2026年1月1日、下請法が改正され「取適法(中小受託取引適正化法)」に生まれ変わりました。資本金だけでなく従業員数でも適用が判断されるようになり、顧客への配送委託も新たに対象に加わりました。値上げ協議に応じない一方的な価格決定や、手形での支払いも禁止されています。

スーパー、コンビニ、ドラッグストアのPB(プライベートブランド)商品の製造委託や、外食チェーンの食材・加工品の製造委託は、取適法の典型的な対象です。2026年9月には、外食大手が取適法の減額禁止違反で公正取引委員会から勧告を受けました。この記事では、改正のポイントと、小売・外食で違反になりやすい取引を整理します。

取適法の基本:何が変わったのか

項目内容
正式名称製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
略称中小受託取引適正化法(取適法)
成立・公布2025年5月16日成立、5月23日公布
施行日2026年1月1日
用語の変更親事業者→委託事業者、下請事業者→中小受託事業者、下請代金→製造委託等代金

主な改正点は次の5つです。

  1. 従業員数による適用基準の追加
  2. 特定運送委託(発荷主から運送事業者への委託)の追加
  3. 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
  4. 手形払いなどの禁止
  5. 事業所管省庁による面的執行の強化

改正1:従業員300人超の企業も対象に

これまでは資本金の大きさだけで適用を判断していました。取適法では、常時使用する従業員数の基準が加わりました。

取引の種類委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
製造委託、修理委託、特定運送委託など資本金3億円超、または従業員300人超資本金3億円以下、または従業員300人以下
上記以外の役務提供委託・情報成果物作成委託資本金5千万円超、または従業員100人超資本金5千万円以下、または従業員100人以下

資本金を小さく抑えている小売・外食チェーンでも、従業員が300人を超えていれば委託事業者になり得ます。減資によって規制を外れる、という手法は使いにくくなりました。

従業員数は、賃金台帳を作成する労働者で数えます。日々雇い入れる人は除きますが、1か月を超えて続けて雇っている人は含みます。パート・アルバイトが多い業態は、思った以上に人数が多くなる可能性があるため、一度数え直しておきましょう。

改正2:顧客への配送委託も対象に(特定運送委託)

自社が販売した商品を、お客様や取引先に届ける運送を運送事業者に委託する取引が、新たに対象になりました。

  • 対象になる例:家具・家電の顧客宅への配送委託、ネットスーパー・ECの配送委託
  • 対象外の例:自社の工場から自社の物流センターへの移送、仕入先から商品を受け取るための運送

自社センターから自社店舗への店舗配送は、「取引の相手方」への運送ではないため、原則として対象外と考えられます。配送業者との契約でも、書面の交付、60日以内の支払い、一方的な運賃の据え置きの禁止などを守る必要があります。

改正3・4:価格協議の義務と手形払いの禁止

値上げ協議に応じない一方的な価格決定の禁止

取引先から値上げの協議を求められたのに、次のような対応をすると違反になり得ます。

  • 協議を拒否する、無視する、回答を引き延ばす
  • 合理的な理由を示して値上げを求められたのに、理由や根拠を説明せずに従来価格を提示する
  • 必要以上に詳しいコスト資料の提出を、協議に応じる条件にする

対象は原材料費や労務費、エネルギー費の上昇に限りません。納期の短縮や発注数量の減少など、取引条件が変わった場合も含まれます。PBの年間契約価格の見直しや、定番商品の価格改定の申し入れには、記録を残しながら誠実に対応することが求められます。

手形払いと、満額を現金化しにくい支払いの禁止

手形で支払うことは、支払遅延として扱われるようになりました。電子記録債権やファクタリングも、支払期日までに満額を現金化できないものは使えません。満期日が支払期日以前で、手数料を委託事業者が負担する場合に限って認められます。

小売・外食で違反になりやすい取引

取適法の義務と禁止行為は、以前の下請法から引き継がれています。

委託事業者の4つの義務

  • 発注内容の明示:メールやEDIでの明示は、相手の承諾がなくても可能に
  • 支払期日の設定:受領日から60日以内
  • 書類の作成・保存:2年間
  • 遅延利息の支払い:年14.6%(改正で、不当な減額をした場合にも適用)

11の禁止行為

受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、報復措置、有償支給原材料の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定(新設)の11項目です。

業態別の注意ポイント

取引問題になりやすい行為該当する禁止行為
PB商品の製造委託(スーパー・コンビニ・ドラッグストア)協賛金、リベート、特売費、センターフィーの代金からの差し引き減額
PB商品の製造委託売れ残りや定番カットによる返品返品
新店・改装メーカー従業員の棚替え・棚卸し応援、新店協賛金不当な経済上の利益の提供要請
季節商品おせち、クリスマスケーキなどの購入の要請購入・利用の強制
外食の食材・加工品の製造委託システム利用料、物流費などの名目での差し引き減額
発注後の仕様変更製造後の受け取り拒否、無償での保管要請受領拒否、不当な経済上の利益の提供要請

NB商品を単に仕入れる取引は製造委託には当たりません。ただし、独占禁止法の大規模小売業告示や優越的地位の濫用の規制は受けます。

外食チェーンでは、店で出す料理のソース、麺、冷凍食品、惣菜などの製造を外部に委託すると、製造委託に当たります。本部が加盟店や子会社に販売する食品の製造委託も含まれます。一方、自社店舗の清掃など「自ら使う役務」の委託は、原則として対象外です。

公正取引委員会の勧告事例

小売・外食では、協賛金やリベートなどの名目での「減額」による勧告が相次いでいます。

勧告日事業者内容
2026年9月9日トリドールホールディングス食品の製造委託で「システム利用料」として代金の1.1%を差し引き。37名に計1億4,741万円余り。取適法の減額禁止が適用された外食の事例
2025年9月8日ヨドバシカメラリベート名目で6名に計1,349万円余りを減額
2025年3月27日シャトレーゼ菓子の製造委託で受領拒否と無償保管の要請
2025年2月28日ビックカメラ「拡売費」など10の名目で51名に計5億5,747万円を減額
2024年9月4日パルシステム生活協同組合連合会PB食料品の製造委託で「特売条件」「DC利用料」の名目で計2,770万円余りを減額
2024年5月22日生活協同組合コープさっぽろ「月間リベート」「システム利用料」などの名目で27名に計2,537万円余りを減額
2024年3月12日コストコホールセールジャパン「クーポンサポート」などの名目での減額と返品

公正取引委員会の2025年度の実績は、勧告39件、指導8,261件でした(2026年6月公表)。事業者が返還した原状回復の総額は25億5,698万円にのぼります。

取適法では、勧告の時点で違反がすでに改められていても、再発防止策などを勧告できるようになりました。事業所管省庁にも指導・助言の権限が与えられ、トラック・物流Gメンなどを通じた監視も強まっています。書面交付や書類保存の義務に違反すると、50万円以下の罰金の対象です。

今すぐ見直したいチェックリスト

  • □ 自社の従業員数(パート・アルバイトを含む)で、委託事業者に当たるか確認した
  • □ PB・食材の製造委託先、配送委託先の一覧と、それぞれの資本金・従業員数を把握した
  • □ 協賛金、リベート、センターフィー、システム利用料などを代金から差し引いていないか確認した
  • □ 差し引く場合は、発注前に書面で合意し、合理的な算定根拠があるか確認した
  • □ 取引先からの値上げ協議の申し入れに、回答期限を決めて対応する社内ルールを作った
  • □ 手形や、満期が支払期日を過ぎる電子記録債権での支払いをやめた
  • □ 支払期日が受領日から60日以内になっているか確認した
  • □ 発注書面(メール・EDI)の記載事項と、2年間の保存体制を整えた
  • □ バイヤー向けに取適法の研修を実施した

よくある質問

Q. NBメーカーからの仕入れも取適法の対象ですか?

A. 既製品を仕入れるだけなら製造委託に当たらず、取適法の対象外です。ただし独占禁止法の優越的地位の濫用や大規模小売業告示の対象になり得ます。

Q. 取引先が合意していれば協賛金をもらってもよいですか?

A. 取適法の対象取引では、中小受託事業者に責任がないのに代金を減らすことは、合意があっても減額に当たります。協賛金を代金から差し引く運用は特に注意が必要です。

Q. 資本金が1億円の外食チェーンは対象外ですか?

A. 資本金基準では対象外でも、従業員が300人を超えていれば、製造委託では委託事業者になり得ます。取引先の資本金・従業員数との組み合わせで判断します。

まとめ

取適法の施行で、小売・外食の本部が「発注する側」として負う責任は重くなりました。特にPBや食材の製造委託での協賛金・リベートの差し引き、値上げ協議への対応、手形払いの3点は、すぐに見直しが必要です。価格転嫁の要請に誠実に応じることは、仕入先との関係を強め、安定した商品供給にもつながります。

出典