年末年始は法律上当然に休日になるわけではなく、割増賃金の要否は「その日が法定休日か、所定休日か、通常の労働日か」と「週・1日の労働時間」で決まります。労働基準法が使用者に義務づけている休日(法定休日)は、毎週少なくとも1回、または4週間で4日以上です。

この記事は、年末年始も営業する小売店・飲食店の経営者、店長、人事・労務担当の方に向けたものです。12月下旬から1月上旬のシフトを組む前に、割増賃金や手当の考え方を整理しておきたい方を想定しています。

以下では、休日の種類ごとの割増率、時給1,280円での計算例、振替休日と代休の違い、36協定の上限、年末年始手当の設計、パートの扶養への影響、営業時間短縮と休業手当までを順に解説します。

年末年始は法律上の休日ではない:法定休日と所定休日

労働基準法第35条が定める法定休日は「毎週少なくとも1回、または4週間で4日以上」です。年末年始や祝日を休日にすることまでは求めていないため、12月31日や1月1日に営業し、従業員を出勤させること自体は違法ではありません。

一方で、就業規則で「12月30日から1月3日までを休日とする」と定めている会社もあります。この場合の年末年始休日は、会社が独自に定めた「所定休日」にあたるのが一般的です。法定休日をどの曜日・どの日にするかは就業規則の定め方によるため、まず自社の規定を確認してください。

休日の種類で変わる割増の考え方

出勤した日休日労働の割増(35%以上)時間外の割増(25%以上)
法定休日必要(その日の労働時間すべて)休日労働として扱う
所定休日(就業規則上の年末年始休日など)不要1日8時間・週40時間を超えた部分は必要
通常の労働日(年末年始を休日にしていない場合)不要1日8時間・週40時間を超えた部分は必要

どの日に出勤した場合でも、午後10時から午前5時までの深夜労働には25%以上の深夜割増が別途必要です。年末年始の営業でも、この3つの割増を分けて考えるのが基本です。

割増率と時給1,280円での計算例

割増率は、時間外労働と深夜労働が25%以上、法定休日労働が35%以上です。時間外と深夜が重なると50%以上、法定休日と深夜が重なると60%以上になります。1か月60時間を超える時間外労働の割増率は50%以上で、中小企業への猶予は2023年4月1日に終了しています。

以下は、2026年10月1日から適用されている東京都の最低賃金(時間額1,280円)で時給を設定している場合の1時間あたりの金額です。

働き方割増率時給1,280円の場合の1時間あたり
通常の労働なし1,280円
時間外労働(1日8時間・週40時間超)25%以上1,600円
深夜労働(午後10時〜午前5時)25%以上1,600円
時間外労働+深夜労働50%以上1,920円
法定休日労働35%以上1,728円
法定休日労働+深夜労働60%以上2,048円

計算例:法定休日に8時間働いた場合

時給1,280円のアルバイトが法定休日に8時間(深夜なし)働いた場合は、1,280円×1.35×8時間=13,824円以上が必要です。同じ人が所定休日に8時間働き、その週の労働時間が40時間を超えて8時間すべてが時間外になった場合は、1,280円×1.25×8時間=12,800円以上となります。

所定休日の出勤でも週40時間の内側に収まっていれば、時間外割増は不要です。ただし、1日8時間を超えた部分は別に時間外として扱われます。端数処理のルールも厚生労働省が示しているため、給与計算システムの設定とあわせて確認しましょう。

振替休日と代休の違い、36協定の確認

年末年始に休日出勤をお願いする場合、別の日に休みを与える方法として「振替休日」と「代休」があります。名前は似ていますが、割増賃金の扱いが異なります。

項目振替休日代休
手続きのタイミング事前(前日までに休日と労働日を入れ替える)事後(休日出勤の後に休みを与える)
休日労働の割増賃金不要(もともと労働日になるため)必要(休日労働の事実は消えない)
注意点振り替えた結果、週40時間を超えた部分は時間外割増が必要代休日を無給にしても、割増部分の支払いは残る

年末年始の繁忙期に振替休日を使う場合は、振替先を翌週以降にすると週の労働時間が40時間を超えやすくなります。振替休日や代休の手続きは、就業規則などであらかじめ定めておくことが勧められています。

36協定の上限を確認する

法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働をさせるには、36協定の締結・届出が必要です。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間で、特別条項を設けても年720時間以内、月45時間を超えられるのは年6か月までです。

さらに、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2〜6か月平均で80時間以内に収める必要があります。12月は11月・1月との平均で上限を超えやすい月なので、正社員や店長の勤務時間は月をまたいで管理してください。

年末年始手当・時給アップの設計と注意点

年末年始の人員確保のため、「12月31日〜1月3日は時給200円アップ」「1日1,000円の年末年始手当」といった上乗せを行う店舗は多くあります。設計の際は、最低賃金と割増賃金の2つの観点で確認が必要です。

最低賃金は手当を除いた金額で満たす

最低賃金の計算では、「臨時に支払われる賃金」「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」「時間外・休日・深夜の割増賃金」「精皆勤手当・通勤手当・家族手当」は対象から除かれます。年末年始だけの手当は臨時の賃金と判断される可能性があるため、基本の時給だけで最低賃金(東京都なら1,280円)を満たしておくのが安全です。

たとえば「基本時給1,180円+年末年始手当100円」で合計1,280円にする設計は、最低賃金を下回ると判断されるおそれがあります。手当はあくまで基本時給への上乗せとして設計しましょう。

割増賃金の基礎に含めるかどうか

割増賃金の基礎から除外できるのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に限られます。年末年始期間の時給そのものを引き上げる方式の場合は、引き上げ後の時給を基礎に割増を計算しておくと、未払いのリスクを避けられます。

例として、時給1,280円に200円を上乗せした1,480円で法定休日に8時間働いた場合、1,480円×1.35×8時間=15,984円になります。手当の性質の判断に迷う場合は、労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

パートの扶養への影響

年末の時給アップや出勤日の増加で、配偶者などの扶養の範囲内で働きたいパートの年収が増えることがあります。健康保険の被扶養者の収入基準は原則130万円未満(19歳以上23歳未満は150万円未満、60歳以上などは180万円未満)です。

2026年4月1日からは、労働条件通知書などに記載された賃金から見込まれる年間収入で被扶養者を判定する取扱いが始まっています。年末の一時的な収入増が扶養にどう影響するかは加入している健康保険によって確認方法が異なるため、本人に早めに声をかけ、必要に応じて保険者へ確認するよう案内しましょう。

シフト作成の実務:休憩・深夜帯・希望休・営業時間短縮

休憩と深夜帯の人員

休憩は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間が必要です。年末の繁忙日に「忙しいから休憩なし」とすることはできないため、休憩が回る人数でシフトを組みます。

大晦日の深夜営業やカウントダウン営業を行う場合は、深夜割増の対象時間が増えます。人件費の見積もりでは、深夜帯の時給を1.25倍以上(時間外と重なれば1.5倍以上)で計算しておきましょう。高校生など18歳未満は原則として深夜に働かせることができないため、年齢の確認も欠かせません。

希望休の調整

年末年始は帰省や家族行事で希望休が集中します。11月中に希望の締切日を示し、「12月30日〜1月2日のうち2日以上出勤できる人には手当を付ける」など、出勤の条件と手当を同時に提示すると調整しやすくなります。

特定の人に負担が偏らないよう、前年の出勤実績を記録しておくと公平感が保てます。強制的な出勤命令に頼るより、早めの告知と上乗せで希望者を集める方がトラブルになりにくいです。

営業時間短縮と休業手当

年末年始に営業時間を短縮したり、臨時休業したりする店舗もあります。会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)で従業員を休ませる場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります(労働基準法第26条)。

シフト確定後に「客が少ないから今日は来なくていい」と出勤日を取り消す場合も、休業手当の対象になり得ます。短縮営業や休業の予定は、シフトを確定させる前に決めて反映させましょう。

年末年始シフトのチェックリスト

  • □ 就業規則で法定休日の特定方法と、年末年始休日の有無を確認した
  • □ 出勤予定日が法定休日・所定休日・労働日のどれにあたるかを整理した
  • □ 週40時間・1日8時間を超える人を事前に洗い出した
  • □ 36協定の時間外・休日労働の上限と、2〜6か月平均80時間以内を確認した
  • □ 振替休日は前日までに指定し、代休との区別を本人に説明した
  • □ 基本時給だけで最低賃金を満たしていることを確認した
  • □ 年末年始手当・時給アップを割増賃金の基礎に含めるか決めた
  • □ 深夜帯の人員と18歳未満の従業員の勤務時間を確認した
  • □ 6時間超45分・8時間超1時間の休憩が取れる人数を配置した
  • □ 扶養内で働くパートに年末の収入増について声をかけた
  • □ 短縮営業・休業の予定をシフト確定前に決めた

よくある質問

Q. 元日(1月1日)は祝日なので、出勤させたら必ず35%の割増が必要ですか。

A. 必要とは限りません。35%以上の割増が必要なのは法定休日に働かせた場合です。祝日でも、就業規則上の労働日や所定休日であれば休日割増は不要で、1日8時間・週40時間を超えた部分に時間外割増が必要になります。

Q. 年末年始に出勤した社員に後日代休を与えれば、割増賃金は払わなくてよいですか。

A. 払う必要があります。代休は休日出勤の後に休みを与えるもので、法定休日に働いた事実は残るため35%以上の割増が必要です。割増を不要にしたい場合は、前日までに振替休日を指定してください。

Q. 年末年始手当は最低賃金の計算に含めてよいですか。

A. 臨時に支払われる賃金は最低賃金の計算から除かれます。年末年始限定の手当は臨時の賃金とされる可能性があるため、基本時給だけで最低賃金を満たしておきましょう。

Q. 客足が少なそうなので、シフトを組んだ後に人数を減らしたいです。

A. 会社の都合で確定したシフトの出勤をなくす場合は、平均賃金の60%以上の休業手当が必要になることがあります。人数の調整は、できるだけシフト確定前に行ってください。

まとめ

年末年始は法律上の休日ではなく、割増賃金の要否は法定休日・所定休日・労働日の区別と、1日8時間・週40時間の枠で判断します。割増率は時間外・深夜25%以上、法定休日35%以上で、重なる場合は加算されます。

手当や時給アップを出す場合は、基本時給だけで最低賃金を満たしているか、割増の基礎に含めるかを確認してください。あわせて36協定の上限、休憩、深夜帯の人員、パートの扶養、休業手当まで点検しておくと、年明けの給与計算で慌てずに済みます。

関連記事:「36協定と残業の上限規制」「飲食店の深夜割増・休憩・休日の基本ルール」「年収の壁が気になるパートへの年末の説明」

出典