パート・アルバイトの社会保険加入の目安だった「106万円の壁」が、2026年10月1日に撤廃されます。社会保険加入の要件のうち「月額賃金8.8万円以上」がなくなり、週20時間以上働く人は、年収にかかわらず加入対象になります。

さらに2027年10月からは、社会保険の適用対象となる企業の規模も段階的に広がります。パート比率の高い小売・外食では、保険料負担とシフトの組み方の両方に影響します。この記事では、何がいつ変わるのか、自社が対象になる時期、使える支援策を整理します。

何が変わる?2025年年金制度改正法のポイント

根拠は2025年6月13日に成立した年金制度改正法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律、6月20日公布)です。パートの社会保険加入に関わる主な改正は次の3つです。

改正内容時期店舗への影響
賃金要件(月額8.8万円)の撤廃2026年10月1日週20時間以上なら年収に関係なく加入
企業規模要件の段階的撤廃2027年10月〜2035年10月中小チェーンも順次対象に
個人事業所の適用業種の拡大2029年10月個人経営の飲食店(5人以上・新設)も対象に

賃金要件の撤廃は「全国の最低賃金が1,016円以上になった後、公布から3年以内に政令で定める日」とされていました。1,016円で週20時間働くと、年収がちょうど106万円前後になるためです。2026年度の最低賃金は最も低い宮崎でも1,085円となり、施行日は2026年10月1日に決まりました。

社会保険の加入要件:改正前と改正後

要件2026年9月まで2026年10月から
週の所定労働時間20時間以上20時間以上(変更なし)
月額賃金8.8万円以上要件なし
雇用見込み2か月超2か月超(変更なし)
学生対象外対象外(変更なし)
企業規模従業員51人以上51人以上(2027年10月から段階的に縮小)

今後の基準は「年収106万円」ではなく「週20時間」になります。業界では「週20時間の壁」とも呼ばれています。

2026年度の最低賃金で週20時間働くと、最も低い県でも月額はおよそ9.4万円(1,085円×週20時間×52週÷12か月)で、すでに8.8万円を超えます。そのため、賃金要件の撤廃だけで新たに加入する人は多くありません。実務上の意味は、加入の判断が「週20時間以上かどうか」の一本に絞られた点にあります。「年収106万円未満に抑えれば加入しなくてよい」という従来の説明は、10月以降は通用しません。スタッフへの案内や求人票の表現を見直しておきましょう。

また、企業規模の要件はまだ残っています。2026年10月の時点で週20時間以上のパートが加入義務の対象になるのは、従業員(厚生年金の被保険者)51人以上の企業です。

自社はいつから対象?企業規模要件のスケジュール

パートの社会保険加入が義務になる企業の規模は、次のように広がります(人数は厚生年金の被保険者数)。

企業規模適用開始
51人以上適用済み(2024年10月から)
36〜50人2027年10月
21〜35人2029年10月
11〜20人2032年10月
10人以下2035年10月(企業規模要件が撤廃)

基準に達していない企業も、労使の合意があれば任意に加入させることができます(任意特定適用事業所)。人材確保の観点から、あえて早めに加入を進める企業もあります。

個人経営の店はどうなる?

個人事業所は、常時5人以上を雇い、かつ法定の17業種に当たる場合に社会保険の強制適用になります。

  • 個人経営の小売店:物品販売業は17業種に含まれるため、5人以上ならすでに強制適用です。
  • 個人経営の飲食店:飲食サービス業はこれまで対象外でした。2029年10月からは業種を問わず5人以上で適用になりますが、施行時点ですでにある事業所は当分の間対象外です。2029年10月以降に新しく開業する5人以上の店が対象になります。
  • 法人経営の店:法人はもともと1人から強制適用です。パートの加入は上の企業規模スケジュールで決まります。

保険料負担はどれくらい増える?

社会保険料(厚生年金・健康保険)は、原則として会社と本人が半分ずつ負担します。会社負担は標準報酬月額のおよそ15%前後です(健康保険料率は都道府県・保険者によって異なります)。

例えば月収9万円のパートが10人加入すると、会社負担は月におよそ13.5万円、年間で約160万円増える計算です。2027年10月に新たに対象となる36〜50人規模のチェーンでは、対象者の洗い出しと人件費予算の見直しが欠かせません。

本人にとっては手取りが減る一方、将来の厚生年金が増え、病気やけがで休んだときの傷病手当金、出産手当金を受けられるようになります。スタッフに説明するときは、手取りの減少だけでなく保障の中身も伝えることが大切です。

知らないと損する支援策

1. 保険料調整制度(本人負担の軽減)

2026年10月から、新たに社会保険に加入する短時間労働者の保険料を、会社が労使折半を超えて負担できる特例が始まります。会社が多く負担した分は、制度全体で後から支援されます。

  • 対象者:新たに加入した短時間労働者で、標準報酬月額が12.6万円以下の人
  • 期間:通算3年間(3年目は軽減の割合が半分)
  • 負担割合の例:標準報酬月額8.8万円以下なら、1〜2年目は本人25:会社75
  • 対象となる事業所:従業員50人以下の事業所。2026年10月以降に任意適用した事業所から始まり、2027年10月以降は法律で新たに適用される事業所に広がる
  • 注意:事業主の申し出が必要で、始めると途中でやめられない。賞与の保険料は対象外

「手取りが減るなら勤務時間を減らしたい」というスタッフの就業調整を防ぐ手段として、中小のチェーンは特に検討する価値があります。

2. キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)

パートの週所定労働時間を延ばして社会保険に加入させた場合に使える助成金です。

  • 1年目:週の所定労働時間を5時間以上延長する(または延長と賃上げを組み合わせる)と、中小企業で1人40万円、小規模企業で50万円
  • 2年目:さらに2時間以上の延長や5%以上の賃上げなどで、中小企業20万円、小規模企業25万円
  • 合計で1人あたり最大75万円

なお、以前の「社会保険適用時処遇改善コース」は2026年3月末までの取組で終了しています。

ほかの「年収の壁」も同時に動いている

壁内容最近の変更
106万円の壁勤務先の社会保険に加入2026年10月1日撤廃(週20時間基準へ)
130万円の壁家族の扶養から外れ、自分で社会保険に加入19〜22歳は2025年10月から150万円未満に。2026年4月から労働契約の内容で年収を判定
所得税の壁本人に所得税がかかる2025年分は160万円、2026年分から178万円に引上げ

130万円の判定は、2026年4月から労働条件通知書などに書かれた賃金で見込むようになりました。契約時に見込めない臨時の残業代は含めません。繁忙期に一時的に残業が増えても扶養から外れにくくなったので、年末のシフトをお願いしやすくなっています。

店舗がやるべき準備

  • □ 自社の厚生年金被保険者数を確認し、適用時期(適用済みか、2027年10月か、2029年10月か)を把握した
  • □ 週20時間前後で働くスタッフの所定労働時間と実労働時間を確認した
  • □ 「106万円未満なら加入不要」としていた社内資料・求人票の表現を改めた
  • □ 対象スタッフに、手取りの変化と保障の内容を説明した
  • □ 「週20時間未満に抑えたい」「加入してでも長く働きたい」の意向を確認した
  • □ シフト表と人件費予算に、会社負担分の保険料を織り込んだ
  • □ 保険料調整制度とキャリアアップ助成金を使えるか確認した

よくある質問

Q. 週20時間未満なら、年収がいくらでも加入しなくてよいですか?

A. 勤務先の社会保険の加入要件は満たしません。ただし年収130万円(19〜22歳は150万円)以上になると家族の扶養から外れ、国民年金・国民健康保険に自分で加入する必要があります。

Q. 所定は週18時間でも、実際は毎週22時間働いているスタッフは?

A. 実際の労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、今後も続く見込みがあれば、3か月目から加入対象になります。契約と実態がずれていないか確認しましょう。

Q. 学生アルバイトも加入が必要ですか?

A. 昼間部の学生は対象外のままです。夜間・通信制の学生や休学中の人は対象になり得ます。

まとめ

106万円の壁の撤廃で、パートの社会保険は「年収」ではなく「週20時間」で判断する時代になりました。51人以上の企業は判断基準の変更への対応を、36〜50人の企業は2027年10月の適用開始に向けた準備を今から進める必要があります。保険料調整制度や助成金を活用しつつ、スタッフ一人ひとりの働き方の希望を確認し、シフトと人件費の計画を見直しましょう。

出典