労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までに、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料をまとめて申告・納付する手続きです。2026年度(令和8年度)は6月1日(月)から7月10日(金)までが期間でした。

この記事は、パート・アルバイトを多く雇う小売店や飲食店の経営者、給与・労務の担当者に向けたものです。今年の申告を振り返りたい方や、来年に向けて準備を始めたい方を想定しています。

年度更新の仕組み、集計する賃金の範囲、2026年度の保険料率、計算例、延納(分割納付)、電子申請、申告しなかった場合の扱い、2028年10月の雇用保険の適用拡大への備えを順に解説します。

年度更新の仕組みと期間

確定保険料と概算保険料を同時に申告する

労働保険料は、4月1日から翌年3月31日までの「保険年度」を単位に計算します。事業主は年度の初めに見込みの「概算保険料」を納め、年度が終わってから実際の賃金で「確定保険料」を計算して精算します。

年度更新では、前年度の確定保険料の申告と、新年度の概算保険料の申告を1枚の申告書で同時に行います。前年度に納めた概算保険料が確定保険料より少なければ不足額を納め、多ければ新年度の保険料に充当するか還付を請求します。

2026年度の期間と納付期限

2026年度の申告・納付期間は6月1日(月)から7月10日(金)まででした。電子申請は6月1日8時から受け付けられました。

あわせて、石綿健康被害救済のための「一般拠出金」も確定保険料と一緒に申告・納付します。一般拠出金率は1,000分の0.02で、全労働者の賃金総額に掛けて計算します。

保険料の対象となる賃金とパート・アルバイトの集計

労災保険は全員、雇用保険は被保険者分

保険料は「賃金総額×保険料率」で計算します。労災保険はパート・アルバイト・短期バイトを含むすべての労働者の賃金が対象で、雇用保険は雇用保険の被保険者に支払った賃金だけが対象です。

週の所定労働時間が20時間未満のアルバイトや昼間学生など、雇用保険の被保険者にならない人がいる店舗では、労災保険と雇用保険の賃金総額が一致しません。厚生労働省も、雇用保険の被保険者とならない学生アルバイト等の賃金は労災保険と雇用保険に分けて算定するよう案内しています。

短期バイト・退職者も漏れなく集計する

年末年始や繁忙期だけの短期バイト、年度の途中で辞めた人の賃金も、その年度に支払った分は集計に含めます。賃金台帳を月別・雇用区分別に締めておくと、集計表への転記がスムーズです。

集計した賃金総額は1,000円未満を切り捨てます。支払いが確定している賃金(未払いの残業代など)も含める点に注意してください。

賃金に含むもの・含まないもの

「賃金」とは、名称を問わず労働の対償として事業主が支払うすべてのものです。兵庫労働局の早見表をもとに、小売・飲食店でよく出てくる項目を整理しました。

賃金総額に含むもの賃金総額に含まないもの
基本給、時給、固定給退職金(退職を事由として退職時に支払うもの)
残業手当、深夜手当、休日手当結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金
通勤手当、定期券・回数券出張旅費・宿泊費等(実費弁償的なもの)
役職手当、家族手当、住宅手当休業補償費、解雇予告手当
賞与制服
休業手当会社が全額負担する生命保険の掛金
チップ(奉仕料の配分として事業主から受けるもの)私傷病見舞金、年功慰労金

通勤手当は税法上の非課税限度内であっても労働保険では賃金に含みます。所得税の扱いと混同しやすいので注意してください。

2026年度の保険料率と計算例

小売業・飲食店に適用される料率

小売業や飲食店は、労災保険率表の「卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業」(事業の種類番号81)に当たり、労災保険率は1,000分の3です。厚生労働省によると、2026年度の労災保険率は2025年度から変更ありません。

雇用保険料率(一般の事業)は2026年度に引き下げられ、合計1,000分の13.5になりました。年度更新では、前年度の確定保険料は前年度の料率、当年度の概算保険料は当年度の料率で計算します。

区分2025年度(確定保険料に使う率)2026年度(概算保険料に使う率)
労災保険率(小売業・飲食店)1,000分の31,000分の3
雇用保険料率(一般の事業)合計1,000分の14.51,000分の13.5
うち労働者負担1,000分の5.51,000分の5
うち事業主負担1,000分の91,000分の8.5
一般拠出金率1,000分の0.02(確定分のみ申告)

労災保険料は全額が事業主負担です。年度更新で納めるのは、雇用保険の労働者負担分(毎月の給与から控除した分)も含めた全額です。

計算例:飲食店(従業員30人)の場合

次の条件で計算してみます。数字は説明用の仮定です。

  • 2025年度に支払った賃金総額:全労働者で3,000万円、うち雇用保険の被保険者分2,400万円
  • 2025年度の概算保険料として納付済みの額:42万円
  • 2026年度の賃金総額の見込み:前年度と同額

2025年度の確定保険料は、労災保険が3,000万円×3/1,000=9万円、雇用保険が2,400万円×14.5/1,000=34万8,000円で、合計43万8,000円です。納付済みの42万円との差額1万8,000円が不足額になります。

2026年度の概算保険料は、労災保険が3,000万円×3/1,000=9万円、雇用保険が2,400万円×13.5/1,000=32万4,000円で、合計41万4,000円です。一般拠出金は3,000万円×0.02/1,000=600円です。

一括で納める場合の納付額は、41万4,000円+1万8,000円+600円=43万2,600円です。概算保険料の算定には、原則として前年度の確定賃金総額を使います(当年度の見込額が前年度の50%未満または200%超になる場合は見込額を使います)。

延納(分割納付)と電子申請

延納の条件と2026年度の納期限

概算保険料額が40万円以上(労災保険か雇用保険のどちらか一方のみ成立している場合は20万円以上)か、労働保険事務組合に事務を委託している場合は、概算保険料を3回に分けて納付できます。上の計算例は概算保険料が41万4,000円なので延納できます。

3回に分けると1回あたり13万8,000円です。第1期は確定保険料の不足額1万8,000円と一般拠出金600円を加えた15万6,600円になります。

期対象期間2026年度の納期限口座振替の場合の納付日
第1期4月1日〜7月31日7月10日9月7日
第2期8月1日〜11月30日11月2日11月16日
第3期12月1日〜翌年3月31日2027年2月1日2027年2月15日

この記事の更新日時点では、第2期(11月2日)と第3期(2027年2月1日)の納期限が残っています。延納を選んだ事業所は、納付書や口座残高を確認しておきましょう。

大企業は電子申請が義務

資本金・出資金等が1億円を超える法人、相互会社、投資法人、特定目的会社は、年度更新の申告を電子申請で行う義務があります。2026年度の年度更新からは、これらの事業場には紙の申告書が送付されなくなり、原則として紙での申告はできません。

義務の対象でない中小の店舗も、e-Govなどから電子申請ができます。電子申請をした場合は電子納付も利用できます。

申告しない場合の認定決定と追徴金

期限までに申告しないと、政府(労働局)が保険料と一般拠出金の額を決定する「認定決定」が行われることがあります。この場合、納付すべき保険料・拠出金の10%に相当する追徴金が課されることがあります。

賃金の集計に時間がかかりそうなときは、7月10日を待たずに早めに所轄の労働局や労働基準監督署に相談してください。各労働局は、期間中に申告書の受理・相談会を開いています。

2028年10月の雇用保険の適用拡大に備える

2028年10月1日(令和10年10月1日)から、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の人も雇用保険の被保険者になります。週2〜3日の短時間シフトで働くパート・アルバイトが多い店舗ほど、雇用保険の対象となる賃金総額が大きく増えます。

適用拡大後は、労災保険と雇用保険の賃金総額の差が小さくなる一方、年度途中で被保険者が増えるため集計が複雑になります。今のうちに従業員ごとの週所定労働時間を一覧にし、給与システムで雇用保険の被保険者区分を管理しておくと安心です。詳しくは関連記事「雇用保険が週10時間から加入に」で解説しています。

あわせて、厨房でのやけどや転倒など、労災保険を使う場面の手続きは「厨房のやけど・転倒も対象|労災保険の手続き」をご覧ください。

年度更新の準備チェックリスト

  • □ 前年度4月〜3月の賃金台帳を月別にそろえた
  • □ 退職者・短期バイトの賃金も集計に含めた
  • □ 雇用保険の被保険者分と被保険者でない人の賃金を分けて集計した
  • □ 通勤手当・賞与・休業手当を賃金に含め、退職金・慶弔見舞金・出張旅費は除いた
  • □ 確定保険料は前年度の料率、概算保険料は当年度の料率で計算した
  • □ 一般拠出金(1,000分の0.02)を計上した
  • □ 延納の可否(概算保険料40万円以上など)を確認した
  • □ 電子申請の義務対象かどうかを確認した
  • □ 第2期・第3期の納期限をカレンダーに登録した

よくある質問

Q. 年度更新の期間を過ぎてしまいました。どうすればよいですか。

A. 気づいた時点で、すぐに所轄の労働局または労働基準監督署に申告書を提出してください。放置すると認定決定となり、保険料・拠出金の10%の追徴金が課されることがあります。

Q. 雇用保険に入っていない学生アルバイトの賃金はどう扱いますか。

A. 労災保険の賃金総額には含め、雇用保険の賃金総額には含めません。労災保険と雇用保険で賃金総額が異なる場合は、それぞれ分けて記入します。

Q. 通勤手当は非課税なので賃金に含めなくてよいですか。

A. いいえ。労働保険では通勤手当や定期券代も賃金に含めます。所得税の非課税扱いとは基準が異なります。

Q. 延納を申し込むにはどうすればよいですか。

A. 年度更新の申告書で延納の回数を記入して申し込みます。条件は概算保険料40万円以上(労災保険か雇用保険の一方のみ成立している場合は20万円以上)か、労働保険事務組合への委託です。

まとめ

年度更新は、毎年6月1日〜7月10日に前年度の確定保険料と当年度の概算保険料をまとめて申告・納付する手続きです。小売業・飲食店の労災保険率は1,000分の3、2026年度の雇用保険料率は合計1,000分の13.5で、前年度分の精算には2025年度の1,000分の14.5を使います。

パート・アルバイトの多い店舗では、雇用保険の被保険者かどうかで賃金を分けて集計することが正確な申告の鍵です。2028年10月の適用拡大に向けて、週所定労働時間の管理を今から整えておきましょう。

出典