食品スーパーの経営には、営業許可から食品表示、税、取引、物流、労務、補助金まで、多くの法律と制度が関わります。しかも2026年は取適法の施行、カシューナッツの特定原材料追加、社会保険の賃金要件撤廃、カスハラ対策の義務化など、変更が重なった年です。
この記事は、食品スーパーを経営している方、これから開業する方、店長や本部で法務・総務を担当している方に向けたものです。専門家に相談する前に「何が関係するか」を一覧で把握することを目的にしています。
許可・届出、表示、衛生、税、取引、物流、労務、補助金の順に、各分野の要点を短くまとめ、詳しい解説記事への案内を付けました。最後にチェックリストとよくある質問も載せています。
許可・届出:売場ごとに必要な手続きが違う
食品スーパーは一つの店舗の中に複数の「営業」を抱えています。2021年6月施行の改正食品衛生法で、営業許可の業種が再編され、新たに営業届出制度ができました。売場ごとに許可が必要か届出で足りるかを確認することが、開業準備の出発点です。
主な売場と必要な手続き
| 売場・行為 | 主な手続き | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 精肉(カット・スライス・パック詰め) | 食肉販売業の許可 | 包装済みのものを仕入れてそのまま売るだけなら届出の対象 |
| 鮮魚(切り身・刺身の加工) | 魚介類販売業の許可 | 同上。包装の状態で許可・届出が分かれる |
| 惣菜・弁当のバックヤード調理 | そうざい製造業または飲食店営業の許可 | 販売方法(店内販売のみか、他店舗への供給があるか)で保健所の判断が分かれる |
| インストアベーカリー | 菓子製造業の許可(パンを含む) | 冷凍生地を焼くだけの場合も保健所に事前確認 |
| 常温の包装食品(カップ麺、菓子など)のみの販売 | 営業届出 | HACCPに沿った衛生管理の実施義務の対象外となる類型あり |
| 酒類 | 一般酒類小売業免許(税務署) | 店舗ごとに免許が必要。販売管理者の選任も必要 |
| たばこ | 製造たばこ小売販売業の許可 | 申請先と許可基準を事前に確認 |
| 一般用医薬品 | 店舗販売業の許可(都道府県等) | 登録販売者などの専門家の配置が必要 |
厚生労働省の資料では、食肉や魚介類を容器包装に「入れられた」状態で仕入れてそのまま販売する場合は営業届出、紙などで「包まれた」状態のものは営業許可の対象と整理されています。迷う品目は、レイアウト図面を持って開業前に保健所へ相談するのが確実です。惣菜売場の許可の考え方は「惣菜・弁当店の法律ガイド」で詳しく扱っています。
表示:生鮮・加工食品・アレルゲン・価格
生鮮食品と加工食品の表示
生鮮食品は、農産物・畜産物で名称と原産地、水産物ではさらに解凍・養殖の別の表示が必要です。容器包装に入れた加工食品は、名称、原材料名、添加物、アレルゲン、原料原産地名、内容量、消費期限または賞味期限、保存方法、事業者の氏名・住所、栄養成分表示などが必要です。一方、惣菜や刺身盛り合わせを店内で加工し、その店内で販売する「インストア加工」は、食品表示基準第5条により原材料名や内容量などの表示が不要とされています。
アレルゲン:カシューナッツが特定原材料に
カシューナッツは2026年4月に表示義務のある特定原材料に追加されました。経過措置期間は2028年3月31日までです。ナッツ入りの惣菜、菓子、PB商品のラベルは、期限を待たず順次切り替えておくと安心です。詳しくは「カシューナッツが特定原材料に」をご覧ください。
二重価格表示
「当店通常価格」などの過去の販売価格と比べる表示は、消費者庁の価格表示ガイドラインに沿う必要があります。目安は、セール開始時点からさかのぼる8週間(販売期間が8週間未満ならその期間)のうち過半の期間、その価格で販売した実績があることです。その価格での販売が通算2週間未満の場合や、最後に販売した日から2週間以上たっている場合は、比較対照価格に使えません。
衛生と税:HACCPと食品の消費税1%
HACCPと惣菜の温度管理
2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。業界団体の手引書をもとに衛生管理計画を作り、記録を残すことが基本です。惣菜の加熱・冷却は、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアル(中心温度75℃で1分間以上の加熱、加熱後30分以内に中心温度20℃付近まで冷却など)が実務上の目安になります。詳しくは「HACCPに沿った衛生管理」をご覧ください。
軽減税率と食品の消費税1%
現在、酒類を除く飲食料品の販売は軽減税率8%、イートインでの飲食は標準税率10%です。政府は2026年9月15日、飲食料品の税率を2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、1%に引き下げる大綱を閣議決定しました。国税庁・財務省の特設サイトは、内容が「法案が国会に提出され、審議を経た上で可決・成立した場合のもの」と明記しており、2026年10月30日時点では法案成立前の情報として扱う必要があります。
国税庁のQ&Aでは、値札の貼り替えが困難な事情がある場合に限り、2027年2月1日から5月31日まで8%・1%いずれの税込価格の表示も認める特例が示されています。レジの税率マスタ、POP、PB商品の印字価格、会計ソフトの設定を早めに点検しましょう。詳しくは「食品の消費税1%」をご覧ください。
取引と物流:取適法・食料システム法・改正物流効率化法
取適法(改正下請法)
2026年1月1日に施行された取適法では、PB商品の製造委託などが対象取引になり得ます。協賛金や販促費の一方的な要求、代金の減額、価格協議に応じないことなどは問題になりやすい行為です。発注書面の記載事項と支払期日の管理を見直してください。詳しくは「取適法(改正下請法)で小売・外食の取引はどう変わる?」をご覧ください。
食料システム法
食料システム法は2025年6月に成立し、合理的な費用を考慮した価格形成に関する部分は2026年4月1日から施行されています。食品等の取引では、コストの見直しなどについて誠実に協議する努力が求められ、取組が不十分な事業者は農林水産大臣の指導・助言の対象になり得ます。仕入先から値上げの協議を求められたときの社内ルールを決めておきましょう。
改正物流効率化法
2026年4月から、取扱貨物の重量が年9万トン以上の特定荷主には、中長期計画の作成、定期報告、物流統括管理者の選任などが義務付けられました。特定荷主に当たらない事業者も、荷待ち・荷役時間の短縮などに取り組む努力義務があります。センター納品の時間指定や検品方法の見直しは、取引先との協議事項になります。詳しくは「改正物流効率化法とは?」をご覧ください。
労務と補助金:人手不足と人件費への備え
パート・アルバイトの社会保険と最低賃金
食品スーパーはパート・アルバイトの比率が高く、社会保険の制度変更の影響を大きく受けます。社会保険の賃金要件(月額8.8万円)は2026年10月1日に撤廃されました。企業規模要件は現在51人以上で、2027年10月からは36人以上に広がります。シフトの組み方と人件費計画を見直してください。詳しくは「106万円の壁撤廃」をご覧ください。
2026年度の最低賃金は全国加重平均で1,177円です。改定後の時給が地域別最低賃金を下回っていないか、研修期間中の時給も含めて確認が必要です。
カスハラ対策
2026年10月1日から、事業主にカスタマーハラスメント対策が義務付けられました。対応方針の明確化、相談体制の整備、被害を受けた従業員への配慮などが求められます。レジやサービスカウンターでの対応ルールを文書にしておきましょう。詳しくは「カスハラ対策義務化」をご覧ください。
省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金には、製品カタログから選ぶ「カタログ注文型」と、オーダーメイドの設備も対象になる「一般型」があります。補助率は、カタログ注文型が1/2、一般型が中小企業1/2・小規模事業者等2/3です。セルフレジなど検討中の機器が対象になるかは、製品カタログと公募要領で確認してください。詳しくは「中小企業省力化投資補助金とは?」をご覧ください。
食品スーパー経営者のチェックリスト
- □ 精肉・鮮魚・惣菜・ベーカリーの各売場で、許可と届出の区分を保健所に確認した
- □ 酒類・たばこ・医薬品の免許・許可の名義と更新時期を把握している
- □ カシューナッツを含む商品のラベル切り替え計画がある(経過措置は2028年3月31日まで)
- □ 「通常価格」表示の比較価格に、8週間の販売実績の裏付けがある
- □ 衛生管理計画を作り、惣菜の加熱・冷却の記録を残している
- □ 食品の消費税1%に向けて、レジ・値札・会計ソフトの改修時期を検討している
- □ PB製造委託の発注書面と支払期日が取適法に沿っている
- □ 仕入先からの価格協議に対応する社内ルールがある
- □ パートの社会保険加入対象者を洗い出した
- □ カスハラ対応方針と相談窓口を従業員に周知した
よくある質問
Q. 精肉をパックで仕入れて並べるだけでも食肉販売業の許可が必要ですか?
A. 容器包装に入れられた状態で仕入れ、そのまま販売するだけなら営業届出の対象と整理されています。店内でカットやパック詰めをする場合は許可が必要です。包装の状態によって判断が変わるため、保健所に確認してください。
Q. 店内で作った惣菜にも原材料やアレルゲンの表示が必要ですか?
A. 店内で製造し、その店内で販売するインストア加工は、原材料名などの表示が不要とされています。ただし、アレルギー事故を防ぐため、売場のPOPなどでアレルゲン情報を伝える取組が望まれます。他店舗へ配送して販売する場合は表示が必要です。
Q. 食品の消費税1%は決定事項ですか?
A. 2026年10月30日時点では、政府が大綱を閣議決定した段階で、法案の成立が前提です。国税庁の特設サイトやQ&Aも成立を前提とした内容です。レジ改修などの準備は、国会審議の動向を見ながら進めてください。
Q. 特定荷主に当たらない小規模なスーパーには物流効率化法は関係ありませんか?
A. 中長期計画や物流統括管理者の選任の義務はありませんが、荷主として荷待ち時間の短縮などに取り組む努力義務があります。取引先の物流事業者から納品条件の見直しを求められることもあります。
Q. セルフレジの導入に使える補助金はありますか?
A. 中小企業省力化投資補助金が候補になります。製品カタログに登録された機器なら「カタログ注文型」、カタログにない設備やシステムと組み合わせるなら「一般型」を検討します。対象となる機器、補助上限、申請時期は公募ごとに変わるため、申請前に公式サイトの最新の公募要領を確認してください。
まとめ
食品スーパーは、売場ごとの営業許可、表示、衛生、税、取引、物流、労務と、関わる制度が非常に多い業態です。2026年は取適法、カシューナッツ表示、社会保険の賃金要件撤廃、カスハラ対策など変更が集中しました。
2027年4月には食品の消費税1%も予定されています。まずはチェックリストで自社の対応状況を確かめ、各分野の詳しい記事と保健所・税務署・社会保険労務士などの専門家を活用して準備を進めてください。
出典
- 改正食品衛生法における営業規制に関する政省令の策定状況等について(厚生労働省)
- HACCP(ハサップ)(厚生労働省)
- 大量調理施設衛生管理マニュアル(厚生労働省)
- 食品表示(事業者向け)(横浜市)
- 食品表示 よくある質問(江戸川区)
- 景品表示法・価格表示ガイドラインのポイント(沖縄県)
- 消費税率引下げ特設サイト(国税庁・財務省)
- 飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A(国税庁)
- 食料システム法(農林水産省)
- 改正物流効率化法の施行に伴う義務(国土交通省)
- 中小企業庁担当者に聞く 令和8年度 中小企業省力化投資補助金[一般型](ミラサポplus/中小企業庁)
- カタログ型省力化補助金に関して、券売機やスチームコンベクションオーブンの置き換えについても交付申請を一部可能といたしました(中小企業庁)