中小企業経営強化税制を使うと、経営力向上計画の認定を受けて取得した一定の設備について、取得価額の全額を初年度に償却する「即時償却」か、取得価額の10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の「税額控除」を選べます。適用期限は2027年3月31日で、2026年4月1日以後に取得する工具・器具備品は1台40万円以上が対象になりました。
冷蔵ショーケース、スチームコンベクションオーブン、製氷機、POSシステムなどの入れ替えを検討している小売・外食の経営者、経理担当者にとって、設備投資の年の税負担を大きく抑えられる制度です。一方で、計画の認定や証明書の取得を設備の購入前に進める必要があり、順番を誤ると使えません。
この記事では、中小企業庁の手引き(令和8年4月1日版)や財務省・国税庁の資料をもとに、優遇の内容、対象類型、設備要件、手続きの流れ、店舗設備での活用例と注意点を解説します。
即時償却と税額控除の内容
青色申告をしている中小企業者等が、認定を受けた経営力向上計画に基づいて特定経営力向上設備等を取得し、指定事業の用に供した場合に、次のどちらかを選択できます。
| 区分 | 即時償却(特別償却) | 税額控除 |
|---|---|---|
| 資本金3,000万円以下の法人・個人事業主 | 取得価額の全額を初年度に償却可能 | 取得価額の10% |
| 資本金3,000万円超1億円以下の法人 | 同上 | 取得価額の7% |
| 上限・繰越 | - | 法人税額(所得税額)の20%が上限。超過分は翌事業年度に繰越可 |
即時償却は税金の「繰り延べ」で、翌年度以降の減価償却費がなくなる分、将来の税負担は増えます。税額控除は税額そのものが減るため、利益が安定して出ている会社では有利になる場合があります。
計算例
資本金1,000万円の法人が、300万円の冷蔵ショーケースを対象設備として取得したとします(説明用の仮の例です)。
- 即時償却を選ぶ場合:300万円をその事業年度の損金に算入できます。
- 税額控除を選ぶ場合:300万円×10%=30万円を法人税額から控除できます。ただし、その年度の法人税額が100万円なら上限は20万円(100万円×20%)で、残りの10万円は翌事業年度に繰り越します。
どちらが有利かは、今期と来期以降の利益見込みや資金繰りで変わります。顧問税理士と試算してから選びましょう。
即時償却と税額控除の選び方の目安
- 今期の利益が大きく、手元資金を厚くしたい場合:即時償却で今期の課税所得を圧縮する方法が考えられます。
- 毎期安定して利益が出ている場合:税額そのものが減る税額控除のほうが、トータルの税負担は小さくなりやすいです。
- 今期が赤字または法人税額が少ない場合:税額控除は上限(法人税額の20%)の影響を受けるため、効果が限られます。
- 複数店舗で設備を順次入れ替える場合:設備ごと・年度ごとに、どちらを選ぶかを分けて検討できます。
いずれを選ぶ場合も、確定申告では明細書の添付が必要になり、認定を受けた計画や証明書などの書類は保存しておく必要があります。必要書類の詳細は、申告前に税理士や税務署に確認してください。
対象となる類型と設備要件
4つの類型
現在の手引きでは、A・B・D・Eの4類型が設けられています。小売・外食の店舗設備で使われるのは、主にA類型とB類型です。
| 類型 | 主な要件 | 確認者 |
|---|---|---|
| A類型(生産性向上設備) | 一定期間内に販売されたモデルで、旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上する設備 | 工業会等(証明書) |
| B類型(収益力強化設備) | 投資計画の投資利益率が年平均7%以上 | 経済産業局(確認書) |
| D類型(経営資源集約化設備) | 修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定以上改善する投資計画 | 経済産業局 |
| E類型(経営規模拡大設備) | 売上高100億円超を目指すロードマップ等に基づく投資利益率7%以上の投資計画 | 経済産業局 |
A類型の「一定期間内」は、機械装置が販売開始から10年以内、器具備品が6年以内などと定められています。E類型は売上高10億円〜90億円の法人で1億円以上の投資を行う場合などが想定され、一般的な店舗の設備更新ではA類型かB類型を検討するのが現実的です。
設備ごとの最低取得価額
| 設備の種類 | 1台・1基当たりの取得価額 |
|---|---|
| 機械装置 | 160万円以上 |
| 工具(測定工具・検査工具) | 40万円以上(2026年3月31日以前の取得は30万円以上) |
| 器具備品 | 40万円以上(2026年3月31日以前の取得は30万円以上) |
| 建物附属設備 | 60万円以上 |
| ソフトウェア | 70万円以上 |
工具・器具備品の引上げは令和8年度税制改正によるもので、2026年4月1日以後に取得等をする資産から適用されています。30万円台の器具備品は対象外になった点に注意してください。同じ改正では少額減価償却資産の特例も見直されており、詳しくは関連記事「少額減価償却資産の特例が40万円未満に」で解説しています。
また、事務用の資産や本社機能、福利厚生施設の用に供する資産は対象外です。店舗の売場や厨房で使う設備かどうかが判断のポイントになります。
経営力向上計画の認定と手続きの流れ
この税制を使うには、中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」を作成し、事業を所管する大臣の認定を受ける必要があります。標準処理期間は30日とされているため、余裕をもって申請しましょう。
A類型の基本的な流れ
- 設備メーカー・販売店に、工業会等の証明書の発行を依頼する(設備取得前)
- 証明書を添付して経営力向上計画を申請する
- 計画の認定を受ける
- 設備を取得し、店舗で稼働させる(事業の用に供する)
- 確定申告で即時償却または税額控除を適用する
B類型の場合は、最初に経済産業局へ投資計画の確認を申請し、確認書を受けてから経営力向上計画を申請します。
設備取得後60日以内の特例
原則は「計画の認定を受けてから設備を取得」ですが、設備を取得した日から60日以内に経営力向上計画の申請が受理(到達)されれば、取得後の申請でも対象になります。ただし、D類型・E類型ではこの特例は使えません。
また、設備を取得し事業の用に供した事業年度内に計画の認定を受ける必要があります。決算月の直前に設備を入れると、認定が翌事業年度にずれ込み適用できないおそれがあるため注意してください。
導入前のチェックリスト
- □ 青色申告をしている
- □ 資本金1億円以下の法人、または従業員1,000人以下の個人事業主等である(大規模法人の子会社等でない)
- □ 業種が指定事業(小売業、飲食店業など)に当たる
- □ 設備が最低取得価額(器具備品・工具は40万円以上など)を満たす
- □ A類型なら工業会等の証明書、B類型なら経済産業局の確認書を準備した
- □ 設備取得前、または取得後60日以内に計画を申請できる日程である
- □ 取得・稼働した事業年度内に認定を受けられる
- □ 事務用・本社用の設備ではなく、売場・厨房で使う設備である
冷蔵ショーケース・厨房機器・POSでの活用例
店舗設備で検討されることが多い例を整理します。対象になるかどうかは、個別の機種の証明書の有無や資産区分で決まります。
| 設備の例 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 冷蔵・冷凍ショーケース | 省エネ性能などでA類型の証明書が出る機種か。器具備品か機械装置かで最低取得価額(40万円/160万円)が変わる |
| スチームコンベクションオーブン | メーカーが工業会証明書に対応しているか。1台当たりの取得価額が要件を満たすか |
| 製氷機 | 販売開始からの年数要件を満たす現行モデルか |
| POSシステム | ソフトウェアは1式70万円以上。A類型では情報収集機能と分析・指示機能を持つものが対象。端末は器具備品として別に判定 |
耐用年数表上、厨房機器が「器具備品」になるか「飲食店業用設備(機械装置)」になるかは、資産の内容によって異なります。区分によって最低取得価額が40万円か160万円かが変わるため、見積書の段階で税理士に確認しておくと安心です。
最低取得価額は「1台・1基当たり」で判定します。たとえば1台30万円のショーケースを5台まとめて買っても、合計150万円ではなく1台ごとに判定されるため、器具備品の要件(40万円以上)は満たしません。改装時に複数の設備を一括発注する場合は、見積書で1台ごとの価格を確認しましょう。
なお、飲食店業は指定事業に含まれますが、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ等は生活衛生同業組合の組合員が営むものに限られます。中古設備は原則として対象外とされているため、中古厨房機器を購入する場合は別の制度を検討してください。
よくある質問
Q. 設備を発注してから制度を知りました。まだ使えますか。
A. A類型・B類型であれば、設備取得日から60日以内に経営力向上計画の申請が到達すれば対象になり得ます。証明書・確認書の取得にも時間がかかるため、すぐにメーカーと経済産業局等に相談してください。
Q. 35万円のショーケースは対象になりますか。
A. 2026年4月1日以後の取得であれば、器具備品は1台40万円以上が要件のため対象外です。
Q. 白色申告の個人事業主でも使えますか。
A. 使えません。青色申告書を提出する中小企業者等が対象です。
Q. 2027年4月以降に取得する設備も対象ですか。
A. 現行の適用期限は2027年3月31日です。延長されるかは今後の税制改正で決まるため、2026年12月ごろに公表される税制改正大綱を確認してください。
まとめ
中小企業経営強化税制は、認定を受けた経営力向上計画に基づく設備投資について、即時償却か税額控除10%(資本金3,000万円超は7%)を選べる制度です。2026年4月1日以後に取得する工具・器具備品は1台40万円以上が要件になり、適用期限は2027年3月31日です。
店舗で使うには、工業会証明書や確認書の準備、設備取得前(または取得後60日以内)の計画申請、事業年度内の認定という順番を守ることが欠かせません。設備の見積もりを取る段階で、メーカーと税理士に対象可否を確認しておきましょう。