決算前の節税は、「いつ支払い・取得したか」で、今期の経費(損金)にできるかどうかが変わります。経営セーフティ共済の前納、40万円未満の設備の取得、決算賞与の通知などは、決算日を過ぎると今期分としては使えません。

この記事は、飲食店や小売店を営む個人事業主の方、店舗を運営する中小法人の経営者・経理担当の方に向けたものです。12月決算の個人事業主と、3月決算などの法人では、残り時間と使える手が少しずつ違います。

以下では、決算前に検討できる主な打ち手を表で整理し、共済、少額減価償却資産の特例、中小企業経営強化税制、決算賞与、在庫・修繕・消耗品の扱いを順に説明します。最後に、節税のために資金繰りを悪くしないための注意点とチェックリストをまとめます。

個人(12月決算)と法人(3月決算など)の違い

個人事業主の所得税は、1月1日から12月31日までの1年分で計算します。そのため、個人の店舗にとっての「決算前」は毎年12月で、打ち手は12月31日までに済ませる必要があります。

法人は、定款で定めた事業年度ごとに法人税を計算します。3月決算の会社であれば、2027年3月31日までが今期です。決算月は会社ごとに違うため、自社の事業年度の末日を先に確認してください。

もう一つの違いは、使える制度です。小規模企業共済は個人事業主や役員本人の所得控除で、法人の損金にはなりません。決算賞与や賃上げ促進税制は、主に従業員を雇っている事業者向けの話になります。

項目個人事業主法人
今期の区切り12月31日(暦年)定款で定めた事業年度の末日(例:3月31日)
経費の呼び方必要経費損金
経営セーフティ共済掛金は必要経費掛金は損金
小規模企業共済本人の所得控除役員個人の所得控除(法人の損金ではない)
少額減価償却資産の特例青色申告の個人も対象(年300万円まで)中小企業者等が対象(年300万円まで)

決算前に検討できる打ち手の一覧

まず全体像を表にまとめます。どれも「今期中に支払う・取得する・使い始める・通知する」といった期限があり、決算日の直前では間に合わないものもあります。

打ち手主な内容決算前に気をつけること
経営セーフティ共済掛金は月5,000円〜20万円、総額800万円まで。掛金は必要経費・損金に算入前納期間1年以内なら支払った年(事業年度)の経費。解約後2年以内の再加入は掛金が経費にならない
小規模企業共済掛金は月1,000円〜7万円。全額が所得控除1年以内の前納掛金も控除できる。法人の損金ではない
少額減価償却資産の特例40万円未満の資産を年300万円まで全額損金算入(2026年4月1日以後の取得分)今期中に取得し、事業に使い始めることが必要
中小企業経営強化税制即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の税額控除経営力向上計画の認定などの手続きを設備取得の前に進める
賃上げ促進税制(中小企業)給与等の支給額の増加額の一部を税額控除比較の対象は事業年度全体の給与総額。決算直前の対応は限られる
決算賞与未払いでも要件を満たせば今期の損金期末までに全員へ個別通知し、期末の翌日から1か月以内に支払う
在庫の確認実地棚卸で期末在庫を正しく計上し、廃棄した商品は廃棄損に棚卸しの記録と、廃棄の事実がわかる記録を残す
修繕費と消耗品修繕費になるものは今期の経費。消耗品は使った分が経費資本的支出との区分、使っていない消耗品(貯蔵品)の扱い

共済を使う:経営セーフティ共済と小規模企業共済

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)

経営セーフティ共済は、取引先の倒産に備える共済です。掛金は月額5,000円から20万円の範囲で5,000円単位で設定でき、800万円まで積み立てられます。掛金は、個人は必要経費、法人は損金に算入できます。

決算前によく使われるのが前納です。中小機構によると、前納の期間が1年以内のものは、支払った日の属する年分(または事業年度)の必要経費・損金に算入できます。たとえば月額10万円で12か月分を前納すると、10万円×12か月=120万円を支払った期の経費にできます。1年を超える前納は、期間の経過に応じて各期に分けて経費にする扱いです。

注意点は二つあります。一つは解約時で、受け取る解約手当金は、個人は事業所得の収入金額、法人は益金になります。もう一つは再加入で、2024年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに支払う掛金は必要経費・損金に算入できません。また、掛金の納付月数が12か月未満で解約すると解約手当金は受け取れないため、短期の利用は向きません。

小規模企業共済

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の役員などのための退職金制度です。掛金は月額1,000円から7万円の範囲(500円単位)で設定でき、全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から差し引けます。1年以内の前納掛金も同じように控除できます。

上限の月7万円で計算すると、年間の掛金は7万円×12か月=84万円です。ただし控除されるのは加入者本人の所得で、法人の損金にはなりません。加入には従業員数などの要件があるため、中小機構のサイトで確認してください。

設備投資のタイミング:少額減価償却資産と経営強化税制

少額減価償却資産の特例(40万円未満)

中小企業者等や青色申告の個人事業主は、取得価額が一定額未満の減価償却資産を、年300万円を上限に取得した期に全額経費にできます。令和8年度税制改正で、この基準額が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、2026年4月1日以後に取得したものから適用されます。適用期限は2029年3月31日までです。

法人の対象からは、常時使用する従業員数が400人を超える法人が除かれました。また、中小企業経営強化税制のE類型の投資計画期間中は、この特例を使えません。

たとえば、35万円の業務用冷蔵庫と38万円の製氷機を今期中に取得して使い始めた場合、合計73万円を今期の経費にでき、年300万円の上限内に収まります。2026年1月〜3月に取得した資産は改正前の基準(30万円未満)で判定するため、12月決算の個人事業主は取得時期に注意してください。

取得価額主な扱い対象
10万円未満全額を経費にできる全事業者
20万円未満3年間で均等に償却できる(一括償却資産)全事業者
40万円未満年300万円まで全額を経費にできる中小企業者等・青色申告の個人

大切なのは「今期中に取得し、事業に使い始めること」です。代金を払っただけで納品や設置が翌期になると、今期の経費にはなりません。年末や年度末は納期が延びやすいので、早めに発注しましょう。

中小企業経営強化税制

認定を受けた経営力向上計画に基づいて対象設備を取得した場合、即時償却または取得価額の10%(資本金の額等が3,000万円超の法人は7%)の税額控除を選べます。対象業種には小売業や飲食店業が含まれます(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブなどは生活衛生同業組合の組合員が行うものに限られます)。

国税庁によると、1台あたりの取得価額要件は、機械装置が160万円以上、器具備品が40万円以上(2026年3月31日以前の取得分は30万円以上)、ソフトウエアが70万円以上などです。設備は新品に限られ、税額控除は調整前法人税額の20%が上限です。制度の指定期間は2027年3月31日までです。

この制度は決算直前に思いついても間に合わないことが多い点に注意してください。中小企業庁は、工業会等の証明書や経済産業大臣の確認書を設備の取得前に申請する必要があるとしています。計画の申請から認定までの日数も考え、数か月前から準備することをおすすめします。

人件費・在庫・修繕・消耗品の見直し

賃上げ促進税制(中小企業)

中小企業向けの賃上げ促進税制は、雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増えた場合に増加額の15%、2.5%以上増えた場合に30%を税額控除できる制度です。令和8年度改正では、全法人向けの措置が2026年3月31日で廃止され、中小企業向けは教育訓練費の上乗せ措置が廃止された点を除いて現行制度が維持されました。

給与総額は事業年度全体で比べるため、決算前にできることは多くありません。今期の昇給や賞与の結果、要件を満たしそうかを試算し、適用できる場合に申告で漏れなく使うことが中心になります。

決算賞与(未払賞与)

法人が従業員に決算賞与を支給する場合、期末に未払いでも、次の三つをすべて満たせば今期の損金にできます。

  1. 支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に通知していること
  2. 通知した金額を、通知した事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
  3. その支給額を、通知した事業年度で損金経理していること

3月31日決算であれば、3月31日までに全員へ通知し、4月30日までに支払うのが目安です。支給日に在職する人だけに払う決まりにしている場合は、ここでいう通知に当たらないとされているため、就業規則の書き方も確認してください。役員への賞与は別のルールがあり、この扱いの対象ではありません。

在庫(棚卸し・廃棄損)

期末在庫は売上原価の計算に直結します。実地棚卸で数量を正しく数え、賞味期限切れや破損で実際に廃棄した商品は廃棄損として処理します。廃棄したことがわかる写真や業者の証明などを残しておくと安心です。

修繕費と資本的支出

店舗の修理費は、原状回復なら修繕費として今期の経費になりますが、価値を高める改良は資本的支出として資産に計上します。国税庁によると、一つの修理などが20万円未満の場合や、おおむね3年以内の周期で行う修理であることが明らかな場合は、修繕費として扱えます。区分が明らかでないときは、60万円未満、または前期末の取得価額のおおむね10%以下なら修繕費にできます。

消耗品の購入

事務用品や包装材料などの消耗品は、原則として使った分が経費で、期末に残った分は貯蔵品として資産に計上します。ただし法人税の通達では、毎期おおむね一定数量を取得し、経常的に消費するものは、取得した期の損金にできるとされています。決算前に普段よりまとめ買いしただけの分は、この扱いが認められない可能性があります。

節税より大切な注意点

節税のための支出は、税金が減る額より手元の現金が減る額のほうが大きいのが普通です。必要のない設備や消耗品を買うと、資金繰りが苦しくなります。決算前は、来期の運転資金と納税資金を残したうえで検討してください。

共済の掛金は経費になりますが、解約時に収入(益金)として課税されるため、多くは課税の時期をずらす効果です。退職や設備更新など、受け取る時期の見通しとあわせて考えましょう。

制度ごとに細かな要件があり、個別の判断は税理士や税務署への確認をおすすめします。特に経営強化税制や賃上げ促進税制は、申告書への添付書類も必要です。

決算前チェックリスト

  • □ 自社(自分)の決算日と、そこまでの残り日数を確認した
  • □ 今期の利益と納税額の見込みを試算した
  • □ 来期の運転資金と納税資金を確保できるか確認した
  • □ 経営セーフティ共済の加入・前納(1年以内)を検討した
  • □ 解約後2年以内の再加入に当たらないか確認した
  • □ 小規模企業共済の掛金の増額・前納を検討した(個人・役員)
  • □ 40万円未満の設備は、今期中に納品・使用開始できるか確認した
  • □ 経営強化税制を使う場合、取得前に必要な手続きを始めた
  • □ 決算賞与を出す場合、全員への個別通知と1か月以内の支払いを予定した
  • □ 実地棚卸の日程と、廃棄商品の記録方法を決めた
  • □ 修理の見積もりが修繕費か資本的支出かを確認した
  • □ 税理士に打ち手と金額を相談した

よくある質問

Q. 12月決算の個人事業主ですが、12月中に何をすればよいですか。

A. 12月31日までに支払い・取得・使用開始を終える必要があります。経営セーフティ共済や小規模企業共済の前納、40万円未満の設備の取得と使用開始などが候補です。2026年1月〜3月に取得した資産は30万円未満が基準になる点に注意してください。

Q. 経営セーフティ共済は前納すれば何年分でも今期の経費になりますか。

A. なりません。前納の期間が1年以内のものは支払った期の経費にできますが、1年を超えるものは期間の経過に応じて各期に分けて経費にします。

Q. 決算日に40万円未満の機器の代金を支払えば、今期の経費になりますか。

A. 代金の支払いだけでは足りません。今期中に取得し、事業に使い始めることが必要です。納品や設置が翌期になると、翌期の経費になります。

Q. 決算賞与は期末までに支払わないといけませんか。

A. 法人の場合、期末までに全員へ個別に通知し、期末の翌日から1か月以内に支払い、今期に損金経理していれば、未払いでも今期の損金にできます。

まとめ

  • 個人は12月31日、法人は事業年度の末日までに、支払い・取得・使用開始・通知を済ませる
  • 経営セーフティ共済は1年以内の前納なら支払った期の経費。解約後2年以内の再加入に注意
  • 少額減価償却資産の特例は2026年4月1日以後の取得分から40万円未満、年300万円まで
  • 中小企業経営強化税制は取得前の手続きが必要で、決算直前では間に合わないことが多い
  • 決算賞与は個別通知と1か月以内の支払いが要件
  • 資金繰りを優先し、個別の判断は税理士に相談する

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