飲食店を開くには、店舗の所在地を管轄する保健所から「飲食店営業」の許可を受け、施設ごとに食品衛生責任者を置く必要があります。許可は施設の構造や設備が基準に合っているかを保健所が確認したうえで出されるため、工事を始める前の段階から準備を進めることが大切です。

この記事は、これから居酒屋、カフェ、ラーメン店、テイクアウト専門店などを開業する方や、2店舗目の出店を予定している小売・外食の経営者の方に向けたものです。2021年6月の食品衛生法改正で許可業種や届出制度が見直されたため、以前の知識のままでは判断を誤ることがあります。

以下では、改正後の許可業種と営業届出の違い、施設基準の考え方、保健所での手続きの流れと手数料の例、食品衛生責任者の資格の取り方、HACCPに沿った衛生管理、許可の有効期間、テイクアウトやキッチンカーの扱いまでを順に整理します。

2021年6月の改正で何が変わったか:営業許可と営業届出

改正食品衛生法は2021年6月1日に施行され、営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設が行われました。HACCPに沿った衛生管理が制度化されたことに伴い、許可の対象にならない事業者も含めて把握できるよう、届出の仕組みが新設されています。

許可業種は34業種から32業種へ

許可が必要な業種は、従来の34業種から32業種に再編されました。たとえば、以前の「喫茶店営業」は「飲食店営業」に統合されています。

32業種には、飲食店営業、調理機能を有する自動販売機営業、食肉販売業(未包装)、魚介類販売業(未包装)、菓子製造業、アイスクリーム類製造業、清涼飲料水製造業、麺類製造業、そうざい製造業、複合型そうざい製造業、冷凍食品製造業、漬物製造業、密封包装食品製造業、食品の小分け業などが含まれます。飲食店の開業で中心になるのは「飲食店営業」ですが、商品を製造して卸す場合などは製造業の許可が別に必要になることがあります。

営業届出は許可が不要な業種の手続き

営業届出は、許可業種以外で食品を扱う事業者が保健所に営業を届け出る制度です。包装された魚介類の販売、乳類販売業、弁当販売業、野菜果物販売業などが届出の対象例として挙げられています。一方、食品の輸入業や常温で長期保存できる包装食品の販売など、届出も不要とされる業態もあります。

区分主な対象例手続きの特徴
営業許可飲食店営業、菓子製造業、そうざい製造業など32業種申請と施設検査が必要。手数料がかかり、有効期間がある
営業届出包装品のみの魚介類販売、乳類販売業、弁当販売業、野菜果物販売業など施設検査を前提としない届出。食品衛生責任者の設置やHACCPに沿った衛生管理は必要
届出不要食品輸入業、常温長期保存の包装食品の販売、農家の採取業など許可・届出とも不要とされる業態(自治体の案内で要確認)

同じ業態でも、扱う品目や提供方法によって必要な手続きが変わります。どの区分に当たるか迷う場合は、管轄の保健所に事前に確認してください。

施設基準の考え方:共通基準と業種別基準

営業許可の施設基準は、すべての許可業種に共通する「共通基準」と、業種ごとに定められた「業種別基準」で構成されています。都道府県等は国の基準を参考に条例で基準を定めているため、細かな要件は自治体ごとに確認が必要です。

共通基準の主な項目

項目主な内容
区画作業区分に応じて間仕切り等で必要な区画がされ、工程を踏まえて設備が配置されていること
手洗い設備従事者の手指を洗浄消毒する装置を備えた流水式の手洗い設備を必要な数だけ設けること。食品を洗うシンクとの兼用は不可
洗浄設備(シンク)食品や器具を洗浄するための設備。必要に応じて熱湯や蒸気を供給できること
給水設備水道水またはこれ以外の飲用に適する水を、施設の必要な場所に供給できること
冷蔵・冷凍設備食品を衛生的に扱うために必要な機能を持つ冷蔵または冷凍設備を備えること
トイレ作業場に汚染の影響を及ぼさない構造で、専用の流水式手洗い設備があること
更衣場所従事者の数に応じた広さがあり、作業場に出入りしやすい位置にあること
廃棄物容器汚液や汚臭が漏れない構造で、清掃しやすく十分な容量があること

シンクの数や手洗い設備の位置などは、自治体の運用や業態によって求められる内容が異なります。内装工事の図面が固まる前に保健所に相談すると、工事のやり直しを避けやすくなります。

保健所での手続きの流れと手数料

手続きは、事前相談、申請書類の提出、施設の実地検査、許可書の交付という順で進みます。申請時期や検査までの日数の目安は保健所によって異なるため、ここでは東京都中央区保健所の案内を例に紹介します。

  1. 事前相談:施設工事の着工前に、施設全体と調理場の詳細を記した平面図などを持参して保健所に相談します。
  2. 申請書類の提出:中央区の例では、施設完成の約10日前までに提出するよう案内されています。
  3. 施設の実地検査:保健所の職員が施設を確認します。営業者の立ち会いが必要です。
  4. 許可書の交付:基準に適合していれば許可となります。交付日は検査担当者と確認します。

主な提出書類

中央区の案内では、新規申請の書類として、営業許可申請書、施設の構造及び設備を示す図面(2部)、食品衛生責任者の資格を証明するもの、水質検査成績書(該当する場合)、登記事項証明書(法人の場合)、申請手数料が挙げられています。様式や部数は自治体で異なるため、管轄の保健所の案内に従ってください。

申請手数料の例

手数料は自治体ごとに条例で定められています。例として、東京都新宿区の手数料一覧では、飲食店営業の新規申請が18,300円、継続(更新)申請が8,900円とされています。他の地域では金額が異なるため、必ず管轄の自治体で確認してください。

オンライン申請(食品衛生申請等システム)

厚生労働省の「食品衛生申請等システム」では、営業許可申請や営業届出をオンラインで行うことができます。ただし、自治体によっては窓口での申請を求めている場合があり、たとえば中央区の営業許可の案内では同システムでの申請はできない旨が記載されています。利用できるかどうかは、事前に管轄の保健所へ確認してください。

食品衛生責任者の資格と役割

許可業種・届出業種のいずれでも、営業者は施設ごとに食品衛生責任者を定める必要があります。食品衛生責任者は、営業者の指示に従って衛生管理を行い、必要に応じて営業者に意見を述べる役割を担います。

資格の取り方

一般的には、都道府県等が実施または指定する「食品衛生責任者養成講習会」を受講して資格を得ます。東京都の案内では講習は計6時間程度で、科目は食品衛生学(2.5時間)、食品衛生法(3時間)、公衆衛生学(0.5時間)と確認試験で構成されています。受講料や日程は実施団体によって異なります。

講習が免除される資格

東京都の案内では、調理師、製菓衛生師、栄養士、管理栄養士、船舶料理士、食鳥処理衛生管理者、食品衛生管理者または食品衛生監視員の資格要件を満たす者などは、養成講習会を受けずに食品衛生責任者になれるとされています。資格を証明する免許証などの写しを申請時に用意しておきましょう。

資格取得後も、食品衛生責任者は定期的に講習会を受講し、新しい知見を学ぶよう求められています。東京都では「食品衛生実務講習会」が案内されています。

HACCPに沿った衛生管理と許可の有効期間

衛生管理計画の作成と記録

2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。小規模な一般飲食店は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象で、厚生労働省が示す手引書などを使って衛生管理計画を作成し、実施状況を記録・保存します。

厚生労働省の解説資料では、営業許可の申請時に「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」のどちらを実施するかを記載する仕組みが示されています。具体的な進め方は、関連記事「HACCPに沿った衛生管理」で詳しく解説しています。

許可の有効期間と更新

営業許可には有効期間があり、都道府県等が定めます。例として、熊本県の事務処理要領では、固定店舗の飲食店営業は施設の状況に応じて5年から7年、自動車営業と仮設営業は一律5年とされています。

更新を忘れると営業を続けられなくなります。中央区の案内では、継続許可の申請は許可期間満了の1か月前までとされているため、許可書に記載された期限を確認し、早めに手続きしましょう。

テイクアウト・キッチンカー・ネット販売の扱い

飲食店営業は「食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業」と定義されており、店内飲食に加えて、調理した料理をテイクアウトで提供する形態も一般に飲食店営業の範囲で扱われます。テイクアウト専門店も、扱う品目によって飲食店営業または製造業の許可が必要になります。

キッチンカーは「自動車」による飲食店営業として、店舗とは別に許可が必要です。北海道の案内では、給水・廃水タンクの容量(約40リットル、約80リットル、約200リットル)に応じて提供できる調理の範囲が変わるとされています。営業できる地域の範囲も自治体の案内で確認が必要です。

通信販売や他店への卸売を行う場合は、飲食店営業の許可だけでは足りず、菓子製造業やそうざい製造業などの許可が必要になることがあります。商品の種類、包装、販売先によって判断が分かれるため、計画段階で保健所に確認してください。お酒を持ち帰りで販売する場合は、食品衛生法とは別に酒類販売業免許の確認が必要です。詳しくは関連記事「テイクアウトでお酒を売るには?」をご覧ください。

開業前チェックリスト

  • □ 自店の業態が営業許可・営業届出のどちらに当たるか保健所に確認した
  • □ 内装工事の着工前に、平面図を持参して保健所に事前相談した
  • □ 手洗い設備、シンク、冷蔵・冷凍設備、トイレの手洗いなど共通基準を図面で確認した
  • □ 申請の提出期限と施設検査の日程を保健所と調整した
  • □ 申請手数料の金額を自治体の手数料一覧で確認した
  • □ 食品衛生責任者を決め、資格証明(受講修了証や免許証)を用意した
  • □ HACCPの考え方を取り入れた衛生管理計画と記録表を準備した
  • □ テイクアウト、キッチンカー、ネット販売を行う場合の追加許可を確認した
  • □ 許可書の有効期限をカレンダーに登録し、更新時期を把握した

よくある質問

Q. 内装工事が終わってから保健所に相談しても間に合いますか。

A. 工事後の相談では、基準に合わない部分が見つかったときに手直しが必要になります。中央区保健所などは着工前の事前相談を求めているため、図面の段階で相談するのが確実です。

Q. 食品衛生責任者は店長でなければいけませんか。

A. 役職の決まりはなく、施設ごとに資格を持つ者を定めることが求められています。営業者本人が務めることもできます。

Q. 喫茶店営業の許可は今でも取れますか。

A. 2021年6月の改正で喫茶店営業は飲食店営業に統合されました。新たにカフェを開く場合は飲食店営業の許可を申請します。

Q. 2店舗目を出す場合、許可は共通で使えますか。

A. 営業許可は施設ごとに必要です。食品衛生責任者も施設ごとに定める必要があります。

まとめ

飲食店の開業には、保健所の飲食店営業許可と、施設ごとの食品衛生責任者の設置が欠かせません。2021年6月の改正で許可業種は32業種に再編され、許可が不要な業種にも営業届出の制度ができました。

手続きは事前相談、申請、施設検査、許可の順に進み、申請時期や手数料、オンライン申請の可否は自治体によって異なります。工事前に保健所へ相談し、食品衛生責任者の資格取得とHACCPに沿った衛生管理計画の準備を並行して進めましょう。

出典