2026年分の「年収の壁」は、税と社会保険で金額も判定方法も違うため、まず「どの壁の話か」を確認してから答えるのが基本です。所得税は令和8年度税制改正で基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、勤務先の社会保険は2026年10月1日に賃金要件(月額8.8万円)が撤廃されました。

この記事は、10〜12月にパート・アルバイトから「あと何時間働けますか」「扶養から外れませんか」と聞かれる小売・外食の店長と給与担当者向けです。店として答えてよい範囲と、本人や家族に確認してもらう範囲を分けて整理します。

内容は、2026年時点の壁の早見表、税・住民税・社会保険の扶養・勤務先の社会保険の考え方、説明用の例文、年末シフトの組み方、事業主の証明による一時的な収入増の扱いです。

2026年の「年収の壁」早見表

まず全体像です。金額はいずれも給与収入だけの場合の目安で、税は1〜12月の1年分、社会保険の扶養はこれから先1年間の見込みで判定する点が大きな違いです。

区分誰の負担・控除に関係するか2026年の目安ポイント
本人の所得税パート本人給与収入178万円以下なら所得税がかからない2025年分は160万円。令和8年分の基礎控除104万円+給与所得控除74万円で計算
本人の住民税パート本人自治体により異なる例:北九州市は単身者で110万円から119万円へ(2026年中の収入、2027年度住民税から)
配偶者控除・配偶者特別控除夫または妻(税)配偶者の給与収入136万円以下は配偶者控除、136万円超207万円以下は配偶者特別控除配偶者特別控除は収入が増えると段階的に減る
扶養控除・特定親族特別控除親など(税)子の給与収入136万円以下は扶養控除、19〜22歳の子は136万円超197万円以下で特定親族特別控除特定親族特別控除も段階的に減る
社会保険の扶養(健康保険の被扶養者)本人と家族年間収入130万円未満(19歳以上23歳未満は150万円未満、60歳以上は180万円未満)2026年4月から労働契約の内容で判定する取扱いが始まった
勤務先の社会保険加入本人と店週の所定労働時間20時間以上(従業員51人以上の企業など)2026年10月1日に賃金要件(月額8.8万円、いわゆる106万円)を撤廃

178万円は、令和8年分の基礎控除104万円(合計所得金額132万円以下の居住者の場合)と給与所得控除74万円を足した金額です。給与収入178万円から給与所得控除74万円を引くと所得は104万円となり、基礎控除104万円を引くと課税所得はゼロになります。

税の壁:本人の所得税・住民税と、家族の控除

本人の所得税は178万円が目安

国税庁の資料では、令和8年分の基礎控除は合計所得金額132万円以下(給与収入206万円以下)で104万円、給与所得控除の最低保障額は65万円から74万円に引き上げられました。改正は2026年12月1日施行で、2026年分の所得税に適用されます。

ただし、11月までの毎月の源泉徴収は改正前の税額表のままです。そのため、収入が178万円以下でも毎月の給与から所得税が引かれている人がいますが、その分は12月の年末調整で精算されます。

住民税は自治体ごとに確認する

住民税は所得税と控除の仕組みが異なり、非課税となる収入の基準も自治体(扶養家族の有無など)によって違います。たとえば北九州市は、単身者の住民税が非課税となる給与収入を110万円から119万円になると案内しています(2026年中の収入にかかる2027年度住民税から)。店では「住民税はお住まいの市区町村で確認してください」と伝えるのが確実です。

配偶者や親の控除は「家族側」の話

扶養親族と同一生計配偶者の所得要件は、合計所得金額58万円以下から62万円以下に引き上げられ、給与収入に直すと123万円以下から136万円以下になりました。配偶者特別控除の対象は給与収入136万円超207万円以下、19〜22歳の子(特定親族)の特定親族特別控除は136万円超197万円以下です。

国税庁の資料では、配偶者特別控除は配偶者の給与収入136万円超159万円以下で満額38万円(納税者本人の合計所得金額900万円以下の場合)、特定親族特別控除は同じ範囲で63万円とされ、それを超えると段階的に減ります。家族の税額がいくら変わるかは家族側の収入で決まるため、店では計算しません。

社会保険の壁:扶養と勤務先での加入

健康保険の扶養は130万円、判定は労働契約ベースに

日本年金機構によると、2026年4月1日以降は、労働条件通知書などに書かれた賃金から見込まれる年間収入が130万円未満で、ほかの収入が見込まれない場合、原則として被扶養者として扱われます(同一世帯なら被保険者の年収の2分の1未満などの条件あり)。賃金には諸手当と賞与も含まれるため、通勤手当も含めて考える必要があります。

基準額は、19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)が150万円未満、60歳以上などが180万円未満です。19歳以上23歳未満かどうかは、認定日を含む年の12月31日時点の年齢で判定します。

厚生労働省の通知では、認定時に想定されなかった臨時収入で結果的に130万円以上になっても、社会通念上妥当な範囲なら扶養の取扱いを変える必要はないとしています。一方、契約期間が1年未満の場合や、「シフト制による」など労働時間が不明確な契約は、この方法の対象外とされています。家族の勤務先の健康保険組合によって運用が異なる場合もあるため、最終確認は家族の勤務先経由でしてもらいます。

勤務先の社会保険は「週20時間」が軸

2026年10月1日、短時間労働者の賃金要件(所定内賃金月額8.8万円以上)が撤廃されました。現在の主な加入要件は、週の所定労働時間20時間以上、従業員51人以上の企業、学生でないことなどです。

企業規模要件は段階的に縮小され、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上の企業が対象になる予定です(厚生労働省)。年末に「年収をいくらに抑えれば社会保険に入らなくてよいか」と聞かれたら、今は金額ではなく契約上の週の労働時間で決まると説明します。

店側が言えること・言えないこと

店が答えてよいこと本人・家族・専門家に確認してもらうこと
1〜12月に支払った給与の合計額(今年の支給実績)本人や家族の税額がいくらになるか
契約上の週の所定労働時間と時給家族の健康保険の扶養から外れるかの最終判断
店の社会保険の加入要件と、週20時間を超えた場合の扱い住民税の非課税ライン(市区町村)
公表されている基準額(178万円、130万円など)の紹介ほかの収入(掛け持ち先、年金など)を含めた判断

個別の税額の判断は税務署や税理士、扶養の判断は家族が加入する健康保険の保険者の領分です。店が「大丈夫です」と言い切ると、掛け持ち収入などを見落としたときにトラブルになります。

説明用の例文

「今年1月から10月にお支払いした給与は合計○○円です。所得税は2026年分から給与収入178万円までかからない目安ですが、住民税はお住まいの市区町村で基準が違います。」

「ご家族の健康保険の扶養は、年間130万円未満が目安で、2026年4月からは労働契約の内容で判定されます。最終的な判断はご家族の勤務先や健康保険組合に確認してください。」

「当店では、契約上の労働時間が週20時間以上になると社会保険の加入対象になります。年収ではなく労働時間で決まります。」

年末シフトの組み方と一時的な収入増

残りの枠は「支給日ベース」で数える

税の年収は、その年の1〜12月に支払いが確定した給与で数えるのが原則です。たとえば月末締め翌月払いの店では、12月に働いた分は翌年1月の支給になり、2026年分には入りません。

計算例です。1〜10月の支給合計が150万円の人が178万円以内に収めたい場合、11月・12月支給分の枠は28万円です。時給1,200円なら、280,000円÷1,200円=約233時間が上限の目安になります(深夜割増や手当があればその分少なくなります)。

人手不足のときは事業主の証明を使う

年末の繁忙期に人手不足で労働時間が延び、一時的に年収が130万円以上になる場合は、一時的な収入増である旨の事業主の証明を添付すると、原則として連続2回まで扶養にとどまれます。厚生労働省は、この「年収の壁・支援強化パッケージ」の取扱いが恒久化されたと案内しています。

なお、社会保険加入に伴う収入増の取組を支援するキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)は、2026年3月31日までに適用した事業主が対象で、2026年4月以降は「短時間労働者労働時間延長支援コース」が案内されています。

年末対応のチェックリスト

  • □ 扶養内希望のパートを一覧にし、1〜10月の支給額を出したか
  • □ 締め日と支給日から、2026年分に入る最後の給与を確認したか
  • □ 本人が意識している壁(178万円、130万円、150万円など)を聞き取ったか
  • □ 契約上の週の所定労働時間が20時間以上になっていないか確認したか
  • □ 労働条件通知書に時給・労働時間・手当額が明記されているか
  • □ 一時的な増加になりそうな人に、事業主の証明の書式を用意したか
  • □ 家族の扶養判断は家族の勤務先で確認するよう伝えたか

よくある質問

Q. 「103万円の壁」はもう気にしなくてよいのですか。

A. 2026年分の所得税では、本人に所得税がかからない目安は178万円、配偶者控除や扶養控除の対象になる上限は給与収入136万円です。ただし住民税や社会保険の基準は別なので、「どの制度の話か」を合わせて確認してください。

Q. 年収が178万円以下なのに毎月所得税が引かれています。

A. 11月までは改正前の源泉徴収税額表で計算しているためです。扶養控除等申告書を出していれば、12月の年末調整で改正後の控除を使って精算されます。

Q. 12月に残業が増えて130万円を少し超えそうです。

A. 契約内容で判定する取扱いでは、想定外の臨時収入が社会通念上妥当な範囲なら扶養の取扱いを変える必要はないとされています。人手不足による一時的な増加なら事業主の証明も使えますが、最終判断は家族の健康保険の保険者です。

Q. 19歳の学生アルバイトはいくらまで働けますか。

A. 親の税の扶養控除は給与収入136万円以下、特定親族特別控除は197万円以下まで段階的に適用されます。健康保険の扶養は150万円未満が目安です。本人の所得税は178万円まではかかりません。

まとめ

2026年の年収の壁は、本人の所得税178万円、家族の扶養控除136万円、健康保険の扶養130万円(19〜22歳は150万円)、勤務先の社会保険は週20時間と、基準が分かれています。税は1〜12月の支給額、社会保険の扶養は労働契約から見込まれる年収で判定する点を押さえると説明しやすくなります。

店は支給実績と契約内容を正確に伝え、税額や扶養の最終判断は税務署・税理士・家族の勤務先に委ねるのが安全です。関連記事「106万円の壁撤廃」「2026年の年末調整はここが変わる」もあわせて確認してください。

出典