簡易課税と本則課税のどちらが得かは、「実際の仕入れ・経費にかかった消費税の割合」が業種のみなし仕入率(小売業80%、飲食店60%)を上回るかどうかでおおむね判断できます。上回るなら本則課税、下回るなら簡易課税が有利になりやすい、というのが基本の目安です。

この記事は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の飲食店・小売店の経営者や経理担当者に向けたものです。インボイスの2割特例が2026年9月30日を含む課税期間で終わり、今後の申告方法を選び直す必要がある事業者も対象にしています。

簡易課税の対象と事業区分、計算例による比較、有利不利の目安、選択届出書の期限と2年継続のルール、2割特例終了後の選び方、2027年4月から予定されている飲食料品の税率1%への引下げで計算がどう変わるかを順に説明します。

簡易課税制度とは:対象とみなし仕入率

対象になる事業者

簡易課税制度は、売上げにかかる消費税額をもとに、仕入れにかかる消費税額を「みなし仕入率」で計算できる制度です。仕入れや経費ごとの税額を積み上げなくてよいため、事務負担が軽くなります。

適用できるのは、所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者で、基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の課税期間に限られます。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間は、届出を出していても本則課税で計算します。

事業区分とみなし仕入率

みなし仕入率は事業区分ごとに決まっています。飲食店・小売店に関係する主な区分は次のとおりです。

区分主な事業みなし仕入率納付額の目安(売上税額に対する割合)
第1種卸売業(他の事業者への販売)90%10%
第2種小売業(仕入れた商品を形状を変えずに消費者へ販売)、飲食料品の譲渡を行う農林水産業80%20%
第3種製造業(製造小売業を含む)、建設業など70%30%
第4種飲食店業、その他の事業60%40%
第5種サービス業など(飲食店業を除く)50%50%
第6種不動産業40%60%

飲食店のテイクアウト・物品販売の区分

事業区分は、原則として売上げ(資産の譲渡等)ごとに判定します。国税庁の質疑応答事例では、飲食店の店内飲食や、飲食設備のある飲食店が行う仕出し・出前は第4種とされています。

一方、ハンバーガーショップなどの持ち帰り用の販売は、自店で製造したものなら第3種、仕入れた商品をそのまま売るなら第2種とされています。喫茶店が持ち帰り用に仕入れたケーキやコーヒー豆を販売する場合も第2種です。

小売店でも、パンや総菜を店内で製造して売る場合は製造小売業として第3種になることがあります。複数の区分にまたがる場合は売上げを区分して記録しておき、1つの事業が全体の75%以上を占めるときは、その事業のみなし仕入率を全体に適用できる特例も使えます。

計算例:本則課税と簡易課税を比べる

ここでは仕組みを分かりやすくするため、金額はすべて税抜、消費税は国・地方合計の税率でそのまま計算しています。実際の申告では国税・地方税の区分や端数処理があるため、数字は目安として見てください。人件費は消費税がかからないため、仕入税額には含めていません。

項目例1 飲食店(通常の年)例2 飲食店(改装した年)例3 食品小売店
税抜売上高3,000万円(10%)3,000万円(10%)4,000万円(8%)
売上税額300万円300万円320万円
仕入れ・経費の税額食材900万円×8%=72万円、その他経費600万円×10%=60万円、合計132万円例1の132万円+改装工事2,000万円×10%=200万円、合計332万円商品仕入3,000万円×8%=240万円、経費400万円×10%=40万円、合計280万円
本則課税の納付額300万円−132万円=168万円300万円−332万円=−32万円(32万円の還付)320万円−280万円=40万円
簡易課税の納付額300万円×(1−60%)=120万円300万円×(1−60%)=120万円320万円×(1−80%)=64万円
有利な方式簡易課税(48万円少ない)本則課税(152万円の差)本則課税(24万円少ない)

例1では、実際の仕入税額の割合が132万円÷300万円=44%で、みなし仕入率60%を下回るため簡易課税が有利です。例3の食品小売店は、280万円÷320万円=87.5%で80%を上回るため、本則課税の方が納付額は少なくなります。

例2のように大きな改装をした年は、工事代金にかかった消費税をそのまま差し引ける本則課税が大幅に有利になり、還付になることもあります。簡易課税では設備投資をしても納付額は変わりません。

どちらが有利か:判断の目安

簡易課税が有利になりやすいケース

  • 人件費の比率が高く、消費税のかかる仕入れ・経費が少ない飲食店
  • 粗利率が高く、売上げに対する仕入れの割合が低い小売店
  • 帳簿やインボイスの管理に手間をかけられない小規模店

本則課税が有利になりやすいケース

  • 改装、厨房機器やレジの入替えなど大きな設備投資をする年
  • 新規出店で内装工事や備品購入が集中する年
  • 食品スーパーなど粗利率が低く、仕入れの割合が高い小売店
  • テナント家賃(事業用の賃料は課税)の負担が大きい店舗

簡易課税を選ぶと2年間は続けて適用されるため、2年以内に改装や出店の予定がある場合は特に注意が必要です。また、本則課税の期間中に税抜1,000万円以上の高額特定資産などを取得すると、一定期間は簡易課税制度選択届出書を出せなくなる制限があります。

届出期限と2年継続のルール

原則:適用したい課税期間の初日の前日まで

簡易課税制度選択届出書の効力は、提出した日の属する課税期間の翌課税期間から生じます。つまり、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。

事業者簡易課税を始めたい期間提出期限(原則)
個人事業者2027年分(1月1日〜12月31日)2026年12月31日
3月決算の法人2027年4月1日〜2028年3月31日の事業年度2027年3月31日

新規に開業した事業者は、開業した課税期間の末日までに提出すれば、開業した期間から適用できます。

2年継続と不適用届出

簡易課税をやめるには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出します。ただし、事業を廃止した場合を除き、簡易課税の適用開始から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できないため、最低2年間は続けて適用することになります。

不適用届出書も、本則課税に戻りたい課税期間の初日の前日までに出す必要があります。改装の予定が決まったら、工事を行う課税期間の前に届出が間に合うかを確認してください。

インボイス2割特例の終了後はどう選ぶか

2割特例を適用できるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間です。個人事業者なら2026年分、3月決算の法人なら2027年3月期が最後の適用期間となります。

2割特例を適用した事業者は、その翌課税期間の確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば、翌課税期間から簡易課税を適用できる特例があります。通常の「前日まで」の期限より遅くてよいため、翌期の数字を見てから判断する余地があります。

また、令和8年度税制改正で、インボイス登録により免税事業者から課税事業者になった個人事業者は、一定の要件のもとで2027年分・2028年分に「3割特例」(納付税額を売上税額の30%とする)を使えることになりました。簡易課税の納付額は売上税額の20%(小売業)、40%(飲食店)が目安なので、3割特例との比較でも業種によって結論が分かれます。

2027年4月予定の食品1%で計算が変わる点

政府は飲食料品の消費税率を2027年4月1日から2年間、8%から1%に引き下げる方針で、国税庁もQ&Aを公表しています。ただし、2026年10月1日時点で関連法案は成立しておらず、政府は秋の臨時国会での成立を目指すとしています。以下は法案が成立した場合の内容です。

国税庁のQ&Aによると、外食・酒類・ケータリングは引き続き10%で、テイクアウトや出前は1%の対象です。簡易課税では、業種区分にかかわらず、1%対象の飲食料品の売上税額と同額の仕入税額を計上する特例が設けられる予定で、1%部分の納付額は実質ゼロになります。

仮に例3の食品小売店が1年間すべて1%で取引したとすると、売上税額40万円に対し、仕入税額は商品30万円+経費40万円=70万円となり、本則課税では30万円の還付、簡易課税では納付0円になります。例1の飲食店(店内飲食中心)では、売上税額300万円は変わらず、食材の税額が9万円に減るため本則課税の納付額は300万円−69万円=231万円に増え、簡易課税(120万円)との差が広がります。

税率が変わる期間をまたぐ年は、どちらの方式が有利かがこれまでと逆になる可能性があります。制度の詳細は関連記事「食品の消費税1%」もあわせて確認してください。

選択前のチェックリスト

  • □ 基準期間の課税売上高が5,000万円以下か確認した
  • □ 直近の決算で、仕入れ・経費の消費税額÷売上税額を計算し、みなし仕入率と比べた
  • □ 店内飲食、テイクアウト、物品販売など事業区分ごとの売上げを把握している
  • □ 今後2年以内の改装・出店・設備入替えの予定を確認した
  • □ 2割特例・3割特例が使えるか、最後の適用期間がいつかを確認した
  • □ 届出書の提出期限(原則は適用したい課税期間の初日の前日)をカレンダーに入れた
  • □ 飲食料品1%への引下げの法案の状況を確認する予定を立てた

よくある質問

Q. 簡易課税を選んでも、インボイスの保存は必要ですか。

A. 簡易課税では仕入税額を売上税額から計算するため、仕入税額控除のためのインボイスの保存は要件になりません。ただし、売上げについてインボイスを求められる場合の交付義務は、登録事業者として残ります。

Q. 届出書の期限を過ぎてしまったらどうなりますか。

A. 原則として、その課税期間は本則課税で計算し、簡易課税は翌課税期間からの適用になります。2割特例・3割特例を適用した翌期や、新規開業の期間などは期限の特例があるため、該当するか確認してください。

Q. 飲食店でテイクアウトの売上げがある場合、すべて第4種で計算してよいですか。

A. 国税庁の質疑応答事例では、持ち帰り用の販売は自店で製造したものなら第3種、仕入商品なら第2種とされています。区分ごとに売上げを記録していない場合、区分できない売上げはその中で最も低いみなし仕入率で計算することになるため、レジで区分して集計しておくのが安全です。

Q. 改装の年だけ本則課税にすることはできますか。

A. 改装する課税期間の初日の前日までに不適用届出書を出せば本則課税に戻せますが、簡易課税は最低2年間続ける必要があります。高額特定資産を取得すると、その後一定期間は簡易課税を再選択できない制限もあるため、税理士等に相談して計画を立ててください。

まとめ

簡易課税と本則課税の選択は、実際の仕入税額の割合とみなし仕入率(小売業80%、飲食店60%)の比較が出発点です。人件費の多い飲食店は簡易課税が、粗利率の低い食品小売店や設備投資の年は本則課税が有利になりやすい傾向があります。

届出書は原則として適用したい課税期間の初日の前日までに提出し、一度選ぶと2年間は続けます。2割特例の終了と、2027年4月予定の飲食料品1%への引下げで計算の前提が変わるため、関連記事「インボイス2割特例が終了」「食品の消費税1%」も参考に、早めに試算しておきましょう。

出典