60歳以上の高年齢者や母子家庭の母等をハローワーク等の紹介で雇い入れると、中小企業は特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)で1人あたり最大60万円(短時間労働者以外の場合)を受給できる可能性があります。ただし2026年5月1日以降、60歳以上の方は「紹介日にハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けていること」が新たな要件になりました。

この記事は、パートやアルバイトを含めて人手不足が続くスーパー、ドラッグストア、飲食店などの経営者や人事担当者に向けたものです。シニアやひとり親の採用を検討している店舗、まず試行雇用で適性を見たい店舗に役立ちます。

特定求職者雇用開発助成金のコース、対象者、支給額、申請の流れを整理したうえで、トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)との違いや併用の考え方、よくある失敗を解説します。金額や要件は2026年10月1日時点で厚生労働省の公表資料から確認したものです。申請前には必ず最新のパンフレットと支給要領を確認してください。

特定求職者雇用開発助成金とは:5つのコース

特定求職者雇用開発助成金は、就職が難しい方をハローワーク等の紹介で継続雇用する事業主に支給される助成金です。厚生労働省の「雇用関係助成金一覧」では、2026年度は次の5コースが掲載されています。

コース名主な対象(概要)
特定就職困難者コース60歳以上の高年齢者、母子家庭の母等、障害者など
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース発達障害者、難治性疾患患者
中高年層安定雇用支援コース対象者はコースページで確認
生活保護受給者等雇用開発コース生活保護受給者等
成長分野等人材確保・育成コース就職困難者を成長分野等で雇い入れ、人材育成等を行う場合

小売・外食の店舗でシニアやひとり親を採用する場合、中心になるのは「特定就職困難者コース」です。他のコースは対象者や要件が異なるため、該当しそうな場合は各コースのページを確認してください。

特定就職困難者コースの対象者

パンフレットでは、対象労働者として次の方が挙げられています。

  • 高年齢者(雇入れ時に60歳以上)
  • 母子家庭の母、父子家庭の父
  • 身体障害者、知的障害者、精神障害者(重度障害者や45歳以上の障害者を含む)
  • 中国残留邦人等永住帰国者、北朝鮮帰国被害者等、アイヌの人々、ウクライナ避難民、補完的保護対象者 など

パンフレット上の区分では、母子家庭の母と父子家庭の父などをまとめて「母子家庭の母等」と表記しています。対象かどうかの細かな判定は、雇入れ前にハローワークで確認するのが確実です。

2026年5月1日からの60歳以上の要件変更

2026年5月1日以降、高年齢者(60歳以上)は「雇入れ時の年齢が60歳以上であること」に加えて、「紹介日において、ハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けていること」が要件になりました。60歳以上であれば誰でも対象、という扱いではなくなった点に注意が必要です。

応募者がハローワークの個別支援を受けているかどうかは、店舗側では分かりません。シニアの採用で助成金を見込む場合は、求人を出す段階でハローワークの担当者に対象になる紹介か確認しておきましょう。

特定就職困難者コースの支給額と支給期間

支給額は、対象者の区分、企業規模、短時間労働者かどうかで決まります。支給は6か月ごとの「支給対象期」に分けて行われます。

対象者区分働き方中小企業中小企業以外中小企業の支給内訳
高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等短時間労働者以外60万円50万円30万円×2期(1年)
高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等短時間労働者40万円30万円20万円×2期(1年)
身体・知的障害者(重度障害者等を除く)短時間労働者以外120万円50万円30万円×4期(2年)
重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者短時間労働者以外240万円100万円40万円×6期(3年)
障害者(重度障害者等を含む)短時間労働者80万円30万円20万円×4期(2年)

例えば中小企業のスーパーが、60歳以上の方を短時間労働者以外として雇い入れた場合、最初の6か月と次の6か月にそれぞれ30万円、合計60万円が目安です。パートとして短時間で雇う場合は20万円×2期で合計40万円になります。短時間労働者の定義(週の所定労働時間)や、中小企業の範囲は支給要領で確認してください。

支給対象期の途中で離職した場合などは、減額や不支給になることがあります。減額の条件はパンフレットで確認してください。満額を前提に資金計画を組まないことが大切です。

主な支給要件

  • ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
  • 雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れること
  • 継続して雇用することが確実と認められること(対象者を65歳以上に達するまで継続雇用し、かつ雇用期間が継続して2年以上であること)
  • 雇入れ日の前後6か月間に、事業主都合による解雇をしていないこと
  • 雇入れ日の前後6か月間に、倒産や解雇などで離職した被保険者の数が、雇入れ日の被保険者数の6%を超えていないこと

有期雇用契約の場合、更新の条件として就業規則の解雇事由を超える条件を付けているときなどは不支給になります。シニアを1年契約で雇う予定の店舗は、契約の定め方を事前にハローワークへ相談してください。

申請のタイミング

支給申請は、支給対象期ごとに、各支給対象期の末日の翌日から2か月以内に行います。6か月ごとに申請期限が来るため、1回目を出し忘れるとその期の分は受け取れません。

2026年4月以降の申請分からは、添付書類として賃金台帳の提出が確認できない場合に不支給となる扱いです。出勤簿や賃金台帳を6か月ごとに整えておく運用が欠かせません。

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の仕組み

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、職業経験の不足などで就職が難しい求職者を、ハローワーク等の紹介で原則3か月試行雇用する事業主に支給されます。支給額は対象者1人につき月額最大4万円で、母子家庭の母等または父子家庭の父の場合は月額最大5万円です。

項目内容
支給額(月額)最大4万円(母子家庭の母等・父子家庭の父は最大5万円)
期間原則3か月(最長3か月分)
3か月の合計の目安最大12万円(母子家庭の母等・父子家庭の父は最大15万円)
労働時間通常の労働者と同程度の週30時間以上(一部の対象者は20時間以上)
実施計画書雇入れから2週間以内に提出
支給申請トライアル雇用終了後2か月以内

対象者の主な区分

パンフレットでは、紹介日時点で次のいずれかに該当し、本人がトライアル雇用を希望する方が対象とされています。

  • 過去2年以内に2回以上離職や転職を繰り返している
  • 離職している期間が1年を超えている
  • 妊娠・出産・育児を理由に離職し、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
  • 60歳未満で、ハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けている
  • 就職の援助に特別な配慮を要する(生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父など)

「個別支援を受けている」の区分は60歳未満が条件です。60歳以上の方は、離職期間が1年を超えているなど他の区分に当てはまるかどうかで判断することになります。

2つの助成金の違いと併用の考え方

特定求職者雇用開発助成金は「最初から継続雇用する」場合、トライアル雇用助成金は「まず3か月試して見極める」場合の制度です。どちらもハローワーク等の紹介が前提です。

厚生労働省のパンフレットでは、トライアル雇用で雇い入れた方をトライアル終了後も継続雇用する場合、特定求職者雇用開発助成金の「一部を受給できる場合があります」とされています。満額がそのまま上乗せされるとは限らないため、併用を考えるときはトライアル開始前にハローワークへ受給額の見込みを確認してください。

よくある失敗と注意点

  • 紹介を受ける前に面接や内定を出していた:ハローワーク等の紹介以前に選考を始めた方は対象外です
  • 知人の紹介や店頭の求人で応募してきた:ハローワーク等の紹介ではないため対象外です
  • 雇入れ日の前後6か月に事業主都合の解雇があった:特定求職者雇用開発助成金の不支給要件に当たります
  • 申請期限を過ぎた:支給対象期の末日の翌日から2か月以内、トライアルは終了後2か月以内が目安です
  • 賃金台帳や出勤簿が不十分:2026年4月以降の申請では賃金台帳の提出が確認できないと不支給です

小売・外食での活用例

以下は制度の使い方をイメージするための想定例です。実際の受給可否は個別の要件で決まります。

想定例1:食品スーパーの品出し・青果担当 早朝の品出し担当として、ハローワークで個別支援を受けている62歳の方の紹介を受け、短時間労働者以外で雇用保険に加入して雇い入れるケースです。中小企業なら30万円×2期で合計60万円が目安で、65歳以上まで、かつ2年以上継続雇用する見込みが必要です。

想定例2:ファミリーレストランのランチ帯スタッフ 子育て中の母子家庭の母を、ハローワークの紹介でまずトライアル雇用として週30時間以上で3か月雇うケースです。月額最大5万円、3か月で最大15万円が目安で、継続雇用に移る場合は特定求職者雇用開発助成金の一部を受給できる可能性があります。

シニアの採用では、働く本人が年金と給与のバランスを気にすることも少なくありません。関連記事「在職老齢年金の見直し」もあわせてご覧ください。

申請前のチェックリスト

  • □ 求人をハローワーク等に出し、紹介を受けてから選考を始める流れにしている
  • □ 60歳以上の方は、紹介日に個別支援を受けているかハローワークに確認した
  • □ 雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として加入させる
  • □ 65歳以上まで、かつ2年以上継続雇用する前提で労働条件を決めた
  • □ 雇入れ日の前後6か月に事業主都合の解雇をしていない、予定もない
  • □ 6か月ごとの支給申請期限(末日の翌日から2か月以内)をカレンダーに登録した
  • □ 賃金台帳、出勤簿、雇用契約書を支給対象期ごとに保管している
  • □ トライアル雇用の場合、雇入れから2週間以内に実施計画書を提出する

よくある質問

Q. 60歳以上の方なら、ハローワークの紹介で雇えば必ず対象になりますか。

A. なりません。2026年5月1日以降は、紹介日にハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けている60歳以上の方が対象です。紹介を受ける際に、助成金の対象になるかを担当者へ確認してください。

Q. パート・アルバイトでも対象になりますか。

A. 特定就職困難者コースには短時間労働者の区分があり、高年齢者や母子家庭の母等の場合、中小企業は合計40万円(20万円×2期)です。雇用保険に加入すること、継続雇用が確実であることなどの要件は同じです。

Q. トライアル雇用と特定求職者雇用開発助成金は両方もらえますか。

A. トライアル雇用終了後も継続雇用する場合、特定求職者雇用開発助成金の一部を受給できる場合があるとされています。受給額は個別に変わるため、トライアル開始前にハローワークへ確認してください。

Q. 求人サイト経由で採用した場合は対象になりますか。

A. 紹介元が、労働局に届け出て雇用関係助成金の取扱事業者となっている民間の職業紹介事業者等であれば対象になり得ます。単なる求人広告への応募は紹介に当たらないため、厚生労働省の「雇用関係助成金を取り扱う職業紹介事業者等」の情報を確認してください。

まとめ

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、60歳以上の高年齢者や母子家庭の母等を継続雇用する場合、中小企業で最大60万円(短時間労働者は40万円)を6か月ごと2期に分けて受給できる制度です。2026年5月1日からは、60歳以上の方は個別支援を受けていることが要件に加わりました。

トライアル雇用助成金は月額最大4万円(母子家庭の母等は5万円)、最長3か月で、まず試してから本採用を判断したい店舗に向いています。どちらも「紹介を受けてから選考」「解雇をしない」「期限内に申請」が基本です。

要件は年度途中でも変わることがあります。採用前に最新のパンフレットと支給要領を確認し、管轄のハローワークや労働局に相談してから進めてください。

出典