キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、2026年度(令和8年度)、有期雇用のパート・アルバイトを正社員に転換すると中小企業で1人当たり40万円、重点支援対象者なら80万円(40万円×2期)が支給されます。無期雇用からの転換はその半額で、制度を新たに就業規則に設けた場合などの加算もあります。
店舗の人手不足が続くなか、長く働いているパートを店長候補や社員に登用したい小売・外食の事業主、人事・労務担当者に役立つ制度です。ただし、転換前に計画書を出していない、賃金の増額が足りないといった理由で受給できないケースも少なくありません。
この記事では、厚生労働省の令和8年度パンフレット・リーフレットをもとに、支給額、対象者の要件、賃金3%以上増額の考え方、計画提出から申請までの手順、加算措置、短時間正社員の扱い、店舗での登用例を整理します。
2026年度の正社員化コースの支給額
支給額は「転換前の雇用形態(有期か無期か)」「企業規模」「重点支援対象者に当たるか」で決まります。重点支援対象者は2期に分けて支給され、それ以外は1期分のみです。
| 転換の内容 | 対象者区分 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|
| 有期雇用 → 正規雇用 | 重点支援対象者 | 80万円(40万円×2期) | 60万円(30万円×2期) |
| 有期雇用 → 正規雇用 | 上記以外 | 40万円(40万円×1期) | 30万円(30万円×1期) |
| 無期雇用 → 正規雇用 | 重点支援対象者 | 40万円(20万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
| 無期雇用 → 正規雇用 | 上記以外 | 20万円(20万円×1期) | 15万円(15万円×1期) |
支給申請できる人数は、1年度1事業所当たり20人が上限です(同じ対象者の2期目の申請は人数に含みません)。
重点支援対象者とは
パンフレットでは、次のいずれかに当たる人を重点支援対象者としています。
- a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
- b:雇入れから3年未満で、過去5年間に正規雇用労働者であった期間が通算1年以下、かつ過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない人
- c:派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練を修了した人
たとえば、3年以上契約更新を続けている有期のパートを正社員にする場合はaに当たり、中小企業なら80万円の対象になります。2期目は、正社員転換後12か月継続して雇用し、1期目と比べて合理的な理由なく賃金を引き下げていないことが求められます。
加算措置(1事業所当たり1回のみ)
| 加算の内容 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 正社員転換制度を新たに規定し、転換を実施 | 20万円 | 15万円 |
| 多様な正社員制度(短時間・勤務地限定・職務限定)を新たに規定し、転換を実施 | 40万円 | 30万円 |
| 正社員転換に関する情報をウェブサイト等で公表 | 20万円 | 15万円 |
中小企業が重点支援対象者a(有期)を1人転換し、正社員転換制度を新設した場合は、80万円+20万円=100万円が受給額の目安になります。加算の細かな要件は支給要領で確認してください。
対象となる労働者と「正社員」の要件
転換される労働者の主な要件
- 正規雇用労働者と異なる就業規則の適用を、通算6か月以上受けていること
- 正社員として雇用されることを前提に雇い入れられた人ではないこと
- 支給申請時点で正社員として雇用が続いていること
- 正社員転換日から定年までが1年以上あること
- 新規学卒者で、雇入れから1年未満の人ではないこと
つまり、入社時から「試用期間後に正社員にする」と約束していたケースは対象外です。採用時の求人票や雇用契約書の書き方も確認しておきましょう。
転換後の「正規雇用労働者」の条件
転換後は、期間の定めのない労働契約であり、正社員向けの就業規則が適用され、「賞与または退職金の制度」と「昇給」が適用されている必要があります。待遇が社会通念上相当な水準であることも求められます。
短時間正社員、勤務地限定正社員、職務限定正社員も正規雇用労働者に含まれます。週の所定労働時間は短くても、無期雇用で昇給・賞与等の制度があるなどの条件を満たせば対象になり得ます。子育て中のパートを「短時間正社員」として登用したい店舗にとって選択肢が広がります。
転換後の賃金3%以上増額の考え方
転換後6か月間の賃金が、転換前6か月間の賃金と比べて3%以上増額していることが要件です。比較するのは、基本給と定額で支給される諸手当を含む賃金の総額で、残業代や賞与のように変動するものは含めません。
原則として時間当たりの賃金で比較します。パートの時給を正社員の月給に換算する場合は、所定労働時間の違いで増額率が変わるため、転換前に試算しておくことが重要です。
| 項目 | 転換前(時給制パート) | 転換後(月給制正社員) |
|---|---|---|
| 賃金 | 時給1,200円 | 月給21万円(基本給+定額の手当) |
| 月の所定労働時間 | 160時間 | 168時間 |
| 時間当たり賃金 | 1,200円 | 約1,250円(21万円÷168時間) |
| 増額率 | 約4.2%(1,250円÷1,200円−1) | |
上の表は計算方法を示すための仮の例です。実際の判定は支給要領の計算方法に従い、労働局に確認してください。
計画提出から支給申請までの手順
- キャリアアップ管理者を置く:事業所ごとに、取組を進める担当者を選任します。
- キャリアアップ計画を提出する:労働組合等の意見を聴いたうえで、転換日の前日までに管轄の労働局へ提出します。
- 就業規則に転換制度を定める:パート・契約社員から正社員への転換の手続き、要件(勤続年数、面接・試験など)、実施時期を規定し、労働基準監督署へ届け出ます。
- 転換を実施する:就業規則に沿って試験・面接などを行い、正社員として新しい雇用契約を結びます。
- 正社員として6か月分の賃金を支払う:賃金台帳と出勤簿を整え、3%以上の増額を確認します。
- 支給申請を行う:正社員として6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請します。重点支援対象者は、さらに6か月後に2期目を申請します。
最も多い失敗は、計画書の提出前に転換してしまうことと、申請期限を過ぎることです。申請期限は「6か月分の賃金の支給日」が起点なので、締め日ではなく支払日で数える点に注意してください。
スケジュールの例
月末締め・翌月25日払いの店舗で、2026年11月1日に正社員へ転換する場合を考えます。キャリアアップ計画は前日の10月31日までに提出が必要です(行政機関の休日の扱いは労働局に確認してください)。
正社員としての賃金は11月分〜翌年4月分の6か月分が対象となり、6か月分目の4月分が支払われるのは2027年5月25日です。その翌日から2か月以内、つまり2027年7月25日ごろまでが1期目の申請期限の目安になります。期限が近づいてから書類をそろえると間に合わないことがあるため、転換時点で賃金台帳・出勤簿・雇用契約書の保管ルールを決めておくと安心です。
事前に確認したいチェックリスト
- □ 雇用保険の適用事業所である
- □ キャリアアップ管理者を選任した
- □ 転換日の前日までにキャリアアップ計画を労働局へ提出した
- □ 就業規則に正社員転換制度を規定し、届け出た
- □ 対象者は正社員以外の就業規則で通算6か月以上雇用されている
- □ 採用時に正社員登用を約束していない
- □ 転換後の正社員に賞与または退職金の制度と昇給がある
- □ 転換後6か月の賃金が転換前6か月より3%以上増える見込みである
- □ 6か月分の賃金支給日から2か月以内の申請日をカレンダーに入れた
小売・外食店舗での登用例
ここでは、制度の使い方をイメージするための例を示します(実在企業の事例ではありません)。
例1:スーパーの青果部門で4年間契約更新を続けている有期パートを、部門リーダーの正社員に登用するケースです。雇入れから3年以上の有期雇用なので重点支援対象者aに当たり、中小企業なら2期で80万円が対象です。正社員転換制度を初めて就業規則に設ければ、加算20万円も検討できます。
例2:飲食店で週30時間働く子育て中のアルバイトを、週30時間の短時間正社員として登用するケースです。短時間正社員制度を新たに規定し転換すれば、多様な正社員制度の加算(中小企業40万円)の対象になり得ます。時給から月給へ換算した時間単価が3%以上上がるよう、賃金を設計しておく必要があります。
他のコースとの関係
キャリアアップ助成金には、正社員化コースのほかに、有期雇用労働者等の基本給を定めた賃金規定を3%以上増額改定した場合の「賃金規定等改定コース」(中小企業で1人当たり4万円〜7万円)や、パートの週所定労働時間を延ばして社会保険に加入させた場合の「短時間労働者労働時間延長支援コース」などがあります。正社員登用までは考えていないものの、時給アップや社会保険加入を進めたい店舗は、こちらも検討するとよいでしょう。社会保険の加入基準の見直しについては、関連記事「106万円の壁撤廃」もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. アルバイトから契約社員(有期)にするだけでも対象になりますか。
A. 対象になりません。転換後は期間の定めのない正規雇用労働者(短時間正社員などの多様な正社員を含む)である必要があります。
Q. キャリアアップ計画を出す前に正社員にしてしまいました。
A. 計画は転換日の前日までの提出が要件のため、すでに転換した人は原則として対象外です。次の転換に備えて、先に計画を提出しておきましょう。
Q. 入社半年未満のパートを正社員にしても対象になりますか。
A. 正規雇用労働者と異なる就業規則の適用を通算6か月以上受けていることが要件です。6か月を超えてから転換するよう時期を調整してください。
Q. 有期契約から無期契約に転換したパートを、その後正社員にしても対象ですか。
A. 無期雇用から正規雇用への転換として対象になり得ます。支給額は有期からの転換の半額(中小企業で20万円、重点支援対象者は40万円)です。労働契約法の無期転換ルールで無期になった人も同様に考えられますが、個別の要件は労働局に確認してください。
Q. 1店舗で何人まで申請できますか。
A. 1年度1事業所当たり20人が上限です。同じ対象者の2期目の申請はこの人数に含みません。
まとめ
2026年度の正社員化コースは、有期から正社員への転換で中小企業1人当たり40万円、重点支援対象者なら80万円です。無期からの転換は半額で、転換制度や多様な正社員制度の新設、情報公表には1事業所1回の加算があります。
受給の鍵は、転換前日までのキャリアアップ計画提出、就業規則の整備、転換後6か月の賃金3%以上増額、そして6か月分の賃金支給日から2か月以内の申請です。要件は年度ごとに見直されるため、最新の支給要領を確認し、不明点は管轄の労働局に相談してください。