インボイス制度の「2割特例」は、2026年(令和8年)9月30日を含む課税期間で終了します。同じ2026年10月1日からは、免税事業者等からの仕入れについて認められてきた仕入税額控除の割合が80%から70%に下がります。
影響を受けるのは、インボイス登録をきっかけに免税事業者から課税事業者になった個人商店や小規模な飲食店と、免税の仕入先・外注先と取引しているスーパー、コンビニ、ドラッグストア、飲食店などの事業者です。特に個人事業者には、2027年分からの「3割特例」という新しい選択肢が用意されました。
この記事では、国税庁の「令和8年度税制改正特集」をもとに、2割特例の終了時期、3割特例の要件、経過措置の縮小スケジュールを整理します。あわせて、個人店の納税額がどう変わるかの計算例と、免税の仕入先との取引を見直すときのポイントを解説します。
2割特例の終了と3割特例の概要
2割特例は2026年9月30日を含む課税期間まで
2割特例は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった事業者が、納付税額を売上税額の2割にできる制度です。国税庁によると、この特例は令和8年9月30日の属する課税期間で終了します。
個人事業者の場合、課税期間は暦年です。そのため、2026年分(令和8年分)の確定申告までは2割特例を使え、2027年分以降は使えません。法人の場合は、2026年9月30日を含む事業年度が最後になります。たとえば3月決算法人なら、2026年4月から2027年3月までの事業年度が最後の適用期間です。
個人事業者向けの3割特例(令和9年分・令和10年分)
2割特例の終了後、個人事業者に限って「3割特例」が設けられました。インボイス登録により免税事業者から課税事業者になった個人事業者は、令和9年分と令和10年分の確定申告で、納付税額を売上税額の3割にできます。法人は対象外です。
| 項目 | 2割特例 | 3割特例 |
|---|---|---|
| 対象 | インボイス登録を機に課税事業者になった事業者(個人・法人) | インボイス登録を機に課税事業者になった個人事業者のみ |
| 適用期間 | 令和8年9月30日の属する課税期間まで | 令和9年分・令和10年分の確定申告 |
| 納付税額 | 売上税額の2割 | 売上税額の3割 |
| 主な要件 | 基準期間の課税売上高1,000万円以下など | 個人事業者であること、基準期間の課税売上高1,000万円以下、インボイス発行事業者であること |
| 手続き | 確定申告書に付記 | 確定申告書に付記 |
3割特例も、売上税額さえ分かれば計算できます。仕入れのインボイスを集計する必要がない点は2割特例と同じです。
簡易課税へ移るときの届出期限の特例
簡易課税制度を選ぶには、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要があります。今回の改正では、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税を選ぶ場合、その課税期間の申告期限までに届出書を出せばよいとされました。
つまり、1年分の実績を見てから、3割特例と簡易課税のどちらが有利かを判断しやすくなります。
個人店の納税額はどう変わるか(計算例)
ここでは、インボイス登録を機に課税事業者になった個人事業者を想定します。計算を分かりやすくするため、売上税額は「税抜売上高×税率」で概算し、地方消費税の区分は省略しています。
例1:個人経営の飲食店(店内飲食中心)
税抜の年間売上高を800万円、すべて10%の売上とします。売上税額は800万円×10%=80万円です。
| 計算方法 | 計算式 | 納付税額 |
|---|---|---|
| 2割特例(令和8年分まで) | 80万円×20% | 16万円 |
| 3割特例(令和9年分・10年分) | 80万円×30% | 24万円 |
| 簡易課税(第4種・みなし仕入率60%) | 80万円×(1-60%) | 32万円 |
2割特例から3割特例に移ると、納税額は年8万円増えます。飲食店業は簡易課税では第4種(みなし仕入率60%)のため、この例では3割特例のほうが簡易課税より8万円少なくなります。
例2:個人経営の青果店(食品の小売)
税抜の年間売上高を900万円、すべて軽減税率8%の売上とします。売上税額は900万円×8%=72万円です。
| 計算方法 | 計算式 | 納付税額 |
|---|---|---|
| 2割特例(令和8年分まで) | 72万円×20% | 14万4,000円 |
| 3割特例(令和9年分・10年分) | 72万円×30% | 21万6,000円 |
| 簡易課税(第2種・みなし仕入率80%) | 72万円×(1-80%) | 14万4,000円 |
小売業は簡易課税の第2種(みなし仕入率80%)に当たります。この例では、3割特例より簡易課税のほうが7万2,000円少なく、2割特例と同じ水準を保てます。小売中心の個人店は、3割特例をそのまま選ぶ前に簡易課税との比較が欠かせません。
なお、実際の有利不利は、本則課税での仕入税額、事業区分の混在(店内飲食とテイクアウト、物販とサービスなど)、設備投資の予定によって変わります。食品の税率に関する動きは、関連記事「食品の消費税1%」もあわせてご覧ください。
免税事業者からの仕入税額控除は80%から70%へ
段階的な縮小スケジュール
インボイスを発行できない免税事業者や消費者からの仕入れは、原則として仕入税額控除ができません。ただし経過措置として、一定割合の控除が認められています。令和8年度改正で、この経過措置は「7・5・3割控除」として次のように見直されました。
| 課税仕入れの時期 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月~2026年9月(令和5年10月~令和8年9月) | 80% |
| 2026年10月~2028年9月(令和8年10月~令和10年9月) | 70% |
| 2028年10月~2030年9月(令和10年10月~令和12年9月) | 50% |
| 2030年10月~2031年9月(令和12年10月~令和13年9月) | 30% |
| 2031年10月以降(令和13年10月以降) | 0% |
割合は課税仕入れを行った時期で判定します。たとえば2026年9月分と10月分の外注費では、控除できる割合が異なります。
控除の上限は10億円から1億円に
7・5・3割控除には上限があります。一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円を超える場合、超える部分は控除の対象外です。改正前の上限は10億円で、この見直しは令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
中小の小売・外食で、1つの免税事業者から年1億円を超えて仕入れる例は多くありません。ただし、多店舗の清掃や配送を1つの個人事業者に集中して委託している場合などは確認が必要です。
影響額の試算
本則課税の飲食店が、免税の清掃業者に毎月5万5,000円(税込)を支払っているとします。年間66万円に含まれる消費税相当額は、66万円×10/110=6万円です。
- 80%控除の場合:6万円×80%=4万8,000円を控除
- 70%控除の場合:6万円×70%=4万2,000円を控除(年6,000円の負担増)
- 50%控除の場合:6万円×50%=3万円を控除(80%時より年1万8,000円の負担増)
免税の生産者から野菜を毎月10万8,000円(税込・軽減税率8%)仕入れるスーパーでは、年間129万6,000円に含まれる税額は129万6,000円×8/108=9万6,000円です。80%なら7万6,800円、70%なら6万7,200円の控除となり、年9,600円の差が出ます。
免税の仕入先・清掃業者・生産者との取引見直し
まず取引先を洗い出す
最初に、インボイス発行事業者でない取引先を一覧にします。小売・外食で多いのは、店舗清掃、害虫駆除、配送、厨房機器の修理、農産物や水産物の生産者、イベント出演者、デザインなどの個人の外注先です。
取引先ごとに年間の支払額と税率を記入すると、70%、50%と下がったときの影響額がすぐに分かります。
価格交渉は取引関係に配慮して
控除割合の低下を理由に、一方的に取引価格の引き下げを求めることは避けるべきです。発注側の立場が強い場合、下請取引に関するルールに抵触するおそれがあります。関連記事「取適法」も参考に、協議の記録を残しながら進めてください。
取引先に登録を勧めることはできますが、登録するかどうかは相手の判断です。登録した取引先には2割特例終了後の負担も生じるため、3割特例や簡易課税の情報をあわせて伝えると話し合いが進みやすくなります。
帳簿と会計システムの設定
経過措置を使うには、帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載するなどの要件があります。2026年10月1日以後の取引から70%で計算されるよう、会計ソフトの税区分の設定を確認してください。
2026年9月までに確認したいチェックリスト
- □ 自社(自分)が2割特例の対象か、最後の適用課税期間はいつかを確認した
- □ 個人事業者の場合、令和9年分以降の3割特例と簡易課税の納税額を比較した
- □ 簡易課税を選ぶ場合の届出期限(移行措置の特例)を把握した
- □ インボイス発行事業者でない仕入先・外注先を一覧にした
- □ 取引先ごとに80%→70%→50%の影響額を試算した
- □ 会計ソフトの税区分を2026年10月1日以後の取引から70%に切り替える準備をした
- □ 1つの免税事業者からの仕入れが年1億円を超えないか確認した
- □ 取引条件を見直す場合、協議の経緯を記録する体制を整えた
よくある質問
Q. 法人でも3割特例は使えますか。
A. 使えません。3割特例の対象は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった個人事業者に限られます。法人は2割特例の終了後、本則課税か簡易課税を選ぶことになります。
Q. 2026年9月に納品され、10月に支払った外注費は80%と70%のどちらですか。
A. 控除割合は課税仕入れを行った時期で判定します。一般にはサービスの提供を受けた日や商品の引渡しを受けた日が基準になるため、支払日だけで判断しないよう注意が必要です。判断に迷う取引は税理士に確認してください。
Q. 簡易課税を選んでいれば、免税事業者からの仕入れの影響はありますか。
A. 簡易課税や2割特例・3割特例では、仕入税額を売上税額から計算するため、仕入先がインボイス発行事業者かどうかは納税額に直接影響しません。影響を受けるのは本則課税の事業者です。
Q. 3割特例を使うのに事前の届出は必要ですか。
A. 国税庁の資料では、確定申告書にその旨を付記することとされています。適用要件を満たすかどうかは、基準期間の課税売上高などで事前に確認してください。
まとめ
2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わり、個人事業者には令和9年分・10年分の3割特例が用意されました。飲食店では3割特例が有利になりやすい一方、小売中心の店では簡易課税(第2種)のほうが納税額を抑えられる場合があります。
免税事業者からの仕入れは、2026年10月から控除割合が70%に下がり、その後50%、30%と段階的に縮小します。取引先の洗い出しと影響額の試算を早めに行い、会計システムの設定と取引条件の協議を計画的に進めましょう。