品の消費税率を2027年4月から一定期間1%に引き下げる方針が報じられていますが、制度の詳細は今後の法令等で確定する予定です。税率が変わると税込価格の表示を一斉に更新する必要があり、「税率変更前の価格」と比べる二重価格表示や「減税分値下げ」といった表示が増えると考えられます。
こうした表示も、比較する価格の実態や値下げの内容が正確であることが前提です。制度の内容と店舗の準備については、関連記事「食品の消費税1%」で整理しています。
よくある質問
Q. 新商品を発売してすぐに「通常価格〇〇円」と二重価格表示してもよいですか。
A. 販売期間が8週間未満の場合は、その期間の過半をその価格で販売し、通算2週間以上であることなどが目安になります。発売直後で販売実績がほとんどない価格を「通常価格」とすることは、不当表示に該当するおそれがあります。
Q. 「期間限定」のセールを好評につき延長してもよいですか。
A. 延長すること自体が直ちに違反になるわけではありませんが、延長を明示せずに続けたり、延長を繰り返して常態化したりすると、限定性の表示が実態と合わなくなるおそれがあります。延長する場合は告知を改め、期間を明確にしましょう。
Q. 小さな個人店でも景品表示法の対象になりますか。
A. 景品表示法は事業規模にかかわらず、商品やサービスを供給する事業者に適用されます。課徴金には150万円未満なら課されないという基準がありますが、措置命令は売上規模に関係なく出される可能性があります。
Q. 「メーカー希望小売価格」がない商品で「参考価格」と表示してもよいですか。
A. 「参考価格」の根拠があいまいな場合は、比較対照価格についてのあいまいな表示として問題となるおそれがあります。何の価格なのかを具体的に示せない場合は、二重価格表示を避けるのが無難です。
まとめ
二重価格表示で大切なのは、比較に使う価格に販売実績や公表の根拠があることです。「当店通常価格」はセール開始前8週間のうち過半かつ通算2週間以上などの目安を確認し、メーカー希望小売価格や市価は公表・調査の裏付けを残しましょう。
「期間限定」「閉店セール」「No.1」も、表示と実態が一致していることが前提です。2024年10月の改正で課徴金の加算や直罰が導入され、2023年10月からはステルスマーケティングも規制対象になっています。媒体ごとにチェックリストを使い、表示の担当者と確認者を決めて運用することをおすすめします。