2025年(令和7年)6月1日から、改正労働安全衛生規則により、職場の熱中症対策が事業者の義務になっています。WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行う見込みの作業が対象です。

対象は建設現場や工場に限りません。スーパーやコンビニ、ドラッグストア、飲食店でも、厨房、空調の弱いバックヤードや倉庫、駐車場の誘導、屋外の催事売場、配達などは、夏場に条件に当てはまる可能性があります。

この記事では、義務の内容と罰則、店舗の場所ごとの具体策、夏前に確認したいチェックリストを、厚生労働省の施行通達や労働局のQ&Aをもとに整理します。

改正労働安全衛生規則で義務化された内容

なぜ義務化されたのか

厚生労働省の施行通達では、熱中症による死亡災害の多くが、初期症状の放置や対応の遅れによるものだと説明しています。そこで、熱中症の疑いがある人を早く見つけ、重症化を防ぐための措置が新たに定められました。

職場の熱中症は増え続けています。厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」のページによると、職場の熱中症による死傷者数は2021年の561人から、2025年には1,803人に増えました。

年死傷者数うち死亡者数
2021年561人20人
2022年827人30人
2023年1,106人31人
2024年1,257人31人
2025年1,803人19人

対象となる作業

対象は「WBGTが28度以上または気温が31度以上の場所において、連続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業」です。屋外か屋内かは問いません。

通達では、作業場所は特定の作業場だけを指すのではなく、複数の場所を移動して作業する場合や、作業場所から作業場所への移動時も含む趣旨とされています。配達や店舗間の移動も考慮が必要です。

事業者の3つの義務

義務内容店舗での例
報告体制の整備自覚症状がある人や、熱中症が疑われる人を見つけた人が報告できる体制を作る報告先の責任者と代理者の氏名・電話番号を厨房やバックヤードに掲示する
手順の作成作業場ごとに、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察や処置などの手順を定める「作業を止める→涼しい休憩室へ移動→冷やす→119番の判断」の流れを1枚にまとめる
関係者への周知報告体制と手順を作業者に知らせる掲示、メール、文書配布、朝礼での口頭伝達など

罰則

広島労働局のQ&Aでは、義務に違反した場合、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されるとしています。形だけの掲示ではなく、実際に機能する体制を作ることが大切です。

報告体制と手順を作るポイント

報告体制:早く気づく仕組みを作る

通達では、責任者の氏名や連絡先を掲示し、代理者も決めておく方法が例示されています。店長が不在の時間帯もあるため、シフトごとに責任者を決めておくと実効性が高まります。

異変に早く気づく方法として、作業場所の定期的な巡視、2人以上で互いの様子を確認するバディ制、ウェアラブル機器の活用が挙げられています。ウェアラブル機器は、ほかの方法と組み合わせることが推奨されています。

手順:迷わず動ける内容にする

手順には、作業を離脱する基準、体の冷やし方、医師の診察や搬送の判断、緊急連絡網、近くの医療機関の住所と電話番号を盛り込みます。

通達では、回復したかどうかの判断は慎重に行い、帰宅後に体調が急変する場合も想定して連絡体制を決めておくよう求めています。「少し休んだら持ち場に戻す」「一人で帰宅させる」といった対応は避けましょう。

WBGTの把握

対象に当たるかどうかは、原則としてWBGTまたは気温を実測して判断します。ただし、天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトなどで判断できる場合は、必ずしも測定は必要ないとされています。

厨房や倉庫など屋内の暑さは天気予報では分からないため、WBGT計を置いて実測するのが確実です。

場所別の具体策:厨房・倉庫・屋外売場・配達

厨房(飲食店・惣菜売場)

フライヤーやオーブン、コンロの熱で、屋外より暑くなることがあります。ピーク時間帯に連続して作業するため、「連続1時間以上」に当てはまりやすい場所です。

  • WBGT計を調理台付近に置き、ランチやディナー前に数値を確認する
  • ピーク後に交代で休憩を取れるシフトを組む
  • 水分と塩分をすぐ取れる場所に用意する
  • スポットクーラーの設置や換気の強化を検討する

バックヤード・倉庫

売場は空調が効いていても、搬入口近くのバックヤードや倉庫は空調が弱いことがあります。品出し前の荷受けや検品で、長時間とどまるケースに注意が必要です。

  • 夏場の荷受け時間を、比較的涼しい時間帯に寄せられないか検討する
  • 冷房の効いた休憩場所を近くに確保する
  • 一人作業を避け、声かけの時間を決める

駐車場整理・屋外売場

駐車場の誘導、園芸コーナー、店頭の催事売場は、直射日光とアスファルトの照り返しを受けます。土日や夏休みの繁忙期に、長時間の担当になりやすい業務です。

  • 炎天下での連続作業が長くならないよう、交代時間を決めた担当表を作る
  • 日よけテントやファン付き作業服などを用意する
  • 暑さが厳しい日は、屋外作業の時間帯や規模を縮小する基準を決めておく

配達・移動販売

ネットスーパーの配達や飲食店のデリバリーは、車の乗り降りや荷物の運搬を繰り返します。移動中も作業場所に含まれる趣旨のため、ほかの業務と同様に報告体制と手順が必要です。

  • 配達担当者が体調不良を電話で報告できる連絡先を決める
  • 車内に飲料や保冷剤を常備する
  • 単独で配達する人には、定時の連絡を入れるルールを作る

外国人スタッフが多い店舗では、厚生労働省が公開している多言語のリーフレットも周知に役立ちます。また、猛暑の中で待たされた顧客からのクレームがスタッフの負担になる場合は、ストアガイドの「カスハラ対策義務化」の記事も参考にしてください。

義務以外にも取り組みたい日常の予防策

暑さに慣れる期間と健康状態への配慮

報告体制と手順は、熱中症が起きたときの重症化を防ぐための仕組みです。発生そのものを減らすには、厚生労働省の予防対策で示されている日常の取り組みも欠かせません。

夏の初めや長期休み明けは、体が暑さに慣れていないため注意が必要です。暑い場所での作業時間を少しずつ延ばし、休憩をこまめに取れるようにしましょう。

糖尿病、高血圧、心疾患などの持病がある人は、熱中症のリスクが高いとされています。本人の申し出を受けて担当業務を調整できるよう、相談しやすい雰囲気を作っておくことが大切です。

出勤時の体調確認

睡眠不足、朝食の欠食、前日の飲酒、発熱や下痢などの体調不良は、熱中症の起こりやすさにつながります。朝礼やシフト開始時に一言確認するだけでも、無理な勤務を防ぐ効果があります。

体調が悪いと言い出しにくい雰囲気があると、報告体制を整えても機能しません。「報告した人を責めない」ことを店長から繰り返し伝えましょう。

年間スケジュールの目安

厚生労働省などが実施する「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」は、2026年は5月1日から9月30日までの期間で行われました。店舗の対策も、このキャンペーン期間を目安に計画すると進めやすくなります。

時期主な取り組み
3〜4月暑くなる場所の洗い出し、WBGT計の準備、報告体制と手順の見直し
5月スタッフへの周知、新人・新規パートへの説明、休憩場所と飲料の準備
6〜9月毎日の暑さ指数の確認、巡視と声かけ、猛暑日の作業縮小の判断
10月夏の振り返り、ヒヤリハットや体調不良事例の共有、翌年に向けた改善

夏前に確認したい熱中症対策チェックリスト

  • □ 店舗内で、WBGT28度以上または気温31度以上になり得る場所を洗い出した
  • □ 厨房、バックヤード、倉庫にWBGT計または温度計を置いた
  • □ 報告を受ける責任者と代理者を、シフトごとに決めた
  • □ 責任者の氏名と電話番号を、厨房・バックヤード・休憩室に掲示した
  • □ 作業離脱、冷却、医師の診察・搬送の手順を作業場ごとに作成した
  • □ 近くの医療機関の住所と電話番号を手順に記載した
  • □ 手順を朝礼、メール、文書配布などでスタッフに周知した
  • □ 配達担当者や短時間パートにも周知できているか確認した
  • □ 冷房の効いた休憩場所と、水分・塩分の補給手段を用意した
  • □ 屋外作業の交代表と、猛暑日の作業縮小の基準を決めた
  • □ 体調不良で帰宅したスタッフの、帰宅後の連絡方法を決めた

よくある質問

Q. 屋内の店舗でも義務の対象になりますか。

A. 屋内か屋外かではなく、WBGT28度以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業が見込まれるかで判断します。厨房や空調の弱い倉庫は対象になる可能性があります。

Q. WBGT計は必ず購入しなければなりませんか。

A. 実測が原則ですが、天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトなどで判断できる場合は、必ずしも測定は必要ないとされています。屋内の暑い場所は実測が確実です。

Q. 手順はポスターの掲示だけで足りますか。

A. 周知の方法は掲示に限られず、メール、文書の配布、朝礼での口頭伝達なども認められています。シフトによって出勤が少ないスタッフにも伝わる方法を組み合わせましょう。

Q. 1日3時間だけ働く短時間パートも対象になりますか。

A. 1日4時間を超えなくても、暑い場所で連続1時間以上の作業が見込まれれば対象になります。勤務時間の長さではなく、暑い場所での作業の続き方で判断してください。

Q. 違反するとどうなりますか。

A. 労働局のQ&Aでは、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されるとしています。

まとめ

熱中症対策は2025年6月1日から義務になっており、2026年の夏も同じルールが適用されています。小売・外食の店舗でも、厨房、倉庫、駐車場、配達は対象になり得ます。

ポイントは、報告体制、手順、周知の3つを店舗の実態に合わせて整えることです。夏が本格化する前の春のうちに、チェックリストで点検しておきましょう。

出典