人材開発支援助成金は、従業員に職務に関連する訓練を受けさせた事業主に、訓練経費と訓練中の賃金の一部を国が助成する制度です。2026年度(令和8年度)は7コースで構成され、2026年4月8日には中高年齢者実習型訓練の新設などの改正が行われました。
この記事は、店長候補の育成、調理技術の習得、店舗DXの研修を外部講座やeラーニングで行いたい小売店・飲食店の経営者や人事担当者に向けた内容です。特に雇用保険の適用事業所で、正社員やパート・アルバイトの育成に費用をかけている中小企業が対象になります。
以下では、7コースの概要、2026年度の改正点、中小企業の助成率、OJT・Off-JT・eラーニングの扱い、店舗での活用例、計画届から支給申請までの流れを順に解説します。金額や要件は厚生労働省の2026年度パンフレットに基づきますが、申請前には必ず最新版を確認してください。
人材開発支援助成金の7コース(2026年度)
厚生労働省の案内ページでは、2026年度の人材開発支援助成金は次の7コースに分かれています。小売・外食の店舗が主に検討するのは、上から4つのコースです。
| コース名 | 主な内容 | 店舗での主な使い道 |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務に関連した知識・技能を習得させる訓練 | 店長研修、調理技術研修、有期社員の正社員化訓練 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給の教育訓練休暇制度を導入し、労働者が取得した場合 | 資格取得のための休暇制度づくり |
| 人への投資促進コース | デジタル人材・高度人材の育成訓練、定額制訓練、自発的な能力開発など | サブスク型eラーニング、DX人材の育成 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業の立ち上げなど事業展開に伴う新たな分野の訓練 | テイクアウト・EC参入、業態転換、DX化に伴う研修 |
| 建設労働者認定訓練コース | 建設関連の認定訓練 | (建設業向け) |
| 建設労働者技能実習コース | 建設労働者の技能向上のための実習 | (建設業向け) |
| 障害者職業能力開発コース | 障害者向け教育訓練施設の設置・運営 | (訓練施設を運営する事業主向け) |
なお、中小企業かどうかは業種ごとの基準で判断します。人材育成支援コースのパンフレットでは、小売業(飲食店を含む)は資本金5,000万円以下または常時雇用する労働者50人以下のいずれかに該当すれば中小企業とされています。
2026年4月8日の主な改正点
厚生労働省の案内ページによると、2026年4月8日付で次の3点が改正されました。
- 人材育成支援コース:中高年齢者実習型訓練を新設
- 人への投資促進コース:長期教育訓練休暇制度に新規採用助成・職務代行助成を追加
- 事業展開等リスキリング支援コース:設備投資加算を新設
中高年齢者実習型訓練
45歳以上の労働者を対象に、Off-JTとOJTを組み合わせて行う訓練です。訓練期間が2か月以上、総訓練時間が6か月当たり425時間以上、OJTの割合が1割以上9割以下などの要件があります。中小企業の経費助成率は60%(賃金要件等を満たす場合75%)です。
新規採用助成・職務代行助成
長期の教育訓練休暇を取る労働者の業務を、周囲の従業員に手当を払って代替させた場合や、代替要員を新規雇用(派遣受入れを含む)した場合の助成です。パンフレットでは、新規採用助成は休暇取得期間に応じて27万円・45万円・67.5万円、職務代行助成は75%とされています。
設備投資加算
事業展開等リスキリング支援コースで訓練を行い、訓練で使ったものと同種の事業展開に資する機器・設備を導入した中小企業に、導入費用の50%を加算する仕組みです。支給要領では、1件の導入費用が10万円以上であること、購入・リース・ライセンス契約などが対象となることが定められています。加算の上限額は、申請前にパンフレットで確認してください。
中小企業の助成率と助成額
人材育成支援コース
店舗の研修で最も使いやすいのが、10時間以上のOff-JTを行う「人材育成訓練」です。助成には、訓練経費の一部を支給する経費助成と、訓練時間中の賃金の一部を支給する賃金助成があります。
| 訓練の種類(中小企業) | 経費助成率 | 賃金助成(1人1時間当たり) | OJT実施助成(1人1コース当たり) |
|---|---|---|---|
| 人材育成訓練(正規雇用労働者等) | 45%(賃金要件等達成で60%) | 800円(同1,000円) | なし |
| 人材育成訓練(有期契約労働者等) | 70%(同85%) | 800円(同1,000円) | なし |
| 認定実習併用職業訓練 | 45%(同60%) | 800円(同1,000円) | 20万円(同25万円) |
| 有期実習型訓練 | 75%(同100%) | 800円(同1,000円) | 10万円(同13万円) |
| 中高年齢者実習型訓練 | 60%(同75%) | 800円(同1,000円) | 10万円(同13万円) |
経費助成には1人1訓練当たりの上限があり、中小企業は訓練時間が10時間以上100時間未満で15万円、100時間以上200時間未満で30万円、200時間以上で50万円です。賃金助成の対象時間は1人1訓練当たり1,200時間が上限で、1事業所の年度当たりの支給限度額は1,000万円です。
「賃金要件等達成」とは、訓練終了日の翌日から1年以内に賃金を5%以上増やす、または資格等手当を支払って毎月決まって支払われる賃金を3%以上増やすことを指します。
人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コース
人への投資促進コースでは、定額制のeラーニングサービスを使う「定額制訓練」の経費助成率が中小企業で60%(賃金要件等達成で+15%)です。高度デジタル人材訓練と成長分野等人材訓練は経費助成75%、賃金助成1時間1,000円です。
事業展開等リスキリング支援コースは、中小企業で経費助成率75%、賃金助成1時間1,000円です。パンフレットでは令和4年度から令和8年度までの期間限定の助成金とされているため、2026年度中の活用を検討する場合は早めの準備が必要です。
OJT・Off-JT・eラーニングの扱い
Off-JTは通常の業務から離れて行う訓練で、社内で行う事業内訓練と、外部の教育機関に委託する事業外訓練があります。OJTは実際の業務の中で行う訓練で、人材育成支援コースでは認定実習併用職業訓練などOff-JTと組み合わせる訓練でのみ助成対象になります。
eラーニングや通信制の訓練は、人材育成支援コースでは経費助成のみで、賃金助成は対象外です。事業展開等リスキリング支援コースでも、eラーニングは事業外訓練のみが対象とされています。
注意したいのは、助成対象にならない訓練です。支給要領では、接遇・マナー講習のように職業や職務の種類を問わず社会人として共通して必要となるもの、意識改革研修やモラール向上研修のように職務の知識・技能の習得を目的としないもの、自社の業務で使う機器・端末の操作説明などが対象外とされています。
店長研修・調理研修・接客研修・DX研修の活用例
以下は制度の仕組みを理解するための想定例です。実際に対象になるかは訓練内容や雇用状況で変わるため、計画届の前に労働局へ相談してください。
| 研修テーマ | 検討しやすいコース | ポイント |
|---|---|---|
| 店長研修(計数管理、労務管理、店舗運営) | 人材育成支援コース | 店長職の職務に直接関連する内容でカリキュラムを組む |
| 調理技術研修(外部の料理学校・専門講座) | 人材育成支援コース | 10時間以上のOff-JTとし、所定労働時間内に受講させる |
| 接客研修 | 人材育成支援コース | 一般的な接遇・マナー講習は対象外。商品知識や販売技術など職務固有の内容にする |
| DX研修(データ分析、モバイルオーダー導入) | 人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース | 新サービス開始やDX化など事業展開との関係を計画書で説明する |
調理研修の試算例
中小企業の飲食店が、正社員の調理担当者1人に受講料10万円・30時間の外部調理講座を所定労働時間内に受けさせた場合を考えます。人材育成訓練の通常の率では、経費助成が10万円×45%=4万5,000円、賃金助成が800円×30時間=2万4,000円で、合計6万9,000円です。
訓練後1年以内に賃金を5%以上引き上げて賃金要件を満たせば、経費助成10万円×60%=6万円、賃金助成1,000円×30時間=3万円で、合計9万円になります。いずれも経費助成の上限15万円の範囲内です。
申請の流れと期限
人材育成支援コースでは、おおむね次の流れで手続きを進めます。最大の注意点は、計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に労働局へ提出することです。
- 職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を作って従業員に周知する
- 職業訓練実施計画届を、訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出する
- 計画どおりに訓練を実施する(訓練中の賃金と訓練経費は事業主が全額負担)
- 訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行う
- 審査を経て支給決定・入金
定額制訓練は契約期間の初日の1か月前までに計画届を出すなど、コースや訓練によって期限が異なります。研修会社と契約する前に、該当コースの期限を確認しましょう。
申請前チェックリスト
- □ 雇用保険の適用事業所で、受講者が雇用保険の被保険者である
- □ 職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を周知した
- □ 研修内容が職務に直接関連し、接遇・マナー講習などの対象外訓練に当たらない
- □ Off-JTの実訓練時間が10時間以上ある
- □ 計画届を訓練開始日の1か月前までに提出できる日程になっている
- □ 研修を所定労働時間内に行い、その時間の賃金を通常どおり支払う
- □ 受講料を事業主が全額負担し、領収書や受講記録を保管する
- □ 訓練終了日の翌日から2か月以内に支給申請する段取りがある
よくある質問
Q. パート・アルバイトの研修も対象になりますか。
A. 雇用保険の被保険者であれば対象になり得ます。人材育成訓練では、有期契約労働者等の経費助成率は中小企業で70%と、正規雇用労働者等より高く設定されています。
Q. 閉店後や休日に研修を行った場合も賃金助成は出ますか。
A. パンフレットでは、所定労働時間外や休日に実施した時間は賃金助成の対象外とされています。賃金助成を受けたい場合は、シフト内で受講させてください。
Q. 研修が始まってから申請してもよいですか。
A. 計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出していない場合は対象外です。研修日程が決まったらすぐに準備を始めてください。
Q. 社内の先輩が教える調理指導は対象になりますか。
A. 通常業務の中で教えるOJTだけでは、人材育成訓練の対象になりません。業務から離れて行う事業内訓練として計画するか、OJTを含む訓練メニューの要件を満たす必要があります。
まとめ
人材開発支援助成金は、店長研修や調理技術研修のような職務に直結する研修の費用と、受講中の賃金の一部を取り戻せる制度です。中小企業の人材育成訓練なら経費の45%(賃金要件等達成で60%)と1時間800円(同1,000円)の賃金助成が受けられます。
一方で、計画届の期限、対象外となる訓練、eラーニングの賃金助成対象外など、知らないと受給できないルールもあります。研修会社と契約する前に計画を立て、管轄の労働局に相談してから進めましょう。