小売・外食業界で、人材戦略の重点が変わりつつある。

Store Guideが小売・外食業界の従事者350人を対象に実施した「小売・外食業界 HR実態調査2026」では、HR領域における最大の課題として「次世代リーダー・管理職の育成」24.0%が挙げられた。

続いて「人件費上昇への対応」22.9%、「店舗スタッフ採用」20.6%、「定着・離職防止」20.0%、「業務負担軽減」20.0%となった。

人手不足が続くなか、企業の課題は単純に「人を採る」ことだけではない。採用した人材を育て、定着させ、店舗を任せられるリーダーへ成長させる――。小売・外食のHRは、「採用」から「人材を活かす仕組みづくり」へと広がっている。

本調査から、小売・外食業界が直面する人材課題と、AI・DXに寄せられている期待を読み解く。

調査概要

「小売・外食業界 HR実態調査2026」は2026年9月、小売または外食業界に従事する20代~60代の全国の男女350人を対象に実施した。

回答者の役職は管理職以上を対象としており、現場だけではなく、企業・店舗のマネジメントに関わる層から回答を得ている。

HR最大の課題は「次世代リーダー・管理職の育成」

まず注目したいのが、現在のHR課題だ。

調査では、「次世代リーダー・育成」が24.0%で最も高く、「人件費上昇対応」が22.9%、「店舗スタッフ採用」が20.6%と続いた。

さらに「定着・離職防止」と「業務負担軽減」がそれぞれ20.0%、「正社員の採用」が18.3%、「職場の人間関係・コミュニケーション」が16.6%、「柔軟なシフト対応」が16.3%となった。 小売・外食業界「HR実態調査2026」

ここから見えてくるのは、HR課題の多層化だ。

「人が足りない」という採用上の問題だけでなく、採用した人をどう育てるか、どう定着させるか、誰に店舗や組織を任せるのかという問題が同時に発生している。

特に「次世代リーダー・管理職の育成」が店舗スタッフ採用を上回った点は重要だろう。

採用を強化して人数を確保できたとしても、その人材をまとめる店長や管理職が不足すれば、店舗運営そのものが不安定になりかねない。人材確保とリーダー育成を切り離して考えられない状況になっている。

人材確保・定着では「賃上げ」と「シフト柔軟化」が先行

では、人材確保や定着のために企業は何に取り組んでいるのか。

最も多かったのは「昇給・給与引き上げ」28.3%だった。

続いて「シフト柔軟化」21.1%、「福利厚生の充実」17.7%、「正社員登用制度」16.0%、「評価・キャリア制度の見直し」14.6%、「シニア人材の採用」14.0%となった。

一方、「教育・研修充実」は12.9%、「外国人材の採用」は11.4%、「採用媒体活用」は10.0%にとどまった。 小売・外食業界「HR実態調査2026」

人材確保に向けた取り組みは、まず待遇改善と働き方の柔軟化に向かっていることが分かる。

ただし、ここには別の課題もある。

最大のHR課題として「次世代リーダー・管理職の育成」を挙げた割合は24.0%だったのに対し、「教育・研修制度の充実」を実施している割合は14.6%、「評価・キャリア制度の見直し」は13.7%だった。

つまり、「育成が重要だと認識しているものの、育成の仕組みづくりが十分に追いついていない」というギャップが見える。 小売・外食業界「HR実態調査2026」

現場の困りごとも「採用」だけではない

自由回答350件をテーマ別に分類すると、最も多かったのは「採用・人手不足」の33.5%だった。

一方、「育成・管理職化」も18.2%に上り、「定着・離職」10.7%、「組織運営・属人化」7.9%、「人件費・待遇」5.4%、「シフト・業務負担」3.7%と続く。

現場では、

採れない → 育てられない → 定着しない → 店長・管理職が不足する

という一連の課題がつながっている可能性がある。

採用数だけを追うのではなく、人材が入社してから戦力化し、成長し、長く働くまでの「人材サイクル」全体を設計する必要性が高まっている。

HRデジタル化は「勤怠管理」が42.3%で最多

こうした人材課題に対して、テクノロジーはどこまで活用されているのか。

現在導入しているHR関連デジタルツールでは、「勤怠管理システム」が42.3%で突出して高かった。

次いで「給与・労務管理」30.3%、「シフト・人員配置」18.0%、「eラーニング」17.7%、「人事評価・目標管理」17.4%、「生成AI」16.0%だった。

一方、「求人・採用支援サービス」は11.7%、「従業員向けコミュニケーションアプリ・社内SNS」は11.4%、「従業員情報・人事データ管理システム」は10.6%にとどまる。

HR領域のデジタル化は進んでいるものの、現状では勤怠・給与などの管理業務が中心で、採用・配置・育成など人材マネジメント領域には、まだ拡大余地がありそうだ。

AI・DXへの期待は「採用」よりも「現場の日常業務」

興味深いのが、今後AI・DXによって改善を期待する業務だ。

最も多かったのは「勤怠・労務効率化」24.6%。続いて「シフト・配置最適化」17.7%、「評価・目標管理支援」17.1%、「個別育成・スキル支援」16.6%、「マニュアル作成更新」16.3%、「店長マネジメント支援」16.3%となった。

「新人・若手社員の教育・研修」も13.7%に上る一方、「人事データ活用」は12.0%だった。

AIに期待されているのは、「人を減らす」ことだけではない。

むしろ、シフト作成、勤怠管理、評価、教育、マニュアル作成、店長支援など、現場を支える日常業務の負担を減らすことへの期待が大きい。

これは小売・外食業界のAI活用を考えるうえで重要なポイントだ。

店舗では、店長や管理職が人員配置、勤怠確認、スタッフ教育、評価、マニュアル管理など、多くの業務を担っている。

AI・DXによってこうした管理業務を効率化できれば、店長や管理職がスタッフとのコミュニケーションや育成など、より人に向き合う仕事へ時間を振り向けられる可能性がある。

小売と外食ではHR課題にも違い

今回の調査では、小売と外食の違いも見えてきた。

外食で小売より高かった項目は、「店長・店舗責任者候補」が外食22.8%、小売13.2%で9.6ポイント差。「店舗スタッフ採用」は外食26.1%、小売18.6%で7.5ポイント差、「採用コスト上昇」は外食16.3%、小売10.0%で6.3ポイント差となった。

また、「人件費上昇対応」は外食26.1%、小売21.7%、「シフト作成・人員配置」は外食18.5%、小売14.0%、「エンゲージメント向上」は外食16.3%、小売10.5%だった。

一方、「次世代リーダー育成」は小売25.6%、外食19.6%で、小売のほうが6.0ポイント高かった。

外食では店舗運営を担う人員確保・配置そのもの、小売では将来の組織を担うリーダー育成が、相対的に強い課題として表れている。

デジタル・AI/DXニーズにも小売と外食で差

導入済みのデジタルツールについても、業態によって違いがある。

外食では「シフト管理・人員配置」が30.4%で、小売の13.6%を16.9ポイント上回った。「スポットワーク」も外食15.2%に対し小売5.4%、「動画・業務マニュアル」は外食14.1%に対して小売8.9%だった。

対して小売では「勤怠管理」が45.0%で、外食34.8%を10.2ポイント上回る。「eラーニング・研修」は小売19.4%、外食13.0%、「生成AI」は小売17.4%、外食12.0%だった。

AI・DXへの期待についても、「離職予測・定着支援」は外食17.4%、小売5.8%と外食が高い一方、「業務マニュアル・教育コンテンツ作成更新」は小売18.2%、外食10.9%と小売が高かった。

同じ「HR DX」であっても、外食では人員配置・定着、小売では教育・業務標準化など、業態によって優先テーマが異なることがうかがえる。

HRは「採用施策」から「人材OS」へ

今回の調査から浮かび上がったのは、小売・外食の人材問題を「採用」だけでは解決しにくくなっている現状だ。

採る。
定着させる。
育てる。
任せる。
そして、テクノロジーによって現場を最適化する。

これらを別々の施策として考えるのではなく、一つの人材戦略としてつなげる必要がある。

特に重要なのが、店長・管理職の負担軽減と育成の両立だろう。

調査資料では、今後まず取り組むべきテーマとして「管理職候補の可視化」「シフトと業務負荷の再設計」「教育コンテンツの標準化」「勤怠・労務DXの高度化」「人事データの活用準備」の5つを挙げている。

人手不足時代のHR戦略は、「どう採用するか」だけを考える段階から、一人ひとりが活躍し続けられる仕組みをどうつくるかを考える段階へ移りつつある。

小売・外食企業にとって、HRと店舗DXを別々のテーマとして捉えるのではなく、「人材施策×店舗DX」として同時に設計することが、今後ますます重要になりそうだ。


調査概要

調査名: 小売・外食業界「HR実態調査2026」
調査対象: 小売または外食業界に従事する人
有効回答数: 350人
役職: 管理職以上
年齢・エリア: 20代~60代・全国
調査対象年度: 2026年9月