冬のノロウイルス食中毒を防ぐ要点は、「症状のある従業員を調理に入れない」「次亜塩素酸ナトリウムで正しく消毒する」「嘔吐物をその場で適切に処理する」の3つです。ノロウイルスは食中毒の患者数で毎年上位にあり、調理従事者を介した汚染が大きな原因になっています。
この記事は、飲食店の店長・オーナー、スーパーの惣菜売場やベーカリーの責任者、セントラルキッチンの衛生担当者に向けたものです。アルバイト・パートの多い現場でもそのまま使える手順を意識しました。
発生時期と統計、感染経路、加熱と消毒の条件、嘔吐物の処理手順、従業員の体調管理と休ませ方、食中毒が起きたときの保健所対応までを、厚生労働省の資料をもとに整理します。
ノロウイルス食中毒はいつ、どれくらい起きているか
発生時期は11月ごろから増え、冬から春先に多い
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」によると、ノロウイルスによる食中毒は一年を通じて発生しますが、11月ごろから増え始め、12月〜翌年1月が発生のピークになる傾向があります。年末年始の宴会、おせちやオードブルの予約製造など、店が最も忙しい時期と重なる点に注意が必要です。
ただし、ピークは年によってずれます。厚生労働省「令和7年食中毒発生状況の概要」では、令和7年(2025年)はノロウイルスが2〜4月に多く発生し、2月には大規模食中毒の影響で月間の患者数が8,000人を超えたと報告されています。「1月を過ぎたら一安心」とは考えず、春先まで対策を続けてください。
患者数で上位の病因物質
厚生労働省の食中毒統計では、ノロウイルスは毎年患者数が多い病因物質です。直近の公表資料の数字は次のとおりです。
| 年 | 食中毒全体 | ノロウイルスについての記載 |
|---|---|---|
| 令和6年(2024年) | 1,037件、患者14,229人 | 患者数に占める割合62.5%で、病因物質別の1位 |
| 令和7年(2025年) | 1,172件、患者24,727人 | 事件数・患者数とも3年連続で増加。患者数が2,000人を上回る事例もあった |
令和7年の患者数は令和6年の約1.7倍で、厚生労働省はノロウイルスによる事例の増加が全体の増加に寄与したとしています。1件で数百人から数千人規模の被害になり得るのが、ノロウイルスの怖さです。
感染経路と「調理従事者からの二次汚染」
ノロウイルスは主に口から感染します。厚生労働省のQ&Aでは、感染経路として、汚染された貝類(カキなどの二枚貝)を生や加熱不十分で食べること、感染した人の手指を介して汚染された食品を食べること、人から人への接触や飛沫による感染などが挙げられています。
飲食店・惣菜売場で特に重要なのは、感染した調理従事者を介して食品が汚染されるケースです。Q&Aでも、食品取扱者を介した汚染による食中毒が増えていると指摘されています。症状が軽い人や、症状が出ていない人が感染していることもあるため、「元気そうだから大丈夫」とは判断できません。
潜伏期間は24〜48時間で、主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。発熱は軽度で、通常は1〜2日で治ります。ウイルスはトイレのドアノブ、蛇口、手すりなど、多くの人が触れる場所を通じて広がるおそれがあります。
加熱と消毒の基本
加熱は「中心温度85〜90℃で90秒以上」
厚生労働省のQ&Aでは、ウイルスの汚染のおそれがある二枚貝などの食品は、中心部が85〜90℃で90秒以上の加熱が望ましいとされています。カキフライ、鍋物、貝の酒蒸しなどは中心温度計で確認し、記録に残すと確実です。
一方で、サラダ、和え物、サンドイッチ、盛り付け後の惣菜など、加熱後に手で触れる食品は加熱では守れません。手洗いと使い捨て手袋、器具の消毒で汚染を持ち込まないことが対策の中心になります。
消毒は次亜塩素酸ナトリウム、アルコールは効きにくい
ノロウイルスには消毒用アルコールや逆性石けんが効きにくく、Q&Aでは十分な効果が期待できないとされています。調理器具や床などの消毒には次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)か、85℃以上で1分以上の熱湯消毒を使います。
| 濃度 | 主な用途 | 6%製品からの目安 |
|---|---|---|
| 0.02%(約200ppm) | 調理器具・ふきん・ドアノブ・トイレ、嘔吐物を取り除いた後の床 | 水1Lに約3.3mL(約300倍) |
| 0.1%(約1,000ppm) | 嘔吐物・便の処理に使ったペーパータオル等、汚物そのものの消毒 | 水1Lに約17mL(約60倍) |
原液の濃度は製品によって異なるため、必ずラベルの濃度から計算してください。希釈液は時間がたつと効果が落ちるため作り置きせず、金属は腐食するので消毒後に水拭きします。手指には使わず、手は石けんと流水で丁寧に洗います。
嘔吐物の処理手順(従業員・お客様どちらの場合も同じ)
店内や厨房で誰かが嘔吐したときは、ウイルスを周囲に広げないよう、素早く静かに処理することが二次感染を防ぐ鍵です。厚生労働省のQ&Aでは、汚染されたカーペットを介して12日以上後に感染した例があることも紹介されています。
- 周囲の人を遠ざけ、窓を開けるなど換気する。売場や客席では立ち入りを制限する
- 処理する人は使い捨て手袋・マスク・ガウン(エプロン)を着ける。靴カバーがあれば使う
- ペーパータオル等で外側から内側に向けて静かに拭き取り、ビニール袋に入れる
- 袋の中に0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを入れて浸し、口をしっかり縛って廃棄する
- 嘔吐物があった床とその周囲を0.02%の次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭き、その後に水拭きする
- 手袋・マスク・ガウンは外側に触れないように外して袋に入れて廃棄し、石けんと流水で手を洗う
処理セット(手袋、マスク、ガウン、ペーパータオル、ビニール袋、次亜塩素酸ナトリウム、計量カップ、手順書)を1つの箱にまとめ、厨房と売場の両方に置いておくと、誰が当番でも同じ処理ができます。お客様が客席で嘔吐した場合は、その周辺の食器・料理を下げて廃棄し、近くの席のお客様には別の席を案内するなど、汚染が広がらないように対応します。
従業員の体調管理と休ませ方
症状のある人は調理・盛り付けに従事させない
厚生労働省のQ&Aは、下痢や嘔吐などの症状がある調理従事者を食品を直接取り扱う作業に従事させないよう求めています。出勤前に体調を申告するルールを作り、責任者が毎日確認・記録することが基本です。家族に同様の症状がある場合も申告してもらうと、早めに対応できます。
症状が治まってもウイルスは出続ける
Q&Aによると、症状が消えた後も通常1週間程度、長いときには1か月程度、便にウイルスが排出されることがあります。そのため、症状が治まってすぐに盛り付けやおにぎり成形などの作業に戻すのではなく、一定期間は食品に直接触れない作業に配置するといった運用が考えられます。
具体的な期間や検査の要否は、保健所や産業医などに相談して店舗のルールとして決めておくと、現場で迷いません。
検便にノロウイルス検査を加える
厚生労働省の「令和7年食中毒発生状況の概要」では、冬場の流行期前から従業員の検便検査にノロウイルスを加えることを年末一斉取締りの通知に記載したこと、ノロウイルスを含めた検便の実施など積極的な衛生管理を事業者に指導するよう自治体に求めたことが示されています。通常の検便項目にノロウイルスが含まれているかを、委託先の検査機関に確認しておきましょう。
休ませる場合の賃金の考え方
従業員が体調不良で自ら休む場合は、通常の欠勤や年次有給休暇、会社独自の病気休暇の扱いになります。一方、会社の判断で就業を禁止する場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」として、平均賃金の100分の60以上の休業手当が必要になる可能性があります。
どちらに当たるかは個別の事情によって異なるため、就業規則に体調不良時の扱いを明記し、判断に迷う場合は労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。「休むと収入が減るから無理して出勤する」状態を防ぐ制度づくりも、食中毒予防の一部です。
HACCPとの関係と、食中毒が起きたときの対応
ノロ対策は一般衛生管理の中心
HACCPに沿った衛生管理では、手洗い、従業員の健康管理、トイレや器具の清掃・消毒といった一般衛生管理が土台になります。ノロウイルス対策の多くはこの一般衛生管理そのものなので、冬季は確認頻度を上げ、記録の抜けをなくすことが実務上のポイントです。手順書や記録表の作り方は関連記事「HACCPに沿った衛生管理」で解説しています。
お客様から体調不良の連絡が来たら
お客様から「食後に嘔吐・下痢があった」と連絡を受けたら、日時、人数、食べたメニュー、症状、受診の有無を記録し、速やかに管轄の保健所に相談します。保健所の調査では、従業員の健康状態の記録、検便結果、仕入れ・製造の記録、清掃・消毒の記録などの提出を求められることがあります。
保健所が食中毒と判断した場合、営業停止などの行政処分を受け、店名が公表されることがあります。調査中は残っている食材や記録を捨てず、従業員にも勝手な情報発信をしないよう伝えて、窓口を一本化してください。
冬季のノロウイルス対策チェックリスト
- □ 出勤時に本人と家族の下痢・嘔吐の有無を申告・記録している
- □ 症状のある人を調理・盛り付け・包装に従事させないルールがある
- □ 症状が治まった後の復帰ルール(配置・期間)を決めている
- □ 検便にノロウイルスが含まれているか検査機関に確認した
- □ 調理前・トイレ後・盛り付け前の手洗い手順を掲示している
- □ 二枚貝などは中心温度85〜90℃で90秒以上を確認・記録している
- □ 次亜塩素酸ナトリウムの0.02%・0.1%の作り方を掲示している
- □ 嘔吐物処理セットを厨房と売場・客席側に置いている
- □ 従業員用トイレのドアノブ・蛇口を定期的に消毒している
- □ 体調不良時の欠勤・休業の扱いを就業規則で説明している
- □ 管轄保健所の連絡先と、苦情受付時の記録様式を用意している
よくある質問
Q. アルコール消毒だけでは不十分ですか。
A. ノロウイルスにはアルコールが効きにくいため、アルコールだけに頼るのは不十分です。手は石けんと流水で洗い、器具や床は次亜塩素酸ナトリウムか熱湯で消毒してください。
Q. 症状が治まった翌日から通常勤務に戻してよいですか。
A. 症状が消えても1週間程度、長いと1か月程度ウイルスが排出されることがあります。復帰後もしばらくは食品に直接触れない作業にするなど、店舗のルールを決めておくと安全です。
Q. お客様が客席で嘔吐した場合、営業は続けられますか。
A. 周囲を立ち入り制限し、手順どおりに処理・消毒・換気すれば、多くの場合は営業を続けられます。ただし、食中毒が疑われる状況であれば保健所に相談してください。
Q. 惣菜売場で特に注意すべき商品はありますか。
A. 加熱後に手で盛り付ける弁当、おにぎり、サラダ、和え物、サンドイッチなどです。使い捨て手袋の着用と、作業者の体調確認を徹底してください。
まとめ
ノロウイルス食中毒は11月ごろから増え、近年は春先まで多く発生しています。令和6年は食中毒患者数の62.5%を占めて1位、令和7年も事件数・患者数が3年連続で増えました。
対策の中心は、症状のある従業員を調理に入れないこと、症状が治まった後もウイルスが出続けることを前提にした復帰ルール、次亜塩素酸ナトリウムによる正しい消毒、そして嘔吐物の迅速な処理です。流行期に入る前に、処理セットの配置、検便項目の確認、休ませ方のルールを整えておきましょう。