経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに、無担保・無保証人で掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで共済金の貸付けを受けられる国の共済制度です。掛金は月5,000円から20万円まで選べ、法人は損金、個人事業主は必要経費に算入できます。
法人や個人の顧客に掛け売りをしている小売店・飲食店、仕入先に前払いをしている事業者にとって、連鎖倒産を防ぐ備えになります。利益が出た年の税負担を平準化したい経営者にも、よく検討される制度です。
この記事では、制度の仕組み、掛金と税務の扱い、前納、解約手当金、2024年(令和6年)10月以降の再加入ルール、加入資格、決算前の活用と出口戦略を、中小企業基盤整備機構(中小機構)の公表情報をもとに整理します。
経営セーフティ共済の仕組み
経営セーフティ共済は、国の機関である中小機構が運営する制度です。取引先事業者の倒産に伴う連鎖倒産や経営難から中小企業を守ることを目的としています。
加入者が毎月掛金を積み立て、取引先が倒産して売掛金などの回収が難しくなったとき、積み立てた掛金を基準に共済金を借りられます。主な条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 掛金月額 | 5,000円~20万円(5,000円単位で選択) |
| 掛金の積立上限 | 掛金総額800万円 |
| 貸付限度額 | 回収困難となった売掛金債権等の額と、掛金総額の10倍に相当する額のいずれか少ない額(最高8,000万円) |
| 担保・保証人 | 不要(無担保・無保証人) |
| 利率 | 無利子(借入額の10分の1に相当する額が掛金総額から控除される) |
| 償還期間 | 5,000万円未満は5年、5,000万円以上6,500万円未満は6年、6,500万円以上8,000万円以下は7年(いずれも据置期間6か月を含む毎月均等償還) |
| 税務 | 掛金は法人の損金、個人事業主の事業所得の必要経費に算入可能 |
無利子である代わりに、借りた額の10分の1にあたる掛金の権利が消滅する点は押さえておきましょう。償還が遅れた場合は年14.6%の違約金がかかるとされています。
共済金を借りられる条件
共済金の貸付けを受けるには、取引先事業者が倒産し、売掛金債権または前渡金返還請求権の回収が困難になったことが前提です。倒産には、法的整理、取引停止処分、でんさいネットの取引停止処分、私的整理などが含まれますが、いわゆる夜逃げは対象外です。
あわせて、加入後6か月以上経過し6か月分以上の掛金を納めていること、倒産日から6か月以内に貸付請求をすることが必要です。共済金の額が少ない場合(50万円未満など)や、一般消費者に対する債権なども対象外とされています。
仕入先が倒産した場合の考え方
中小機構によると、「売掛金債権等」には売掛金債権だけでなく前渡金返還請求権も含まれます。つまり、販売先の倒産だけでなく、商品代金を前払いしていた仕入先が倒産し、商品も代金も戻らない場合も対象になり得ます。
仮の数字で計算してみます。掛金月5万円を40か月納めていれば掛金総額は200万円で、その10倍は2,000万円です。仕入先に前払いした300万円が回収困難になった場合、借りられるのは少ない方の300万円となり、償還期間は5年、掛金総額から30万円(300万円の10分の1)が控除されます。
掛金の損金算入と前納
経営セーフティ共済の掛金は、法人なら損金、個人事業主なら事業所得の必要経費に算入できます。掛金を月20万円にすると年間240万円を経費にでき、40か月で上限の800万円に達します。
ただし、経費になるのは掛金を払った分だけで、現金は共済に積み立てられて手元から出ていきます。節税だけを目的に掛金を増やすと、資金繰りが苦しくなることがあるため注意しましょう。
前納の扱い
掛金は積立限度額800万円の範囲で月数を指定して前納できます。前納した掛金は、支払った日の属する年分または事業年度に12か月分まで必要経費・損金に算入できます。
前納の期間が1年(12か月)を超える場合は、各事業年度末に期間の経過に応じて算入する扱いです。前納は、前納を希望する月の5日(土日祝日の場合は翌営業日)までに書類が中小機構に到着すると、その月に引き落とされます。上限800万円に達するまでに掛金月額の2か月分以上の枠が残っていることも必要です。
掛金の増額・減額
掛金月額は5,000円単位で増額できます(上限20万円)。一方、減額は事業規模の縮小や、経営の著しい悪化、病気やけが、急な費用の支出などで納付の継続が著しく困難な場合などに限られると案内されています。
あとから簡単に減らせるとは限らないため、無理なく続けられる金額で始め、利益の状況を見て増額する方が安全です。毎月の掛金は口座振替で、振替日は毎月27日です。
解約手当金と再加入ルール
共済契約を解約すると、掛金総額に納付月数に応じた支給率を掛けた「解約手当金」を受け取れます。自己都合による任意解約の場合、支給率は次のとおりです。
| 掛金納付月数 | 任意解約の支給率 |
|---|---|
| 1~11か月 | 0%(掛け捨て) |
| 12~23か月 | 80% |
| 24~29か月 | 85% |
| 30~35か月 | 90% |
| 36~39か月 | 95% |
| 40か月以上 | 100% |
共済金の貸付けを受けた場合や、一時貸付金の残高がある場合は、その分が差し引かれます。解約の種類には任意解約のほか、機構解約(12か月以上の滞納など)とみなし解約(死亡・解散など)があり、支給率は種類によって異なります。
解約手当金は課税対象になる
掛金を経費や損金にしていた場合、解約手当金は、個人事業主は事業所得の収入金額、法人は益金になります。掛金を払った年に税負担が軽くなる一方で、受け取る年に課税されるため、効果は「税の繰り延べ」に近いと考えるとわかりやすいでしょう。
令和6年10月1日以降の再加入に注意
令和6年(2024年)10月1日以降に共済契約を解約し、再度加入する場合、解約の日から2年を経過する日までに支払う掛金は、必要経費・損金に算入できません。解約手当金を受け取ってすぐに再加入し、掛金を再び経費にするという使い方はできなくなりました。
解約のタイミングを考えるときは、再加入する可能性があるかどうかもあわせて検討しましょう。
加入資格と申込方法
加入できるのは、引き続き1年以上事業を行っている中小企業者です。会社の場合、業種ごとに資本金または従業員数の基準があります。
| 業種 | 資本金 | 従業員数 |
|---|---|---|
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 製造業・建設業・運輸業等 | 3億円以下 | 300人以下 |
個人事業主には資本金の要件はなく、従業員数の基準は会社と同じです(事業主と家族従業員は除く)。税金を滞納している方、すでに加入している方などは加入できません。
申込は、会員となっている商工会・商工会議所・中小企業団体中央会など、または融資取引のある銀行、信用金庫、信用組合、商工中金などの本支店で受け付けています。契約申込書、掛金の口座振替申出書、重要事項確認書のほか、法人は履歴事項全部証明書(発行から3か月以内)などが必要です。
決算前の活用と出口戦略
利益が見込める期の決算前に加入や増額、前納を検討すると、その期の損金を増やせます。前納は12か月分まで当期に算入できるため、月20万円なら最大240万円です。ただし加入には1年以上の事業継続が必要で、書類の到着期限もあるため、決算月の直前ではなく早めに準備しましょう。
出口は「いつ解約手当金を受け取るか」です。受け取った年は益金・収入になるため、赤字が見込まれる年、役員退職金の支給や大きな設備投資など費用が多く出る年に合わせると、課税の影響を抑えやすくなります。どの年が適しているかは事業の状況で異なるため、税理士に相談したうえで判断してください。
また、掛金を40か月以上納めると任意解約でも支給率が100%になります。40か月未満で解約すると元本割れになるため、少なくとも40か月は続けられる掛金額にすることが大切です。
加入前のチェックリスト
- □ 引き続き1年以上事業を行っている
- □ 業種ごとの資本金・従業員数の基準に当てはまる
- □ 掛け売りの販売先や、前払いをしている仕入先がある
- □ 40か月以上無理なく払える掛金月額を決めた
- □ 前納する場合、当期に算入できるのは12か月分までと理解した
- □ 解約手当金が受取時に課税されることを理解した
- □ 過去に解約した場合、令和6年10月以降の解約から2年以内でないか確認した
- □ 解約する年の候補を、税理士と話し合った
よくある質問
Q. 開業したばかりでも加入できますか。
A. 加入資格は「引き続き1年以上事業を行っている」中小企業者です。開業から1年未満の場合は加入できないため、1年を過ぎてから申し込みましょう。
Q. 一般のお客さま(消費者)へのツケ払いが回収できない場合も対象ですか。
A. 対象外です。共済金の貸付けは取引先事業者の倒産が前提で、一般消費者に対する債権は対象外とされています。
Q. 掛金を払っている途中でお金が必要になったら、どうすればよいですか。
A. 解約手当金の範囲内で借りられる「一時貸付金」の制度があります。中小機構の制度のしおりでは、限度額は解約手当金の95%、利率は年0.9%、期間は1年で期限一括償還とされています。最新の条件は中小機構で確認してください。
Q. 小規模企業共済とは何が違いますか。
A. 経営セーフティ共済は取引先の倒産に備える事業向けの制度で、掛金は法人の損金・個人事業主の必要経費になります。経営者自身の退職金を準備する制度については、関連記事「小規模企業共済」で解説しています。
まとめ
経営セーフティ共済は、月5,000円~20万円の掛金を積み立て、取引先が倒産したときに無担保・無保証人・無利子で掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで借りられる制度です。掛金は損金・必要経費に算入でき、前納すれば12か月分まで当期の経費になります。
一方で、解約手当金は受取時に課税され、40か月未満の解約は元本割れになります。令和6年10月以降の解約から2年以内の再加入では掛金を経費にできない点も踏まえ、続けられる掛金額と解約の時期を、加入前に決めておきましょう。
出典
- 経営セーフティ共済(中小企業基盤整備機構)
- 制度の概要|経営セーフティ共済(中小企業基盤整備機構)
- 共済金の借入条件(中小企業基盤整備機構)
- 共済契約の解約(中小企業基盤整備機構)
- 掛金の前納(中小企業基盤整備機構)
- 経営セーフティ共済の加入資格(中小企業基盤整備機構)
- 経営セーフティ共済 制度のしおり[令和8年1月改訂版](中小企業基盤整備機構)
- 前納した掛金を必要経費または損金に算入できますか(中小企業基盤整備機構)
- 掛金は最大で何か月まで前納できますか(中小企業基盤整備機構)
- 解約手当金は、税法上どのように取扱われますか(中小企業基盤整備機構)
- 「売掛金債権等」とはどういうものですか(中小企業基盤整備機構)
- どのような場合に共済金の貸付けを受けることができますか(中小企業基盤整備機構)