令和8年度税制改正により、中小企業者等の少額減価償却資産の特例の対象が「取得価額30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられ、国税庁の資料では2026年(令和8年)4月1日以後に取得等する資産から適用されるとされています。あわせて適用期限は3年延長され、対象から除外される法人は「常時使用する従業員数500人超」から「400人超」に変わりました。年間合計300万円の上限は維持されています。
対象になるのは、青色申告をしている中小企業者等です。財務省の大綱では、個人事業者(所得税)についても同様とされています。レジ、冷蔵庫、製氷機、タブレット、パソコンなど、店舗で使う30万円台の設備を購入する小売・飲食の事業者に関係の深い改正です。
この記事では、改正の内容、10万円未満・20万円未満・40万円未満の3つの制度の違い、償却資産税(固定資産税)への影響、決算前に購入する際の考え方を整理します。
1. 改正のポイント:30万円未満から40万円未満へ
少額減価償却資産の特例は、本来は数年かけて減価償却する資産を、取得して事業に使い始めた年度に全額経費(損金)にできる制度です。今回の改正では、取得価額の上限が引き上げられ、対象となる資産の範囲が広がりました。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 取得価額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 年間の合計額の上限 | 300万円 | 300万円(維持) |
| 対象から除外される法人 | 常時使用する従業員数が500人超の法人 | 常時使用する従業員数が400人超の法人 |
| 適用期限 | 2026年3月31日まで | 3年延長 |
| 適用時期 | ― | 2026年4月1日以後に取得等する資産から |
改正前の制度の適用期限は、国税庁タックスアンサーNo.5408で2026年(令和8年)3月31日までと示されています。3年延長により、2029年(令和11年)3月31日までとなる見込みです。年間300万円の上限は、事業年度が1年未満の場合は月割りで計算します。
従業員数の要件に注意
パート・アルバイトを多く雇う多店舗チェーンでは、従業員数の要件に注意が必要です。改正前は500人以下なら対象でしたが、改正後は400人を超える法人が対象外になります。「常時使用する従業員」の数え方は、顧問税理士と確認しておきましょう。
2. 10万円未満・20万円未満・40万円未満の違い
少額の設備を経費にする方法は、取得価額に応じて3つあります。どれを選ぶかで、その年の経費の額と、償却資産税の扱いが変わります。
| 制度 | 取得価額 | 経費にする方法 | 主な要件 | 償却資産税の申告 |
|---|---|---|---|---|
| 少額の減価償却資産 | 10万円未満 | 事業に使った年度に全額損金(損金経理が必要) | 青色申告でなくても可 | 対象外 |
| 一括償却資産 | 20万円未満 | 3年間で3分の1ずつ均等に損金 | 青色申告でなくても可 | 対象外 |
| 中小企業者等の少額減価償却資産の特例 | 40万円未満(2026年4月1日以後取得分) | 事業に使った年度に全額損金(年間合計300万円まで) | 青色申告の中小企業者等、従業員400人以下など | 対象(申告が必要) |
10万円未満と20万円未満の制度では、2022年(令和4年)4月1日以後に取得し、貸付けの用に供したもの(主要な事業として行うものを除く)は対象外です。店舗で自ら使う設備であれば、通常はこの除外にあたりません。
取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産と少額減価償却資産の特例のどちらも選べます。その年に全額を経費にしたいなら特例、償却資産税の申告対象にしたくないなら一括償却資産、という比べ方になります。
取得価額が20万円以上40万円未満の資産は、特例を使わない場合、資産の種類ごとの耐用年数に応じて複数年で減価償却します。改正前は30万円以上40万円未満の資産がこの通常の償却の対象でしたが、2026年4月1日以後の取得分からは特例で一度に経費にする選択肢が加わりました。
3. 償却資産税(固定資産税)の課税対象になる点
見落としやすいのが、償却資産税です。東京都主税局の案内では、10万円未満で全額損金にしたものと、20万円未満で一括償却資産として処理したものは申告の対象外です。一方、中小企業者等の少額減価償却資産の特例で損金算入したものは、申告の対象になります。
償却資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点で所有する事業用資産について、1月31日までに市区町村(東京23区は都税事務所)に申告します。税率は1.4%で、課税標準額の合計が150万円未満であれば課税されません(免税点)。
つまり、法人税・所得税の上では全額を経費にしても、償却資産の申告からは外れません。30万円台の資産が増える今回の改正後は、店舗全体の償却資産の合計が免税点を超えるかどうかも確認しておくと安心です。
4. 店舗設備の例と判定のポイント
小売・飲食の店舗で、特例の検討対象になりやすい設備には次のようなものがあります。実際に対象になるかは、1台ごとの取得価額や、セットで機能するかどうかで判定します。
- POSレジ本体、キャッシュドロア、レシートプリンター
- 業務用冷蔵庫・冷凍庫、製氷機、食器洗浄機
- セルフオーダー用やモバイルPOS用のタブレット
- 本部・事務所で使うパソコン、複合機
判定は「1台」「1組」単位で
国税庁タックスアンサーNo.5403では、少額の減価償却資産かどうかは、通常1単位として取引される単位ごとに判定するとしています。たとえば、レジ本体と周辺機器を一体で使う場合は、分けずにまとめて判定することになる場合があります。複数店舗に同じ機器を入れる場合でも、判定は1台ごとですが、年間合計300万円の上限にはすべて含まれます。
取得価額に含まれるもの
取得価額には、本体価格のほか、配送費や設置費など事業に使うまでにかかった費用が含まれることがあります。また、消費税の経理方式(税抜経理か税込経理か)によって判定に使う金額が変わる可能性があります。40万円前後の機器は、見積書の内訳を顧問税理士と確認してから購入するのが確実です。
5. 決算前の購入タイミングの考え方
特例は「取得して事業の用に供した」年度に適用されます。決算直前に注文しても、納品・設置が決算日を過ぎて使い始めが翌期になれば、その期の経費にはなりません。
決算期と2026年4月1日の関係
40万円未満の基準は、2026年4月1日以後に取得等する資産に適用されます。3月決算法人なら2026年4月からの事業年度がまるごと新しい基準です。12月決算法人の2026年12月期では、1月〜3月の取得分は改正前の30万円未満、4月以後の取得分は40万円未満の基準となる点に注意しましょう。
「経費にする」ことが得とは限らない
特例で全額を経費にすると、その年の税負担は下がりますが、翌年以後の減価償却費はなくなります。利益が少ない年や赤字の年に使っても効果は小さく、青色欠損金の扱いとあわせて考える必要があります。資金を減らしてまで決算前に購入するのではなく、もともと必要な設備の導入時期を調整する、という考え方が基本です。
また、年間300万円の上限があるため、複数店舗で同じ時期に設備を入れ替える場合は、どの資産に特例を使い、どれを一括償却資産や通常の償却にするかを決算前に整理しておくと処理がスムーズです。
他の制度との組み合わせ
レジやタブレットの導入では、補助金の活用や、より大きな設備投資向けの税制も選択肢になります。ストアガイドの関連記事「デジタル化・AI導入補助金」「中小企業経営強化税制」もあわせて確認してください。
6. 購入前・決算前のチェックリスト
- □ 青色申告の承認を受けている
- □ 中小企業者等に該当し、常時使用する従業員数が400人以下である
- □ 取得日が2026年4月1日以後か(40万円未満の基準が使えるか)を確認した
- □ 1台(1組)あたりの取得価額を、付随費用・消費税の経理方式を含めて確認した
- □ 決算日までに納品・設置し、事業に使い始められる日程である
- □ その事業年度の特例適用額の合計が300万円以内に収まる
- □ 償却資産税の申告(毎年1月31日まで)に特例適用資産を含める準備をした
- □ 確定申告で「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表16(7))」を添付する
- □ 一括償却資産(3年均等)とどちらが有利かを比較した
よくある質問
Q. 2026年3月に35万円のレジを買って使い始めた場合も対象ですか。
A. 国税庁の資料では、40万円未満への引上げは2026年4月1日以後に取得等する資産から適用されるとされています。3月の取得であれば改正前の30万円未満の基準となり、35万円の資産は特例の対象外と考えられます。通常の減価償却で処理することになります。
Q. 個人事業主でも使えますか。
A. 財務省の大綱では、所得税についても同様とされています。青色申告をしている個人事業主が対象です。個人の場合の適用開始時期などの細部は、国税庁の案内や顧問税理士で確認してください。
Q. 年間300万円を超えた分はどうなりますか。
A. 特例で全額経費にできるのは合計300万円までです。超えた分は、通常の減価償却や、20万円未満であれば一括償却資産などで処理します。
Q. 特例で経費にした資産は、固定資産税もかかりませんか。
A. かかる可能性があります。特例で損金算入した資産は償却資産税の申告対象です。10万円未満の即時損金や一括償却資産とは扱いが異なります。
まとめ
中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、2026年4月1日以後に取得等する資産から40万円未満に拡大され、適用期限も3年延長されました。一方で、従業員数400人超の法人が対象外となり、年間300万円の上限は変わりません。
特例で経費にした資産は償却資産税の申告対象になるため、10万円未満・20万円未満の制度との違いを理解して使い分けることが大切です。決算前の購入は、事業に使い始める日と取得価額の判定を確認したうえで計画的に進めましょう。