年度替わりの3月から4月は、社会保険料率と雇用保険料率の改定、36協定の更新、新入社員の受け入れが一度に重なる、労務担当者にとって最も忙しい時期です。協会けんぽの保険料率は毎年3月分(4月納付分)から、雇用保険料率は4月1日から切り替わるため、給与計算の設定を正しい月に変えることが欠かせません。

この記事は、小売店や飲食店を運営する会社の経営者、人事・労務担当者、給与計算を担当する経理の方に向けたものです。パート・アルバイトを多く雇う店舗ビジネスで見落としやすい点を中心にまとめました。

2026年度の保険料率の実例、給与計算ソフトの更新、36協定と就業規則の見直し、人事異動、新入社員の手続き、有給休暇の管理、障害者雇用状況報告まで、年度替わりに確認したい項目を順に解説します。

3月〜4月に変わる保険料率

協会けんぽの健康保険料率・介護保険料率

協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに決まっており、毎年度、3月分(4月納付分)から改定されます。令和8年度(2026年度)も3月分(4月納付分)から新しい率が適用されました。任意継続被保険者などは4月分(4月納付分)からです。

一例として、東京都の健康保険料率は令和7年度の9.91%から令和8年度9.85%に引き下げられました。介護保険料率は全国一律で1.62%で、40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者に適用されます。店舗が複数の都道府県にあっても、適用事業所の所在地によって率が決まるため、自社がどの支部の率を使うかを確認してください。

子ども・子育て支援金

令和8年4月分(5月納付分)からは、健康保険料とあわせて全国一律0.23%の子ども・子育て支援金が徴収されています。健康保険料率の改定(3月分)と支援金の開始(4月分)は月がずれるため、2か月続けて給与計算の設定を変えることになりました。制度の詳しい内容は、関連記事「子ども・子育て支援金の徴収開始」で解説しています。

雇用保険料率と労災保険率

雇用保険料率は年度単位で決まり、4月1日から新しい率が適用されます。令和8年度(2026年4月1日〜2027年3月31日)の一般の事業の率は次のとおりで、令和7年度の1,000分の14.5から1,000分の13.5に下がりました。

保険の種類適用の開始2026年度の率(例)負担の内訳
健康保険(協会けんぽ・東京都)3月分(4月納付分)9.85%事業主と被保険者で負担
介護保険(40〜64歳)3月分(4月納付分)1.62%(全国一律)事業主と被保険者で負担
子ども・子育て支援金4月分(5月納付分)0.23%(全国一律)健康保険料とあわせて徴収
雇用保険(一般の事業)4月1日1,000分の13.5労働者5、事業主8.5
労災保険(卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業)4月1日1,000分の3全額事業主負担

労災保険率は、令和8年度は令和7年度と同率です。小売業と飲食店は「卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業」に区分され、率は1,000分の3です。

給与計算ソフトの更新と確認

保険料率の変更は、給与計算ソフトやクラウドサービスの更新で自動的に反映される場合と、担当者が手動で設定する場合があります。どちらの場合も、最初の給与で控除額が正しいかを確認してください。

社会保険料を翌月の給与から控除している会社では、3月分の健康保険料は4月に支給する給与から控除するのが一般的です。雇用保険料は、4月1日以後に締め日がある給与から新しい率になるため、締め日と支給日がまたがる場合の扱いをソフトの設定と照らし合わせます。

  • □ 給与計算ソフトのバージョン更新、または料率の手動変更
  • □ 健康保険料率・介護保険料率を3月分から変更したか
  • □ 子ども・子育て支援金を4月分から控除に加えたか
  • □ 雇用保険料率を4月1日以後の締め分から変更したか
  • □ 4月中に40歳になる人、65歳になる人の介護保険料の扱い
  • □ 給与明細の控除項目名が従業員にわかる表記になっているか

36協定・就業規則の見直し

36協定の有効期間と更新

時間外労働や休日労働をさせるには、36協定を結んで労働基準監督署に届け出る必要があります。厚生労働省のQ&Aでは、有効期間は1年間とすることが望ましいとされており、対象期間(1年間)の起算日を4月1日にしている会社も多くあります。

起算日を4月1日にしている場合、3月中に新しい協定を締結し、届出を済ませておく必要があります。対象期間の起算日を途中で変えることは原則として認められないため、毎年同じ時期に更新する流れを作っておくと安心です。

店舗ごとに協定を結ぶ必要がある点にも注意してください。協定の届出は事業場(店舗や営業所)ごとに行うのが原則で、新しく開いた店舗の分を出し忘れる例があります。上限規制の内容は、関連記事「36協定と残業の上限規制」で解説しています。

就業規則と2027年4月施行の改正

就業規則は、法改正や社内制度の変更にあわせて見直します。2027年4月1日に施行される主な制度として、外国人の技能実習制度を見直して創設される育成就労制度があります。出入国在留管理庁の案内では、一部の規定を除き令和9年4月1日に施行されます。

外国人スタッフを雇用している、または今後受け入れを検討している店舗は、受け入れの仕組みや社内規程の扱いを早めに確認しておくとよいでしょう。そのほかの改正の施行日は、厚生労働省の最新の案内で確認してから就業規則に反映してください。

人事異動・新入社員・有給休暇の管理

人事異動と労働条件の変更

4月の人事異動で、店長への昇格、別店舗への異動、正社員への登用などがある場合は、労働条件が変わる部分を書面で本人に伝えます。勤務地、賃金、労働時間が変わる場合は、変更後の内容を確認してもらってから運用を始めます。

店長への昇格で管理職扱いにする場合は、管理監督者に当たるかどうかを職務内容や待遇から慎重に判断してください。肩書きだけで残業代の対象外にすると、未払い残業代の問題につながります。

新入社員・新人アルバイトの受け入れ

4月入社の新入社員や、春に採用が増えるアルバイトについては、入社日を基準に社会保険・雇用保険の資格取得の手続き、労働条件通知書の交付、マイナンバーや扶養の確認などを進めます。具体的な書類と期限は、関連記事「新入社員・新人アルバイトの入社手続き」でまとめています。

有給休暇の基準日の管理

年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)には、付与した日(基準日)から1年以内に5日を取得させる必要があります。使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

4月入社の社員とそれ以外の時期に入ったアルバイトで基準日がばらばらになると、管理が難しくなります。全社的に付与日を統一する方法もあり、その場合は重複する期間の長さに応じて取得日数を按分する取扱いも認められています。

年度の手続きと報告のスケジュール

年度替わり以降に続く主な労務の手続きを、時期の目安とあわせて整理します。

時期項目確認すること
3月36協定の締結・届出(4月起算の場合)全店舗分そろっているか
3月分〜健康保険料率・介護保険料率の改定給与計算ソフトの設定
4月1日〜雇用保険料率の改定、新入社員の受け入れ資格取得の手続き、労働条件通知書
4月分〜子ども・子育て支援金の徴収控除項目の追加
4月以降助成金の新年度要件の確認支給要件や申請期限の変更
6月1日現在高年齢者・障害者雇用状況等報告対象かどうか、常用労働者数

助成金の新年度の要件

雇用関係の助成金は、年度が変わると支給要件や申請の手順が見直されることがあります。前年度に使った助成金を今年度も申請する予定がある場合は、厚生労働省や各労働局の新年度の案内を確認してから計画を立ててください。

障害者雇用状況報告

障害者雇用状況報告は、毎年6月1日現在の雇用状況をハローワークに報告するものです。厚生労働省の案内では、令和8年の報告の対象は従業員40.0人以上の事業主とされ、6月1日から電子申請ができます。

民間企業の法定雇用率は、令和8年7月から2.5%から2.7%に引き上げられ、対象となる事業主の範囲は従業員37.5人以上に広がりました。店舗のパート・アルバイトも人数に数える場合があるため、自社が対象になるかを確認しておきましょう。

年度替わりの労務チェックリスト

  • □ 協会けんぽの都道府県別保険料率(3月分から)を確認した
  • □ 子ども・子育て支援金(4月分から)を控除に加えた
  • □ 雇用保険料率(4月1日から)を給与計算に反映した
  • □ 労災保険の業種区分と率を確認した
  • □ 36協定を全店舗分締結し、届け出た
  • □ 就業規則と法改正の施行日を照らし合わせた
  • □ 異動・昇格者の労働条件の変更を書面で伝えた
  • □ 新入社員・新人アルバイトの入社手続きを済ませた
  • □ 年次有給休暇管理簿を更新し、年5日の取得計画を立てた
  • □ 今年度申請する助成金の要件を確認した
  • □ 6月1日現在の雇用状況報告の準備を始めた

よくある質問

Q. 健康保険料率の変更は、いつ支給の給与から反映しますか。

A. 協会けんぽの料率は3月分(4月納付分)から変わります。保険料を翌月の給与から控除している会社では、4月に支給する給与から新しい率で控除するのが一般的です。

Q. 雇用保険料率は2026年度にどう変わりましたか。

A. 一般の事業は、令和7年度の1,000分の14.5から令和8年度は1,000分の13.5に下がりました。労働者負担は1,000分の5、事業主負担は1,000分の8.5です。

Q. 36協定は毎年出し直す必要がありますか。

A. 有効期間は1年間とすることが望ましいとされており、多くの会社が毎年更新しています。有効期間が切れたまま残業をさせることがないよう、期限を管理してください。

Q. アルバイトにも有給休暇の年5日の取得義務はありますか。

A. 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者が対象です。勤務日数や勤続年数によってはアルバイトも対象になるため、管理簿で付与日数を確認してください。

まとめ

年度替わりの労務は、協会けんぽの保険料率(3月分から)、子ども・子育て支援金(4月分から)、雇用保険料率(4月1日から)と、開始時期の違う変更が続くため、月ごとに給与計算の設定を確認することが大切です。あわせて36協定の更新、就業規則の見直し、人事異動と新入社員の手続きを3月中に段取りしておくと、4月の負担を減らせます。

その後も、有給休暇の基準日管理、助成金の要件確認、6月1日現在の障害者雇用状況報告と手続きが続きます。チェックリストを使って、担当者と期限を決めて進めてください。

出典