食料システム法は2025年6月11日に成立し、同年6月18日に公布されました。取引の適正化に関する部分は2026年4月1日に全面施行され、生産者から小売・外食までの事業者に「合理的な費用を考慮した価格形成」に向けた努力義務が課されています。
対象は、飲食料品等の生産・製造・加工・流通・販売を行う事業者です。スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアの食品売場、飲食チェーンの本部も、仕入先から値上げの協議を求められる「買い手」として、また自社の取引先に条件を示す立場として関係します。
この記事では、法律の正式名称と施行の流れ、努力義務と判断基準の中身、指定品目とコスト指標、国の指導・勧告・公表の仕組みを整理します。そのうえで、小売・外食の現場で整えておきたい値上げ要請への対応ルールや協議記録、特売・PB価格の決め方、取適法・独占禁止法との関係を解説します。
食料システム法の概要と施行スケジュール
正式名称と改正の位置づけ
正式名称は「食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律」です。農林水産省は略称として「食料システム法」を使っています。
この法律は新しくゼロから作られたものではありません。従来の「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」と卸売市場法を一部改正する形で整備されました。
背景には、2024年に改正された食料・農業・農村基本法があります。同法は2024年5月29日に成立し、6月5日に公布・施行されました(令和6年法律第44号)。改正基本法で示された、食料の持続的な供給に要する合理的な費用を考慮した価格形成という考え方を、具体的な取引ルールに落とし込んだのが食料システム法です。
2本の柱
食料システム法は、大きく2つの制度で構成されています。1つは、食品産業事業者が農林漁業者との安定的な取引関係の構築などに関する計画を作り、農林水産大臣の認定を受けると融資などの支援を受けられる「計画認定制度」です。
もう1つが、この記事の中心となる「取引適正化措置」です。事業者への努力義務の設定と、品目ごとのコスト指標の作成・公表が主な内容です。
| 時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2025年6月11日 | 法律が成立 |
| 2025年6月18日 | 法律が公布 |
| 2025年10月1日 | フードGメン発足(本省2名、地方農政局等16名の計18名)、情報受付窓口の設置、取引実態調査の開始 |
| 2026年4月1日 | 全面施行。基本方針・判断基準などの公表、コスト指標作成団体の認定受付、指導・助言の開始 |
計画認定制度は、農林水産省のパンフレットで2025年10月以降の施行予定とされていました。
事業者に課される努力義務と判断基準
2つの努力義務
法第36条に基づき、飲食料品等事業者等には次の2つの努力義務があります。売り手と買い手のどちらにも課される点が特徴です。
- 持続的な供給に要するコスト等の考慮を求める事由を示して協議の申出がされた場合に、誠実に協議すること
- 商慣習の見直しなど、持続的な供給に資する取組の提案があった場合に、必要な検討・協力を行うこと
努力義務は指定品目だけでなく、飲食料品等の取引全般が対象です。指定品目については、後述するコスト指標などの追加的な措置があります。罰則の規定はパンフレット等には示されていませんが、国による指導・勧告・公表の対象になります。
判断基準の6項目
努力義務を果たしているかどうかは、農林水産省令(施行規則第25条)の判断基準で見られます。農林水産省の取引関係者向け資料では、主に次の6項目に整理されています。
| 項目 | 内容 | 小売・外食での例 |
|---|---|---|
| 協議の速やかな開始 | 示された期限、明示がない場合はおおむね1か月までに協議に応じる | メーカーの値上げ申入れを1か月以上放置しない |
| 公表資料の尊重 | 公的統計、コスト指標、行政機関の調査結果など客観的な公表情報を合理的な根拠として尊重する | 統計で示された資材高を「根拠にならない」と退けない |
| 一方的決定の禁止 | 取引価格その他の取引条件を一方的に決定しない | 特売価格や納価を協議なしに通知だけで決めない |
| 提案への迅速な対応 | 商慣習見直しの提案を期限内に検討し、結果を伝える | 納品リードタイム延長の提案を検討して回答する |
| 不利益取扱いの禁止 | 協議を申し出たことだけを理由に数量削減などをしない | 値上げを求めた仕入先の棚割りを理由なく減らさない |
| 説明の実施 | 検討結果とその理由を説明し、必要な情報を提供する | 値上げを一部しか認めない場合に理由を伝える |
農林水産省のQ&Aでは、協議の申出から1か月を過ぎても協議が始まらない場合、一般的には速やかに応じたとは言い難いとしています。期限を延ばす場合は、合理的な理由を説明し、相手方の理解を得ることが必要です。
指定飲食料品等とコスト指標
5つの指定品目
2026年1月30日時点で、施行規則第26条により次の5品目が指定飲食料品等(指定品目)とされています。米穀、野菜、豆腐、納豆、飲用牛乳(成分調整牛乳を除く)です。
いずれもスーパーやコンビニの日配・青果・米売場の中心商品で、飲食チェーンにとっても主要な食材です。特売の目玉になりやすく、価格が硬直しがちな品目が選ばれていると考えられます。
コスト指標と作成団体
コスト指標は、生産・製造・加工・流通・販売の各段階で食料の供給に要する費用を示す指標です。農林水産大臣が認定した民間の「認定指標作成等団体(コスト指標作成等団体)」が作成・公表します。
| 品目 | 認定団体 | 認定日 |
|---|---|---|
| 米穀 | 公益社団法人米穀安定供給確保支援機構 | 2026年4月1日 |
| 飲用牛乳(成分調整牛乳を除く) | 飲用牛乳のコスト指標作成推進会議 | 2026年4月17日 |
| 豆腐・納豆 | 豆腐・納豆コスト指標作成協議会 | 2026年6月12日 |
| 野菜 | 農林水産省の認定団体ページには記載なし | ― |
公表時期の方針は、米穀が年1回改定で原則毎年3月、豆腐・納豆が原則毎年10月、飲用牛乳が毎年10月を目途とされています。最新の公表状況は、各団体と農林水産省のページで確認してください。
コスト指標は「最低価格」ではない
農林水産省は、コスト指標は国が認めた最低取引価格ではないと明示しています。価格は需給や品質の評価を反映し、当事者間の協議で決めるのが基本です。Q&Aでも、コスト指標を下回る価格での取引が直ちにフードGメンの措置の対象になるわけではないとしています。
一方で、使い方を誤ると問題になります。買い手が売り手の事情を聞かずに「コスト指標を基準にこの価格で」と押し付けることや、同業者間で「コスト指標を基準に価格を統一する」と申し合わせることは、努力義務違反や独占禁止法違反のおそれがある例として示されています。
国の指導・助言・勧告・公表の仕組み
取引の監視を担うのは、2025年10月に発足したフードGメンです。情報受付窓口の運営、取引実態調査、報告徴収・立入検査などを行います。
措置は段階的です。違反の疑いがある段階では「助言」、相当な理由がある場合は「指導」が行われ、いずれも公表はされません。取組が著しく不十分で、指導後も同様の違反が続く場合や組織的な違反の場合などには「勧告」の対象になります。
勧告に従わず期限内に改善が確認されないとき、または改善後1年以内に同様の違反があったときは、事業者名などが「公表」されます。不公正な取引方法に該当する疑いがある場合は、公正取引委員会に通知されます。
小売・外食の実務対応
値上げ要請への対応ルールを決める
まず、仕入先から値上げやコスト反映の協議を求められたときの社内ルールを文書にします。受付窓口、回答期限(1か月以内を目安)、判断者、根拠資料の確認方法を決めておくと、担当バイヤーごとの対応のばらつきを防げます。
根拠資料として統計やコスト指標が示された場合は、それを尊重して検討します。全額を受け入れる必要はありませんが、認めない部分の理由は説明できるようにしておきます。
協議の記録を残す
Q&Aでは、協議は口頭でもよいものの、記録に残るよう書面(電磁的記録を含む)で行うことが望ましいとされています。基本方針でも、協議の記録を双方で作成・保管することが望まれるとしています。
記録には、申出日、相手方、根拠として示された資料、協議日、結論と理由を残します。商談システムやメールの記録をそのまま使える形にしておくと、フードGメンの調査にも説明しやすくなります。
特売・PB価格の決め方
スーパーの特売で豆腐や納豆、牛乳を目玉にする場合、特売価格や納価を協議なく一方的に通知する運用は見直しが必要です。企画の段階で仕入先と条件を協議し、合意内容を記録します。
PB商品は、小売が仕様と価格を主導しやすい取引です。原材料や物流費の上昇を理由とした改定の申出があれば、NBと同様に誠実に協議します。飲食チェーンの食材調達でも、年間契約の途中で協議の申出があれば、協議そのものには速やかに応じ、結論と理由を伝える運用にしておくと安心です。
商慣習見直しの提案への対応
農林水産省の資料では、商慣習見直しの提案例として、いわゆる3分の1ルールの見直し、リードタイムの延長、日付逆転品・混合品の受入れ、欠品ペナルティの廃止、標準パレットの使用が挙げられています。こうした提案を「他社も従っている」ことだけを理由に検討しないことは、努力義務違反になり得るとされています。
取適法・独占禁止法との関係
食料システム法は、他の取引ルールと重なって適用されます。2026年1月1日に施行された取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)は、協議を適切に行わない一方的な代金決定を禁止しています。
小売がPB商品の製造をメーカーに委託する場合などは、取引の内容や資本金・従業員の規模によって取適法の対象になり得ます。詳しくは、ストアガイドの記事「取適法(改正下請法)で小売・外食の取引はどう変わる?」で解説しています。
独占禁止法では、優越的地位の濫用や、同業者間の価格カルテル(不当な取引制限)が問題になります。食料システム法の措置の中で不公正な取引方法の疑いがあれば公正取引委員会に通知されるため、3つの法律をまとめて意識した社内ルールづくりが効率的です。
| 法律 | 主な対象 | 小売・外食との関係 |
|---|---|---|
| 食料システム法 | 飲食料品等の生産から販売までの取引全般 | 協議に誠実に応じる努力義務。指導・勧告・公表 |
| 取適法 | 製造委託・役務提供委託・特定運送委託など | PB製造委託や配送委託で、一方的な代金決定の禁止など |
| 独占禁止法 | 事業者の取引全般 | 優越的地位の濫用、価格の申し合わせの禁止 |
小売・外食のための対応チェックリスト
- □ 値上げ・コスト反映の協議申出の受付窓口と回答期限(1か月以内目安)を決めている
- □ 統計やコスト指標が示されたときの検討手順を決めている
- □ 協議の申出日・根拠資料・結論と理由を書面や電子データで記録している
- □ 特売価格・納価を協議なしに一方的に通知していない
- □ PB商品の価格改定の申出にもNBと同様に対応している
- □ 協議を申し出た仕入先に数量削減などの不利益な扱いをしていない
- □ 商慣習見直しの提案を期限内に検討し、結果と理由を伝えている
- □ 同業他社と価格や利潤率を申し合わせていない
- □ 取適法の対象になる委託取引を洗い出している
よくある質問
Q. 指定品目以外の食品にも努力義務はありますか。
A. あります。努力義務は飲食料品等の取引全般が対象です。指定品目の5品目には、コスト指標の作成など追加の措置があります。
Q. コスト指標より安く仕入れると違反になりますか。
A. 直ちに違反にはなりません。農林水産省は、コスト指標は最低取引価格ではなく、指標を下回る取引が直ちにフードGメンの措置の対象になるわけではないとしています。ただし、協議をせずに価格を一方的に決めることは判断基準に反します。
Q. 値上げの申出はすべて受け入れる必要がありますか。
A. 必要はありません。求められているのは、速やかに協議に応じ、根拠資料を尊重して検討し、結論の理由を説明することです。
Q. 違反すると罰則はありますか。
A. 農林水産省のパンフレット等では罰則は示されていません。ただし指導・助言、勧告、事業者名の公表の対象となり、不公正な取引方法の疑いがあれば公正取引委員会に通知されます。
まとめ
食料システム法は2025年6月に公布され、取引適正化の部分は2026年4月1日に全面施行されました。小売・外食を含むすべての飲食料品等事業者に、コストを考慮した協議に誠実に応じる努力義務があります。
米穀、野菜、豆腐、納豆、飲用牛乳の5品目は指定品目で、コスト指標の整備が進んでいます。まずは値上げ要請への対応ルールと協議記録の仕組みを整え、特売・PBの価格決定の手順を見直すことから始めましょう。
価格転嫁の議論とあわせて、ストアガイドの記事「食品の消費税1%」も参考にしてください。