インフルエンザにかかった従業員を休ませるとき、「本人が休むのか」「会社の判断で休ませるのか」で、給与や休業手当の扱いが変わります。季節性インフルエンザには、法律で一律に出勤を禁じるルールはないため、店舗ごとに判断基準を決めておくことが大切です。

この記事は、パート・アルバイトを多く抱える小売店や飲食店の経営者、店長、シフト管理の担当者に向けて書いています。冬の流行期の前に、欠勤時のルールを就業規則やシフト運用に落とし込みたい方を想定しています。

以下では、出勤停止の法的な位置づけ、休業手当と有給休暇の扱い、飲食店の調理従事者の健康管理、傷病手当金、シフトの穴埋め、職場での予防策を順に整理します。最後にチェックリストとよくある質問をまとめました。

季節性インフルエンザに「法律上の出勤停止」はあるのか

感染症法の就業制限は対象外

感染症法には、都道府県知事が感染者の就業を制限する「就業制限」の仕組みがあります。ただし対象は一類〜三類感染症や新型インフルエンザ等感染症の患者などで、季節性インフルエンザ(五類感染症)は含まれていません。

つまり、季節性インフルエンザにかかった従業員について、法律が会社に出勤停止を義務づけているわけではありません。休ませるかどうか、何日休ませるかは、本人の申し出や医師の指示、会社のルールで決まることになります。

職場の目安として参考にされる「学校の出席停止基準」

厚生労働省のQ&Aでは、学校保健安全法施行規則で、インフルエンザの出席停止期間を「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」と定めていると紹介しています。これは学校向けの基準ですが、職場で復帰時期を決める目安として参考にされることが多い基準です。

同じQ&Aでは、発症後1〜3日間は感染性のウイルスの排出量が多いため外出を控える必要がある、とも説明しています。咳やくしゃみが続く場合は、不織布マスクの着用など周囲への配慮も求められています。

診断書・治癒証明書は求めない

厚生労働省は、急性呼吸器感染症で休む従業員に、職場がり患証明書や陽性証明書を求めることは望ましくなく、提出は不要としています。復帰時の治癒証明書や陰性証明書についても同様です。医療機関の負担を増やさないためにも、自己申告と日数ルールで運用するのが現実的です。

休ませ方で変わる給与の扱い

判断の分かれ目は、休業が「使用者の責に帰すべき事由」によるものかどうかです。労働基準法26条では、会社都合で休業させた場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。

ケース給与・手当の扱い根拠・参考
本人が体調不良・感染で自主的に休む通常の病欠として扱う。有給休暇の申請や、病気休暇制度があればその活用厚生労働省Q&A(企業の方向け)
発熱などの症状だけを理由に、会社の判断で一律に休ませる一般に会社都合の休業に当たり、休業手当(平均賃金の60%以上)が必要労働基準法26条、厚生労働省Q&A
医師の指示の範囲を超えて会社が休ませる(解熱後も長く休ませる等)超えた部分は一般に休業手当が必要新型インフルエンザに関する事業者・職場のQ&A(2009年)
症状のない家族の感染などを理由に会社が休ませる一般に会社都合の休業として休業手当の対象同上

上の整理は、新型コロナや2009年の新型インフルエンザ流行時に厚生労働省が示した考え方をもとにしています。季節性インフルエンザでも考え方は同じと解されることが多いですが、個別の判断に迷う場合は労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

休業手当の計算の基本

平均賃金は、原則として事由の発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割って計算します。時給制や日給制で労働日数が少ない場合は、賃金総額を労働日数で割った額の6割と比べ、高い方を使います。パート・アルバイトは後者の最低保障が適用されることが多いため、計算時に必ず確認しましょう。

有給休暇を会社が一方的に充当することはできない

「インフルエンザで休んだ日は有給休暇で処理する」と会社が一方的に決めることはできません。厚生労働省は、年次有給休暇は原則として労働者の請求する時季に与えなければならないので、使用者が一方的に取得させることはできないと説明しています。

本人が「欠勤ではなく有給にしたい」と申し出た場合は、有給休暇として扱えます。店長が「有給を使いますか」と選択肢を案内するのは問題ありませんが、本人の同意なく有給を消化させる運用は避けてください。

「年5日の時季指定」との違い

年10日以上の有給休暇が付与される従業員には、会社が年5日を時季指定して取得させる義務があります。ただしこの場合も、会社は本人の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努める必要があります。病欠の日に後から有給を当てはめる運用とは別物ですので、混同しないよう注意しましょう。パート・アルバイトの付与日数については、関連記事「パート・アルバイトの有給休暇」もあわせてご覧ください。

病気休暇・特別休暇の設計

病気休暇は法律上の義務ではなく、会社が任意に設ける制度です。流行期の無理な出勤を防ぐため、次のような設計を検討する店舗もあります。

  • 感染症で休む場合に使える有給の特別休暇(例:年数日分)を就業規則に定める
  • 有給休暇の残日数が少ない入社間もない従業員も対象に含める
  • 会社判断で休ませた日は休業手当、本人申告の病欠は特別休暇か欠勤、と区分を明記する

日数や有給・無給の別は会社が決められます。制度を作ったら、就業規則への記載と従業員への周知を忘れずに行いましょう。

飲食店の調理従事者への配慮

飲食店では、HACCPに沿った衛生管理の一環として従業員の健康管理が求められています。厚生労働省が公開している小規模な一般飲食店向けの手引書(概要版、令和6年1月改訂)では、従業員の体調、手の傷の有無、着衣等を確認し、消化器症状がある場合は調理作業に従事させないとしています。

インフルエンザは消化器症状が中心の病気ではありませんが、発熱や咳がある従業員を調理や接客に就かせることは、衛生面でも顧客の印象でも避けるべきです。出勤前の体調チェック表に「発熱」「咳・のどの痛み」「下痢・嘔吐」の項目を入れておくと、判断がぶれにくくなります。冬は胃腸炎も増えるため、関連記事「冬の食中毒(ノロウイルス)対策」もあわせて確認してください。

傷病手当金とシフトの穴埋め

傷病手当金(健康保険)

健康保険に加入している従業員が業務外の病気で働けず、給与が支払われない場合は、傷病手当金を受けられる可能性があります。協会けんぽの説明では、仕事を休み始めた日から連続した3日間(待期期間)を除き、4日目から支給対象になります。

項目内容(協会けんぽの説明)
支給条件業務外の病気やケガで療養中、労務不能、4日以上仕事を休んでいる、給与の支払いがない
待期期間連続した3日間。有給休暇や土日・祝日等の公休日も含まれる
1日あたりの金額支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均÷30日×2/3
給与が一部支払われた場合給与支給分を減額して支給
支給期間同一の傷病について、支給を開始した日から通算1年6か月

インフルエンザで休む場合、対象になるのは待期3日間を除いた4日目以降の無給日に限られます。健康保険に加入していない短時間のアルバイトは対象外です。申請書には事業主の証明欄があるため、本人から求められたら速やかに対応しましょう。

シフトの穴埋めと応援体制

流行期は複数人が同時に休むことを前提に、シフトを組んでおくと慌てずに済みます。

  • 各時間帯で「最低限必要な人数」と「その人数で回す縮小営業の内容」を事前に決める
  • レジ・仕込み・開店締め作業など、特定の人しかできない作業を減らし、2人以上が担当できるようにする
  • 近隣店舗との応援ルール(連絡先、交通費、時給の扱い)を決めておく
  • 代わりに出勤した従業員の労働時間が増えすぎないよう、残業や連続勤務を確認する
  • 欠員時の連絡手段(店長の携帯、チャットグループなど)と連絡期限を周知する

職場でできる予防策

厚生労働省のQ&Aでは、インフルエンザの流行は例年1月下旬から3月上旬にピークを迎えることが多いとして、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましいとしています。予防接種の費用を会社が補助したり、勤務時間中の接種を認めたりすると、接種率を上げやすくなります。

そのほか、手洗い・手指消毒の徹底、休憩室の換気、体調が悪いときに休みやすい雰囲気づくりも重要です。「休むと迷惑をかける」と感じて無理に出勤する従業員を減らすことが、結果的に集団感染による長期の人手不足を防ぎます。

流行期前のチェックリスト

  • □ 感染症で休む場合の連絡方法と連絡期限を全員に周知した
  • □ 復帰の目安(例:発症後5日かつ解熱後2日)を社内ルールとして決めた
  • □ 診断書・治癒証明書を求めない運用を店長間で共有した
  • □ 会社判断で休ませる場合は休業手当を支払うことを確認した
  • □ 有給休暇は本人の申し出がある場合のみ充当すると決めた
  • □ 病気休暇・特別休暇の有無と内容を就業規則で確認した
  • □ 飲食店では出勤前の体調チェック表を用意した
  • □ 欠員時の縮小営業と応援体制を決めた
  • □ 予防接種の費用補助や接種時間の扱いを検討した

よくある質問

Q. インフルエンザと診断された従業員を、法律で何日休ませる必要がありますか。

A. 季節性インフルエンザについて、会社に出勤停止を義務づける法律上の日数はありません。学校の出席停止基準(発症後5日かつ解熱後2日)を目安に、社内ルールとして定めておくのが一般的です。

Q. 本人は「もう元気なので出勤したい」と言っています。休ませてもよいですか。

A. 休ませることはできますが、本人が働ける状態なのに会社の判断で休ませる場合は、一般に休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要になると考えられます。社内ルールで復帰の目安を事前に示しておくと、トラブルを防げます。

Q. 欠勤した日を有給休暇に振り替えるよう指示してもよいですか。

A. 会社が一方的に有給休暇を充当することはできません。本人が有給休暇の利用を希望した場合に限り、有給として扱ってください。

Q. 復帰時に「陰性証明書」を出してもらうべきですか。

A. 厚生労働省は、職場が治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくなく、提出は不要としています。日数の目安と本人の体調申告で判断しましょう。

まとめ

季節性インフルエンザには法律上の出勤停止がないため、休ませ方のルールは会社が決める必要があります。本人が休む場合は病欠、会社の判断で休ませる場合は休業手当、という区分を押さえておきましょう。

有給休暇は本人の申し出があるときだけ充当し、病気休暇や特別休暇があれば活用します。流行期の前に、復帰の目安、連絡方法、シフトの応援体制、予防接種の支援をそろえておくことが、店舗運営を止めないための備えになります。

出典