源泉所得税の納期の特例を使っている事業者は、2026年7月〜12月に源泉徴収した税額を2027年1月20日(水)までに納付する必要があります。原則は毎月「翌月10日」納付ですが、特例を使うと納付が年2回にまとまる代わりに、1回あたりの金額が大きくなり、忘れたときの影響も大きくなります。
この記事は、従業員やアルバイトが10人未満の飲食店・小売店のオーナーや、経理・給与計算を担当している方に向けて書いています。すでに特例を使っている方も、これから申請を考えている方も対象です。
記事では、納期の特例の対象者と申請方法、対象になる所得、納付期限と納付方法、遅れたときの不納付加算税・延滞税、人数が10人以上になったときの手続き、年末調整との関係を、国税庁の公表資料をもとに順に整理します。
源泉所得税の納付期限は「原則」と「納期の特例」の2種類
給与や報酬から源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。たとえば10月25日に支払った給与の源泉税は、11月10日が納付期限です。
これに対して納期の特例は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者が、税務署の承認を受けて年2回にまとめて納付できる制度です。毎月の納付手続きが不要になるため、オーナー自身が経理を兼ねる小さな店舗でよく使われています。
| 区分 | 対象期間 | 納付期限 |
|---|---|---|
| 原則 | 各月に支払った給与等の源泉税 | 支払った月の翌月10日 |
| 納期の特例 | 1月〜6月に支払った給与等の源泉税 | 7月10日 |
| 納期の特例 | 7月〜12月に支払った給与等の源泉税 | 翌年1月20日 |
納付期限が土曜日・日曜日・祝日などにあたる場合は、その休日明けの日が納付期限になります。2027年1月20日は水曜日なので、そのまま1月20日が期限です。2027年7月10日は土曜日にあたるため、期限は休日明けの7月12日(月)になります。
納期の特例の対象者と対象になる所得
対象者は「給与の支給人員が常時10人未満」
国税庁は、対象者を「給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者」としています。正社員だけでなく、パート・アルバイトなど給与を支払っている人も含めて人数を把握しておきましょう。
飲食店では繁忙期だけ短期アルバイトが増えることがあります。一時的に増えた場合の扱いは個別の事情で判断が分かれることがあるため、10人前後で推移している店舗は、税務署や税理士に確認しておくと安心です。
対象になる所得・ならない所得
納期の特例の対象になるのは、給与や退職金から源泉徴収した税額と、税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬・料金から源泉徴収した税額に限られます。それ以外の所得から源泉徴収した税額は特例の対象外で、原則どおり翌月10日までの納付が必要です。
| 支払の種類(例) | 納期の特例 | 納付期限 |
|---|---|---|
| 従業員・アルバイトの給与、賞与 | 対象 | 7月10日/翌年1月20日 |
| 退職金 | 対象 | 7月10日/翌年1月20日 |
| 税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬 | 対象 | 7月10日/翌年1月20日 |
| 上記以外の報酬・料金(例:デザイン料、原稿料など) | 対象外 | 支払った月の翌月10日 |
店舗のロゴ制作をデザイナーに依頼した、メニューの撮影をカメラマンに依頼したなど、個人への報酬で源泉徴収をした場合は特に注意が必要です。特例を使っていても、この分だけは毎月納付になります。
申請の方法と承認されるまでの流れ
納期の特例を使うには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を、給与支払事務所等の所在地を所轄する税務署に提出します。提出時期は特に定められておらず、開業時でも途中からでも申請できます。
提出後、税務署長から却下の通知がない場合は、申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされます。特例が適用されるのは、承認された月の翌月に支払う給与等からです。
| 申請書の提出月(例) | 承認とみなされる日 | 特例が適用される給与等 |
|---|---|---|
| 2026年11月 | 2026年12月31日 | 2027年1月以後に支払うもの |
上の例では、2026年11月・12月に支払う給与の源泉税は、原則どおりそれぞれ12月10日、2027年1月12日(1月10日が日曜日、11日が成人の日のため休日明けの日)が期限です。申請した月からすぐに年2回納付へ切り替わるわけではない点に注意してください。
申請書はe-Taxソフト(Web版)などで作成・提出できるほか、書面で持参または送付することもできます。初めてe-Taxを使う場合は利用者識別番号の取得が必要です。
納付の方法:e-Tax・ダイレクト納付・キャッシュレス納付
源泉所得税は、「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)」を使って納付します。紙の徴収高計算書(納付書)で金融機関や税務署の窓口で納める方法と、e-Taxでデータを送信してキャッシュレスで納める方法があります。
国税庁が案内している主な納付方法は次のとおりです。
- ダイレクト納付:e-Taxで手続きし、事前に登録した預貯金口座から引き落とす方法
- インターネットバンキング等:ネットバンキングやATMから納付する方法
- クレジットカード納付:専用の納付サイトでカード払いする方法
- スマホアプリ納付:e-Taxでデータを送信したうえで、専用サイトからスマホ決済アプリで納付する方法
- コンビニ納付・窓口納付:QRコードやバーコード付き納付書、金融機関・税務署の窓口で納付する方法
年2回の納付は忘れやすいため、ダイレクト納付で期日を指定しておく方法が便利です。クレジットカード納付は決済手数料がかかるなど方法ごとに条件が異なるため、利用前に国税庁の案内で確認してください。
なお、2027年1月1日以後は防衛特別所得税が課税され、源泉徴収税額表も変わります。国税庁の令和9年分源泉徴収税額表では、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税は同じ納期限までにまとめて納付するとされており、納期の特例の期限(7月10日・翌年1月20日)自体の変更は示されていません。
納付が遅れた場合:不納付加算税と延滞税
源泉所得税を法定納期限までに納付しなかった場合、原則として不納付加算税と延滞税がかかります。納期の特例では半年分をまとめて納めるため、加算税の計算の基になる税額も大きくなります。
不納付加算税
財務省の資料では、不納付加算税は原則10%で、税務署から納税の告知を受ける前に自主的に納付した場合などは5%とされています。また、一定の要件を満たして法定納期限から1か月以内に納付した場合や、正当な理由がある場合には課されません。
国税庁の事務運営指針では、税法の誤解や事実の誤認は「正当な理由」にあたらないとされています。「特例の期限を知らなかった」は理由にならないと考えておきましょう。
延滞税
延滞税は、法定納期限の翌日から完納する日までの日数に応じてかかります。納期限の翌日から2か月以内は「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合、2か月を過ぎると「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合です。特例基準割合は毎年変わるため、実際の割合は国税庁の「延滞税の計算方法」で確認してください。
人員が10人以上になったとき・年末調整との関係
10人以上になったら「該当しなくなったことの届出書」
出店や増員で給与の支給人員が常時10人未満でなくなった場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を遅滞なく所轄税務署に提出します。e-Taxでも書面でも提出できます。
届出をした場合、届出を提出した日の属する特例期間内に源泉徴収した税額のうち、提出月以前の各月分は提出月の翌月10日までに納付します。その後の各月分は、原則どおり毎月翌月10日までの納付に戻ります。
年末調整の過不足は1月20日の納付で精算
年末調整で生じた過納額(払い過ぎた税額)は、原則として年末調整を行った月分の源泉徴収税額から差し引いて従業員に還付します。納期の特例の承認を受けている場合は、その年7月から12月までの分の税額から差し引くことになります。
つまり、7月〜12月分の源泉税から年末調整による還付額を差し引いた残りを、翌年1月20日までに納付する流れです。還付しきれない場合はその後に納付する源泉税から順次差し引き、多額で2か月を経過しても還付しきれない見込みのときなどは、税務署に還付請求書を提出します。不足額は、年末調整を行う月分の給与から徴収し、残りはその後に支払う給与から順次徴収します。
年末調整の具体的な手順は、関連記事「年末調整の進め方」で解説しています。年末年始のほかの手続きは「12月〜1月に店舗がやるべき税務・労務の手続きまとめ」もあわせてご覧ください。
1月20日・7月10日に向けたチェックリスト
- □ 納期の特例の承認を受けているか(申請書の控え・e-Taxの送信記録)を確認した
- □ 給与の支給人員が常時10人未満であることを確認した
- □ 税理士・弁護士・司法書士以外への報酬の源泉税を毎月翌月10日に納付している
- □ 7月〜12月分の給与・賞与・税理士報酬等の源泉税額を月別に集計した
- □ 年末調整の過納額・不足額を反映して納付額を計算した
- □ 所得税徴収高計算書(納期特例分)を作成した(e-Taxまたは書面)
- □ ダイレクト納付の口座残高・引落日を確認した
- □ カレンダーに「1月20日」「7月10日(休日なら翌営業日)」を登録した
よくある質問
Q. 7月〜12月に給与を支払っていない月があっても1月20日に納付は必要ですか。
A. 期間中に源泉徴収した税額があれば、その合計を1月20日までに納付します。期間中の源泉徴収税額がない場合の徴収高計算書の扱いは、所轄税務署に確認してください。
Q. 申請書を出した月の給与から年2回納付にできますか。
A. できません。却下の通知がなければ提出月の翌月末日に承認されたものとみなされ、特例はその翌月に支払う給与等から適用されます。それまでは原則どおり翌月10日納付です。
Q. デザイナーへの報酬の源泉税も1月20日にまとめて納付できますか。
A. 納期の特例の対象は、給与・退職金と税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬に限られます。それ以外の報酬の源泉税は、支払った月の翌月10日までに納付してください。
Q. 1月20日を数日過ぎてしまいました。どうすればよいですか。
A. 気づいた時点でできるだけ早く納付してください。延滞税は日数に応じて増え、不納付加算税は自主的な納付や1か月以内の納付などで軽減・免除される場合があります。具体的な適用は税務署や税理士に確認してください。
まとめ
納期の特例を使うと、源泉所得税の納付は1月〜6月分が7月10日、7月〜12月分が翌年1月20日の年2回になります。直近では、2026年7月〜12月分の期限が2027年1月20日(水)です。
対象は給与・退職金と税理士等への一定の報酬に限られ、それ以外の報酬は毎月の納付が必要です。年末調整の過不足は1月20日の納付で精算するため、12月中に年末調整を終え、納付額を早めに確定させておきましょう。
人数が常時10人未満でなくなったら届出が必要です。期限を過ぎると不納付加算税や延滞税がかかるため、ダイレクト納付やカレンダー登録で納付漏れを防ぎましょう。