店舗の防犯カメラで特定の個人を識別できる映像を撮影すると、個人情報を取り扱うことになり、個人情報保護法のルールが適用されます。とはいえ、従来型の防犯カメラであれば、利用目的をはっきりさせ、店頭に「防犯カメラ作動中」と掲示し、映像を適切に管理することが基本です。
この記事は、防犯カメラを設置している、またはこれから設置する飲食店・小売店のオーナーや店長に向けたものです。顔識別機能付きカメラの導入を検討している店舗や、警察から映像の提供を求められて対応に迷った経験がある方にも役立ちます。
個人情報保護委員会のQ&Aや資料をもとに、映像が個人情報に当たる場面、掲示の考え方、顔識別カメラの注意点、保存期間、安全管理、警察への提供、従業員のモニタリング、自治体条例、掲示文例を順に解説します。
防犯カメラの映像は個人情報に当たる
個人情報保護委員会のQ&A(Q1-13)は、カメラで特定の個人を識別できる画像を取得する場合、事業者は個人情報を取り扱うことになるとしています。そのため、利用目的をできる限り特定し、その範囲内で映像を利用する必要があります。
一方、録画した映像がすぐに「個人データ」になるわけではありません。Q&A(Q1-41)は、特定の個人の映像を検索できるように体系的に構成されていない限り、録画映像は個人情報データベース等に当たらないと整理しています。撮影日時で検索できるだけでは体系的な構成には当たらないとされています。
また、Q&A(Q1-31)は、防犯カメラに犯罪行為が疑われる映像が映っただけでは、要配慮個人情報には当たらないとしています。
| カメラの種類 | 主な取扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 従来型防犯カメラ(顔特徴データを抽出しない) | 防犯目的が明らかなら利用目的の通知・公表は原則不要。ただし撮影していることがわかるよう掲示などの措置が必要 | Q&A Q1-13 |
| 顔識別機能付きカメラシステム | 顔識別を行うことを含めた利用目的の通知・公表が必要。運営主体や問い合わせ先なども掲示することが望ましい | Q&A Q1-14 |
| 顔特徴データを登録した照合用データベース | 個人情報データベース等に当たり、登録データは個人データ。安全管理措置や第三者提供の規律がかかる | 顔識別機能付きカメラシステムに関する委員会資料(2023年3月) |
利用目的の公表と店頭掲示の考え方
従来型防犯カメラは「撮影していることがわかる」ようにする
個人情報を取得するときは、利用目的を本人に通知または公表するのが原則です。ただし、Q&A(Q1-13)は、取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合に当たるとして、防犯目的であることが明らかな従来型防犯カメラについては、利用目的の通知・公表は不要と考えられるとしています。
注意したいのは、偽りその他不正の手段による取得の禁止です。同じQ&Aは、撮影されていることを本人が容易に認識できない場合、容易に認識できるようにする措置が必要とし、店舗の入口やカメラの設置場所に防犯カメラ作動中であることを掲示する例を挙げています。カメラが外から見えている場合でも、掲示することが望ましいとされています。
顔識別カメラは掲示事項が増える
顔識別機能付きカメラは、外見からは顔識別を行っているかどうかがわかりません。そのためQ&A(Q1-14)は、防犯のためにカメラ画像や顔識別機能を用いることを利用目的として明示し、通知・公表することを求めています。
掲示する内容としては、運営主体、利用目的、問い合わせ先、詳細を確認できるウェブサイトのURLやQRコードなどを、店舗の入口やカメラの設置場所に掲示することが望ましいとされています。
顔識別機能付きカメラと万引き対策の注意点
個人情報保護委員会は、2023年3月に「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」を公表しています。同資料は、検知はあくまで近似性による推測に基づくもので、同一人物であるとの事実を示すものではないと注意しています。
2023年12月の「カメラと個人情報保護法(民間事業者向け)」では、防ごうとする犯罪や被害を明確にし、それを行う可能性が高い人に限って登録すること、書面で統一的な登録基準を定めることなどが示されています。基準に当てはまる人を機械的に登録するのではなく、個別に慎重に判断することも求められています。
他店舗との顔データ共有は特に慎重に
万引き防止のために、複数の店舗や事業者で顔画像や顔特徴データを共有したいという声があります。照合用データベースの登録データは個人データに当たるため、他の事業者に渡す場合は第三者提供の規律に従う必要があります。
共同利用の形をとる場合について、Q&A(Q7-50)は、共同利用する者の範囲を、本人がどの事業者まで利用されるか判断できる程度に明確にする必要があるとしています。共有する情報は目的に必要な範囲に限ることなども示されており、導入前に専門家へ相談することをおすすめします。
保存期間と安全管理措置
法定の保存期間はない
個人情報保護法には、防犯カメラ映像の保存期間を何日と定めた規定はありません。Q&A(Q5-4)や委員会のハンドブックは、利用の必要性を考慮して保存期間を定め、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることを求めています。
実務では、レコーダーの上書き周期を保存期間として社内ルールに書き、事件や事故があった場合の映像は別に保存して、対応が終わったら消去するという運用が考えられます。なお、2023年3月の委員会資料は、裁判例で画像の保存期間が判断の考慮要素とされた例を紹介していますが、これは個別事案の判断であり、委員会が日数の基準を示したものではありません。
安全管理措置の例
Q&A(Q10-8)は、カメラ画像や顔特徴データを扱う場合の安全管理措置の例を挙げています。録画映像が個人データに当たらない場合でも、これらの措置を講じることが望ましいとされています。
| 区分 | 店舗での具体例 |
|---|---|
| 組織的安全管理措置 | 映像を閲覧できる人を店長などに限る。責任者を決め、取扱いルールを作る |
| 人的安全管理措置 | 閲覧できる従業員に、個人情報の取扱いについて教育する |
| 物理的安全管理措置 | レコーダーやSDカードを施錠できる場所に置き、盗難・紛失を防ぐ |
| 技術的安全管理措置 | パスワード設定とアクセス制御を行い、閲覧記録を確認する。ネットワークカメラは特に注意する |
| 外的環境の把握 | 海外のクラウドに映像を保存する場合、その国の個人情報保護制度を把握する |
警察への映像提供と第三者提供
警察から刑事訴訟法第197条第2項に基づく照会(捜査関係事項照会)を受けた場合について、Q&A(Q7-17)は、「法令に基づく場合」(法第27条第1項第1号)に当たるため、本人の同意を得ずに回答できるとしています。この照会は相手方に回答すべき義務を課すものと解されているため、原則として応じるべきとされています。
同じQ&Aは、後日の紛争を防ぐため、照会してきた捜査員の役職・氏名を確認し、後から説明できるように記録しておくことを勧めています。店舗では、口頭の依頼か照会書による依頼かを確認し、提供した映像の日時範囲、提供日、受け取った人を記録に残すとよいでしょう。
一方、警察以外の第三者、たとえば被害を受けたと主張する客や近隣店舗から映像を求められた場合は、法令に基づく場合などの例外に当たるかを慎重に判断する必要があります。迷う場合は、警察に相談してもらうよう案内するのが安全です。
従業員のモニタリング・カスハラ対策・自治体条例
従業員を撮影する目的がある場合
防犯カメラを従業員の監督や不正防止にも使う場合、Q&A(Q5-7)は、モニタリングの目的をあらかじめ特定して社内規程等に定め、従業者に明示すること、責任者と権限を定めること、ルールを作って運用者に徹底すること、適正に運用されているか確認することを留意点として挙げています。重要事項を定める際は、労働組合等への事前通知と必要に応じた協議、従業者への周知が望ましいとされています。
カスハラ対策の録画・録音
カスタマーハラスメントへの備えとして、接客の様子を録画・録音する店舗も増えています。録画・録音でも特定の個人を識別できれば個人情報に当たるため、防犯カメラと同様に利用目的を明確にし、掲示や社内ルールで周知しておくことが大切です。対策の全体像は関連記事「カスハラ対策義務化」で解説しています。
自治体の条例も確認する
個人情報保護法とは別に、防犯カメラの設置・利用について条例を定めている自治体があります。たとえば東京都杉並区は2004年3月に「杉並区防犯カメラの設置及び利用に関する条例」を制定し、店舗面積3,000平方メートルを超える商業施設の事業者や商店会などが道路など不特定多数の人が往来する場所にカメラを設置する場合、原則として設置の10日前までに区への届出を求めています。自社の敷地内のみを撮影するカメラは届出の対象外とされていますが、出店地域の自治体に同様のルールがないか確認してください。
掲示文例と運用チェックリスト
掲示文例
委員会のハンドブックは、従来型防犯カメラの掲示例として「防犯カメラ作動中」を示し、運営主体、利用目的、問い合わせ先を店舗に掲示し、詳細をウェブサイトで公表する方法も紹介しています。次の文例は、これを参考にした一例です。
- 従来型防犯カメラ:「防犯カメラ作動中 当店では防犯および安全確保のため、店内に防犯カメラを設置し録画しています。設置者:株式会社〇〇 お問い合わせ:〇〇店(電話番号)」
- 顔識別機能付きカメラ:「当店では万引き防止のため、顔識別機能付きカメラシステムを利用しています。運営主体:株式会社〇〇 お問い合わせ:(電話番号) 詳しくは当社ウェブサイト(URL・QRコード)をご覧ください」
運用チェックリスト
- □ 防犯カメラの利用目的を社内で文書化している
- □ 店舗入口やカメラ付近に「防犯カメラ作動中」などを掲示している
- □ 顔識別機能の有無をメーカーの仕様書で確認している
- □ 顔識別機能を使う場合、利用目的・運営主体・問い合わせ先を公表し、登録基準を書面で定めている
- □ 映像の保存期間(上書き周期)を決め、不要な映像を消去している
- □ 映像を閲覧できる人を限定し、パスワードを設定している
- □ 警察への提供時に、照会者の役職・氏名と提供内容を記録している
- □ 従業員の監督にも使う場合、目的を就業規則などに定めて周知している
- □ 出店地域の自治体に防犯カメラの条例やガイドラインがないか確認している
よくある質問
Q. 防犯カメラを付けたら、必ずプライバシーポリシーに書く必要がありますか。
A. 従来型防犯カメラで防犯目的が明らかな場合、Q&Aは利用目的の通知・公表は不要と考えられるとしています。ただし撮影していることがわかるよう掲示などの措置は必要です。顔識別機能付きカメラの場合は、顔識別を行う旨を含めた利用目的の通知・公表が必要です。
Q. 映像は何日保存すればよいですか。
A. 法律で決まった日数はありません。利用の必要性を考慮して保存期間を決め、不要になったら遅滞なく消去するよう努めることが求められています。
Q. 警察に映像を渡すとき、映っている客の同意は必要ですか。
A. 刑事訴訟法第197条第2項に基づく照会であれば、法令に基づく場合に当たるため、本人の同意は不要とされています。照会者の役職・氏名を確認し、記録を残してください。
Q. 万引き犯の顔写真をバックヤードに貼り出してもよいですか。
A. 個人情報保護委員会の資料は、照合結果について、同一人物であるとの事実を示すものではないと注意しています。誤認による名誉やプライバシーの侵害のおそれもあるため、掲示や共有の方法は弁護士などに相談したうえで慎重に判断してください。
まとめ
防犯カメラ映像は、特定の個人を識別できれば個人情報です。従来型防犯カメラは「防犯カメラ作動中」の掲示を基本とし、顔識別機能付きカメラは利用目的・運営主体・問い合わせ先の公表と書面の登録基準が必要です。
保存期間に法定の日数はなく、目的に応じて決めて消去します。警察からの照会には法令に基づく場合として応じつつ、記録を残すことが大切です。
出典
- Q1-13 従来型防犯カメラを設置し防犯目的で利用する場合の留意点(個人情報保護委員会)
- カメラに関するQ&A(「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&Aより抜粋)(個人情報保護委員会)
- Q7-17 刑事訴訟法第197条第2項に基づく警察からの照会への回答(個人情報保護委員会)
- Q5-7 従業者を対象とするモニタリングを実施する際の留意点(個人情報保護委員会)
- 犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について(個人情報保護委員会、2023年3月)
- カメラと個人情報保護法(民間事業者向け)(個人情報保護委員会、2023年12月)
- 「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」の公表(総務省)
- 杉並区防犯カメラ設置及び利用に関する条例(杉並区)
- 防犯カメラの設置及び運用に関する基準の届出について(杉並区)